「今も忘れられない」コンピューター上で設計された世界初の自動車

Photography:Mercedes-Benz and Steffen Jahn

メルセデス・ベンツがヴァンケル・ロータリーエンジンを搭載したスーパーカーを発表してから2020年でちょうど50周年である。無数の速度記録を樹立したそのC111-Ⅱを私たちが今も忘れられないのはなぜだろう?

C111のボディカラーはオレンジのように見えるが、このカラーはドイツ語で"weissherbst"と呼ばれるもので、直訳すれば「白い秋」となる(訳註:ヴァイスヘルブストは白ワインから来ているのだと思われるが、英国人はあえて無視しているのか言及していない)。
 
グラスファイバー製ボディワークはもちろん、その中身も"ブロンズ"でもない。メルセデス・ベンツのスーパースポーツカー(とは彼らの言い分で私のではない)は、1970年3月のジュネーヴ・ショーに突如姿を現した。2.4リッター クワッドローター・ヴァンケルエンジンを積んだこの車は、最高速300km/h(188mph)と0-62mph加速4.8秒を主張していた。後にその最高速はずいぶんと控えめだったことが判明したが、いくつもの速度記録を打ち立てたにもかかわらず、その後、扱いにくいエンジンはメルセデス自身のミュージアムにしまい込まれてしまったのである。
 


いうまでもなく、C111はその前から存在していた。第1世代のC111は、1969年には技術研究用のプロトタイプ以上のものに位置付けられていたが、ジュネーヴ・ショーでのお披露目に当たって、デザイン部門を率いるブルーノ・サッコと同僚のヨゼフ・ガリッツェンドルファーは、機能性にわずかなスタイルのスパイスを振りかけたのである。その後風洞に持ち込んだ結果、空気抵抗は8% 低減され、Cd=0.325を達成したという。

続いてはエンジニアたちの出番だった。メルセデス・ベンツがモータースポーツ活動から撤退した後、乗用車開発部門のボスに就任したルドルフ・ウーレンハウトは、いくつかの実用的な改善を要求した。実用的なトランクルームに加えて、ルーフにスキーを積めるようにすることと、ウーレンハウト自らの「バターテスト」をパスすることである。それは現実的な速度で走っても、"ミドシップされたエンジンからの熱でトランクに積んだバターのパックが溶けない"というもので、C111は無事にそのテストに合格した。 

編集翻訳:高平高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words:Glen Waddington Photography:Mercedes-Benz and Steffen Jahn

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