19世紀のパリに繋がっていくかも知れない不思議な空間 ANTIQ Photo

失礼ながらお客さんっているんですか?コレクターってそんなにいるんですか?と聞いてしまった。「いないよ…」真顔で答えられた。ショーウィンドーから見えるそのガジェットは何とも魅力的で、またに男の子のおもちゃ(宝)箱。アンティック・フォト。ニコンやキャノン、いやいやフォクトレンダーにライカ…そんな”新しい”カメラはほとんどない。木箱と真鍮が美しく融合したガジェットがここの売り物だ。魅力的ではあるけれど、これ専門のコレクターがビジネスとして成功するほどいるようには思えない。それでつい聞いてしまったのだ。
 
もちろんお客さんはいる。個人もいるが博物館や研究機関が多いという。なるほど。それならば分かる。パリ6区。個性的なお店の並ぶルクセンブルク庭園のすぐそば。同じ通りに2店舗をかまえるのだ。そこにあるのは映像機器、カメラ、写真の黎明期の大判カメラなどからステレオカメラ、また初期の頃のムービーカメラだ。それに併せたレンズやアクセサリーの他、メカニカルな発電機に蒸気エンジンなど正にガジェットがこの空間にひしめき合っている。

もう数年前になるが広くなった新店舗。なんだか分からないけどワクワクさせられるものがひしめいている。

 
オーナーのセバスチャン・レマグネン氏は2007年にこの地でオープン。その前からも19世紀から20世紀初頭の光学器機、映像機器を取り扱う骨董屋さんを営んできた。コアな世界だが世界中に顧客を持つという。カメラだけでなく写真も取り扱う。ダゲレオタイプなどの写真が無造作にテーブルに置かれている。

中央にあるのは1930年代のZeiss Ikon Tropica。鷹の目と称される銘レンズTessarを備える13X18cmの大判カメラ。
こちらが2007年に最初にひらいた店舗。2013年その向かいの広い店舗も増えた。現在こちらにはきちんとカメラ達が並んでいる。
 
映画の父と呼ばれるのはリュミエール兄弟。フランス人だ。そのオーギュストとルイの二人が開発したムービーカメラ、シネマトグラフ。それがここにはある。100年以上前のカメラとは思えないコンディションだ。ほとんど使われていないものだろう。このシネマトグラフは同じフランスで発明されたダゲレオタイプというカメラ。ガラスに銀メッキを施しそこに感光させるというもの。そのカメラから感光されるそのガラス、そして現像するときの薬品のフルセットなども出してくれた。確かに博物館クラスのモノである。
 
映写機というより幻灯機。後ろの絵も時計など機械仕掛けが組み込まれている。

何より目に付くステレオカメラ。これは二枚同時に撮影するカメラだ。ちょうど、右目と左目ほどの間隔があるため、現像してその2枚の写真を同時に両目で見ると立体感のある写真が見えるというもの。これは実は写真が生まれる前からある技術。もちろん写真はないが手書きの絵などで同様に左右両目で少しずれた絵を見て立体的に見る。それが写真の登場のあと一気に広がったというものだ。左右に並んだ二つのレンズが目のようにも見える。それがロボットの顔というよりも木箱なのでもっと温かいぬくもりも感じるのだ。

オーナーのセバスチャン・レマグネン氏(M.Sébastien Lemagnen)。

 
カメラだけでなく撮影している姿の陶器の置物や機械仕掛けの絵画にブリキのおもちゃなど何処を見てもワクワクさせられる。車やバイクのようなメカニカルな共通点もあるのだろうか。じっくり見ていると時を忘れそうだ。気がつくとそこは19世紀のパリに繋がっていくかも知れない不思議な空間。それがこのANTIQ Photoなのだ。

https://www.antiq-photo.com

Photography & Words: Tomonari SAKURAI

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