アルファロメオに「どっぷり」イタリアンクラシックが並ぶフランスのガレージを訪ねる

Photography:Tomonari SAKURAI

パリから南へ。オルリー空港に近いヴィスーという街には工業地帯がある。工業地帯といっても、工場というよりは倉庫街に近い。ここをよく通るのだが、そこにはちょっと古めのアルファが敷地に置ききれずに路上にもあふれるように駐車されている。気にはなっていたが今回初めて足を踏み入れてみた。

ESPACE CENTURY(エスパス・センチュリー)。ここは1950年から1990年代のアルファロメをメインにしたガレージだ。フランスでガレージというと車屋や修理工場を表すが、特にここはイタリア車を中心としたヴィンテージカーの愛好家のための場所だという。オーナーのジャン=ポール・パオラン氏は「ヴィンテージカー、特にアルファロメを探している人のためにその車を探したり、すでにオーナーならばその車両のメンテナンスやレストアをしたり、あるいは興味がある、試してみたいという人にはレンタルしてラリーやイベントのサポートをする」という。そのため、ここにある車両はいくつか顧客の預かり物だがほとんどがエスパス・センチュリーのもの。

倉庫街で決して目立たないガレージ。しかしその路上はアルファやランチアとイタリア車があふれている。
 
ガレージに入ってすぐに並んだ、深紅のイタリアンレッドにボンネットは黒に統一されたチームカラーのランチア・フルビアHFやアルファロメオTiは、本来ならちょうどここを訪れた2月3日はモンテカルロを駆け抜けていたはずだった。モンテカルロ・クラシックはコロナのためキャンセルとなってしまったのだ。それも、開催数日前にキャンセルを決定したということもあり、車はすべて準備を整えた状態になっているのだ。クラシックカーラリーを楽しみたいというエンスージアストにレンタルすることになっていたのだ。中には常連で毎年アメリカから来るエンスーもいるという。また、実際に乗ってラリーに出ると、アルファの素晴らしさを知り、そのままオーナーになってしまうケースも多いという。

ラリー・モンテカルロ・ヒストリックに参加するため万全の準備が整っている車両。コロナウイルスの影響で急遽中止になってしまった。

ジャン=ピエール氏お気に入りのジュリア。

 
ジャン=ポール氏は若き日に見たラリーのヨーロッパ選手権でのアルファの活躍に魅了された。アルファロメオはレーシングカーではなく、一般の市販車でありながらも、レースにおいてレーシングマシンと同様なパフォーマンスを兼ね備えていることに強く惹かれた。ようやく免許を取れる年になりアルファロメオと決心したところ父親に反対されて購入できなかった。その反動で、今はアルファロメオにどっぷり浸かった人生になったのだという。

GTV6のエンジンをかけてくれた。

 
元々車のパーツ販売を手がけており、そこで知り合ったアルファロメオ専門店を2003年に買い受けた。その頃はこの場所ではなく隣町のチリーマザランという街にあった。2016年、奥さんと共にツール・ド・コルス・ヒストリックに参戦中「ガレージが燃えている!」という連絡を受けラリーを途中棄権してガレージに駆けつけた。そこは無残な焼け野原となっていた。そして今のこのヴィスーに移転したのだという。

2016年の火事で無残に燃えたアルファ…

 
ここでは板金塗装、エンジン、ミッションの再生、修理から組み立てまですべてをまかなう。特にエンジンは年間に50基以上をレストアしている。その評判はヨーロッパ中に知れ渡り、フランス国内は当然ながらドイツやなんと本国イタリアからの依頼がある。自分のガレージでのレストアはフルレストアを終えると1000kmの慣らしをここで行う。この慣らしが終わった後に再度全塗装、エンジン、ミッションもすべてばらしてから組み直す。完璧な状態で顧客に渡す。そのためエンジンは5年、車体廻りは10年の保証が付くという。

奥にある整備工場。小さいスペースなのでそれぞれの部屋で働ける整備士の数が決められてしまってフルで稼働できないという。

ミッションの組み立て中。

 
「サーキットのレースは車にお金をかけて仕上げていき、走る時は勝つために走る。それが自分には合わない。ラリーのように市販車をちょっといじって、楽しみながら走れるのが良い」本来ならモンテカルロ・クラシックに始まり、ツアーオートにツール・ド・コルス、トロフェ・デ・アルプ、それにラリー・デ・プランセスと年間にヒストリックなラリーイベントで大忙しになるのだ。

アルファに囲まれて思わず笑みがでるオーナのジャン=ポール氏
(Mr.PAOLIN Jean-Paul)


奥様はラリー・デ・プランセスに5回出場している。現在ジャン=ポール氏は左手に障害があ
りラリーに出るときはパワステのランチャ・ベータ・クーペを駆る。また、エスパス・センチュリー自ら顧客向けに企画したツアーを2年に一度行いヨーロッパの各地を走ったりしているという。アルファロメオとラリーへの情熱がつまったガレージだったのだ。

Photography & Words: Tomonari SAKURAI

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