ほとんど偶然の産物で誕生したミニ・クラブマン・エステート

この記事は『人の興味をかき立てる!ユニークにチューンアップされたミニ2台』の続きです。

クラブマン・エステートも、ほとんど偶然の産物だった。その話もやはり変わっている。再びバーネットに話を聞こう。「カントリーマンの古い写真を見ていたら、クラブマン・エステートが後ろに写っている写真があったんだ。その時は何とも思わなかったが、頭が勝手に考え始めた。『あれは70年代か80年代の車だな。ジェリー・マーシャル・トロフィーのためにクラブマン・エステートのレーシングカーを造ったら、グッドウッドは興味を持ってくれるだろうか…』とね。てっきり、『正気じゃない』と言われるものと覚悟していたら、なかなかいいアイデアだと認めてくれた」

 
当時の前例があったカントリーマンと違って、クラブマン・エステートでレースをした者は誰もいなかった。少なくとも、シンプルなレース仕様では。というのも、ほとんど知られてはいないが、1970年代後半に、ジンジャー・マーシャルがミニ・クラブマン・エステートでスペシャル・サルーンレースに出走していたことを、バーネットは発見したのである。



セミ・スペースフレームにあの箱形のボディをまとい、当初は970ccのクーパーSエンジンを搭載(やがてミニのギアボックスにヒルマン・インプのブロックとヘッドを組み合わせた自家製に進化)して、選手権を制覇する大成功を収めた。バーネットにとっては、クラブマン・エステート・レーサーを造る絶好の口実になった。完全に腐食が進んだカントリーマンで苦労をした経験から、同じ過ちは犯すまいとバーネットは心に決めていた。今回のベースとなったクラブマン・エステートは、目を見張るほど保存状態がよかった。あまりにもよいので、手を加えるのを躊躇したほどだ。

「この車はかなりの値段だったので最初は候補から外していたけれど、そのあと数カ月にわたってボロボロの車を見ることになったから、いまだに売りに出ているのを知って、確認しにいったんだ。すると新品同然だった。すべてのパネルがオリジナルで、新車当時からのオーナーは二人、走行距離もわずかだ。購入してからも、会社のSNSでこの話をするべきか迷ったよ。レーシングカーへのコンバートを非難されるのではないかと思ってね。だけど実のところ私たちは、誰もほしがらないこの車に、エキサイティングな新しい人生を与えてやったんだ」


 
マーシャル&フレーザー・レーシングチームと同じカラーリングにして、素晴らしいオマージュになった。どこから見ても1970年代のレーシングカーらしく、ジェリー・マーシャル・トロフィーにぴったりだ。カントリーマンと同じように、今回も1275GTのレース仕様で使うコンポーネントにそっくり交換したので、作業はこの上なくシンプルだった。
 
2台並んでグッドウッドのスタートラインに佇む姿は、たまらなく魅力的で、まるでおもちゃのようだ。手でルーフをつかんでカーペットの上を走らせるわけにはいかないが、そんなふうに遊びたい衝動に駆られる。この車を見て心をわしづかみにされない人がいるだろうか。だが、ベン・スイフトがエンジンのウォームアップを始めると、愛らしさはかき消えた。レースチューンを施された2台のAシリーズエンジンが、けたたましい音で静寂を破り、鼻にツンと来る排気の臭いが立ちこめる。こう見えても、れっきとしたレーシングカーなのである。スズメバチのようにエネルギッシュに空気を震わせ、走り出したくてウズウズしているのが分かる。


どこか謎めいたところもあるエステート・・・次回へ続く


編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Richard Meaden Photography:Jayson Fong

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