北へ、南へ、シトロエン2CVと30年│第18回 2CVのカーシェア? その3

Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

2017年4月に個人間カーシェアリングサービスの「Anyca(エニカ)」を始めてから4年弱、これまで延べ36回の利用があった。うち2CVは26回である。うち2CVは、と書いたのは、もう一台の愛車である2003年レンジローバーにも稼いでもらおうと同時に登録していたからだ。延べ、と書いたのは前回ご紹介したHンダさんが一人で5回も借りてくれたからである(笑)。

冬場、レンジローバーにはスタッドレスタイヤを履かせていたこともあって、スキーや日本海側への帰省の足として人気があった。つまりごくごく普通の善良な(?)方々が借りにきたわけだ。

一方、2CVはいろいろな人が借りにきた。まずは純粋なクルマ好きたちだ。彼らの愛車はルノーカングー(2人)、マツダロードスター(2人)、スバルインプレッサWRX、現行型フィアット500など、いかにも、の車たちのオーナである。貸し出す際には「一度2CVに乗ってみたかったんです」とみんな口を揃える。そして返却時には一様に「楽しかった!」と笑顔で言ってくれる。やはりカーガイは最高だ。運転も丁寧で上手な人が多かったので安心してシェアすることができた。

運転が丁寧、といえば自動車教習所の教官の方が借りにきたこともあった。いつも貸し出し前に一度自分が運転して「手本」を示すのだが、このときばかりはこちらが少々緊張した。10年以上前にシビックタイプRの試乗会に呼ばれ、レーサー出身の自動車評論家さんを横に乗せて鈴鹿サーキットを走ったことがあるが、その時の次に緊張した。

車や運転が好きな人たちだけでなく、何かの目的のために「2CVを使いたい」というたちもいた。一番印象に残っているのは自分たちの音楽アルバムのジャケット写真だかビデオだかに2CVを使いたいから、とやってきた若いミュージシャンたちだ。ミュージシャンというだけで少々不安(個人の勝手な思い込みです)なのに、しかも若い。悪い予感は的中し、貸し出し日になってMT車を運転できる人が来れなくなったという連絡が来た。普通なら断るところだが、人格者として知られる筆者は貸し出し場所の横浜市内から撮影場所に近い池袋まで2CVを運転していく役を買って出た。貸し出し場所に案内役でやってきた若者を横に乗せて1時間のドライブだ。

音楽は世界を繋ぐとか世代を超えるとか綺麗事をいう人もいるが、音楽は世代間の超えられない壁を感じるのに最も適していると筆者は常々思っている。彼らの音楽について、どんな内容なのか、どういったジャンルに属しているのかなど色々質問したけれど、結局よくわからなかった。自分が好きな音楽について聞かれたからTOTOが好きだと言った。本当はフォリナーが一番好きなのだけど多分知らないだろうなと思ったし、2013年に行われたTOTO結成35周年ツアーのポーランド公演の模様をCS放送で見て、その完成度の高さに感動し、誰かに話したくて仕方なかったからだ。

もともと腕利きのスタジオミュージシャンの集まりという触れ込みで売り出したTOTOだけど、大昔に見にいった東京公演は酷いモノだった。スティーヴ・ルカサーのギターは良かったが、全体的に演奏はラフだしヴォーカルのボビー・キンボールは高い声が全然出ていなかった。それに比べてポーランド公演は実に素晴らしかった。相変わらずルカサーのギターは冴えていたし、デビッド・ペイチのしつこいばかりにジャジーなピアノも良かったし、サイモン・フィリップスのドラムスは亡くなったジェフ・ポーカロの穴を十分に埋めていた。そして何より3代目ヴォーカルのジョセフ・ウイリアムズが出色の出来だった。マツダカペラのCMでも使われていたパメラに至ってはジョセフ自身がレコーディングしたオリジナルよりも良かった。ロックバンドにおけるヴォーカルの交代はすなわちバンドの衰退を意味することが多いが、TOTOは数少ない例外のようだ。

なんて話をしようと思っていたが、残念ながらその機会は訪れなかった。若いミュージシャンはTOTOを知らなかったからである。やはり音楽は世代間の超えられない壁を感じるのに最も適している。1年後には世に出ると聞いていた彼らのアルバムが本当に出たのか、知っている人がいたらぜひ教えて欲しい。目印はジャケットなのかビデオなのかわからないけど、そこに写っている白い2CVだ。バンド名すら忘れてしまった筆者からのお願いである。



さて、なんの話だったか。そうかエニカだ。エニカのような個人間カーシェアが今後広がるかどうかはまだまだ未知数だ。2CVはその見かけから想像する以上に頑丈だし、壊れたとしてもパーツが潤沢に流通している。だから筆者は貸し出す気になったが、自分の愛車を知らない人、特に若いミュージシャンに貸し出すことに抵抗感がある人はまだまだ多いだろう。

とはいえエニカにまつわる心温まる話もある。エニカで意外と多かったのは「以前、2CVに乗っていました」という人たち、自分がむかし乗っていた2CVを子供に見せたい、ヨメさんとまた一緒にドライブしたいという人たちだ。彼らからは返却時に心からお礼を言われることが多くて、とても嬉しい気持ちになった。横にいたお子さんから「楽しかったです」なんて言われると、本当に良いことをしたなぁとつくづく思った。人生で、他人に心から感謝されるなんて、そうそうあるもんじゃない。人格者の筆者ですらそう思うのである。

 

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

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