腕時計におけるスーパーレッジェーラの価値とは?「視覚的に軽さを追求する」

繊細な構造やデザインは、人間に軽さを感じさせる。例えば建築の場合は、1階をピロティ構造にしたり、ファサードをガラス張りにしたりすることで、大きなビルであっても全体の重厚感を軽減させることができる。また、ソファや椅子などの家具であれば、脚部分をなるべく細くすることで軽やかさを演出する。
 
その手法は時計のデザインにも有効だ。時計界において"軽やかに見える"モデルというと、スケルトン仕上げということになるだろう。ムーブメントパーツを支える基盤となる地板やパーツを固定するブリッジなどのパーツを徹底的に肉抜き加工するスケルトン仕上げは、懐中時計の時代から存在していた。といっても当時は"軽い"ということに価値はなく、オープンワークの美しさと職人技、メカニズムの精緻さを楽しむ技法として愛されてきた。しかし20世紀になり腕時計の時代が始まると、実用性ではないとの理由から一時期は姿が消えてしまう。そしてスマホ時代が到来し、腕時計が再び嗜好品となると、小さなムーブメントを丁寧に仕上げる精密さや美的探究心へのこだわりが評価され、再びスケルトンウォッチが数多く作られるようになっている。
 
現代のスケルトンウォッチの魅力は、その軽やかなデザイン性の高さにある。かつてのスケルトンウォッチは既存のムーブメントをスケルトン仕上げしていたが、現在は肉抜きした後のビジュアルを考えながらムーブメントを専用設計している。ロジェ・デュブイであれば星形のブリッジを考案し、カルティエであればグラフィカルなローマ数字インデックスをそのままスケルトンムーブメントにするなど、軽やかさをデザインに取り入れているのだ。
 
始めからスケルトン前提で設計しているため、表現は大胆になり、しかも細部まで見通せるというのも楽しい。もちろんパーツに使用される金属量も少ないので、物理的な軽さも実感できるだろう。こういった時計を手元に合わせれば、程よく抜け感が生まれる。遊び心を利かせた時計たちだ。


スケルトン構造をデザイン化する
ROGER DUBUIS エクスカリバー オートマティック スケルトン

スケルトンムーブメントのブリッジを、星形に設計したモダンウォッチ。しかも星の角がインデックスを指し示すなど、かなり細やかなテクニックを駆使している。機構全体が浮遊しているように見えるだけでなく、11時位置のマイクロローターまでスケルトン加工になっており、その完成度には驚かされる。ピクセルカモ柄のストラップも選択可能(別売)。自動巻き、チタンケース、ケース径42㎜。660万円


美と技の完璧なる調和
サントス ドゥ カルティエスケルトン ウォッチ

1904年に誕生した世界初の男性用実用腕時計をルーツにもつ「サントス ドゥ カルティエ」。そのスケルトンモデルは、時計の特徴でもあるエレガントなローマ数字インデックスを大型化して、そのままスケルトンムーブメントのブリッジとしている。歴史的価値とデザインの美しさの両方を楽しむ稀有な時計だ。手巻き、SS ケース、ケース縦47.5×横39.8㎜。294万円/カルティエ カスタマー サービスセンター TEL:0120-301-757


完璧なるシンメトリー
ネビュラ 38スチール

美観を意識してパーツを配置しており、完璧な対称形を作り出した。10時位置と2時位置には動力用のゼンマイが収まり、連続駆動時間は約90時間。そして5時位置がテンプで7時位置がスモールセコンド。スッキリとしたレイアウトなので、どのように力が伝達して時計が動いているのかがよくわかる。ちなみに「ネビュラ」とは“星雲”の意味。手巻き、SS ケース、ケース径38㎜。160万円/アーノルド&サン相談室  TEL:0570-03-1764


表現豊かなモダンクラシック
グラン・セコンド スケルトンプラズマセラミック

大きな秒表示が目を惹く「グラン・セコンド」は、18世紀に活躍した伝説の時計師ジャケ・ドローが好んだスタイル。その伝統を受け継ぎつつ、ムーブメントをスケルトン化した。秒表示などを透明なサファイアクリスタルで製作するため、繊細なブリッジがよく見える。ケースはメタリック色だが、実はセラミック素材。自動巻き、プラズマセラミックケース、ケース径41.5㎜。257万円/ジャケ・ドロー ブティック銀座 TEL:03-6254-7288

文:篠田哲生 Words:Tetsuo SHINODA

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