「何があった?」31年間をリビングで過ごしたトヨタ2000GT

octane

眠れる森の美女?自動車が出入りできるスロープがない居室で、実車のトヨタ2000GTが30年以上もの長い期間、大切に大切に保管されていた。一体なぜ、そんなことが起こったのだろうか?

「バーンファインド(Barn Find)」という造語をオクタン日本版が紹介したことで、現在のようなクラシックカー人気に火が点いたと私たちは考えている。バーンファインド、直訳すれば「納屋で発見された」である。多くの車はガレージに仕舞い込まれたまま長い年月を過ごしてホコリがたまり、やがてボディにはサビが浮き出て、内装はカビやシミなどでひどく傷む。もちろんそのような状態が機械としての自動車に良い影響があるはずはないのだが、それでも絶滅した恐竜の化石を発掘したような妙なインパクトを観る者に与え、やがてその希少な印象が骨董品のようにクラシックカーの相場を引き上げる。おかしな時代である。

さてここで紹介する車は、ガレージに普通に納まっていなかったことがおもしろい。置かれていた場所は家屋の中、それもリビングルームである。オーナーは大事にしていたトヨタ2000GTを居間に招き入れ、そして固く壁を閉ざした。しかもかわいい愛玩動物を抱き込むかのように、まずボディ全体に毛布を掛けて、その上からボディカバーを被せ、そして紐でしっかりと押さえ付けた。その状態で31年間。いや、もしかしたらオーナーはときどきカバーを開けてうっとり眺めていたかもしれないが、残念ながらすでに他界されており、その事実は知る由もない。



この後期型トヨタ2000GTには、ほぼすべての記録がしっかりと残っていた。まず昭和44年(1969年)に、東京都世田谷区の女性が新車で購入されている。販売は東京トヨペット株式会社で、保証証券の発行はトヨタ自動車工業株式会社。登録日は8月31日なので、初代オーナーは夏の終わりを、この特別色アトランティスグリーンの2000GTで存分に楽しまれたのだろう。シャシー番号で追いかけていくと、この色はおそらく13、4台しか作られていない。わざわざ深い緑色を選ぶあたり、とてもおしゃれな女性だったと推察できる。



さて今回の主人公である二代目オーナー、名前を仮にN氏としよう。昭和50年(1975年)3月に、N氏が東京府中市のTモータースから中古車として2000GTを買ったことが契約書からわかっている。車両価格は新車を超える350万円! 分割手数料および車両保険などを含め393万7340円を18回の割賦販売で契約している。半金ほどを頭金として払っているが、毎月の支払いは大卒初任給ほどの大金になる計算だ。そこにN氏の、このトヨタ2000GTへの愛情の深さを垣間見ることができる。


購入してすぐに置いたわけではなかった・・・?パート2へ続く


薄く平板に見えるが存外にホールドの良いシート。後期型はヘッドレストが加えられている。ビニールの表皮にはうっすらとホコリが付着しているが破れや切れはない。手動の前後スライドとリクライニングは問題なし。標準の3点式シートベルトも健在だ。

エンジンはずっと動かしていないので、バッテリーを繋いでいきなりセルを回すとチェーンが切れてしまう可能性がある。1998cc 6気筒DOHC エンジンはグロス150ps/6600rpm、18.0kgm/5000rpmを発揮。バルクヘッドにトヨタとヤマハのプレートが貼られる。

7連メーターはスポーツカーの証。メーターの数が多いほどスポーティだと信じられていた時代の最高級スポーツカーである。後期型ではローズウッド以外も選ぶことができた。よく見なければわからないわずかなヒビ割れを1カ所見つけることができた。

ラゲージ部分はカーペットも含めきれいな状態である。右側のカバーを開けるとスペアタイヤのスペースが現れるが、その底部はサビや汚れも一切ない。ホイールのセンターロックを着脱するハンマーヘッドも含め、オリジナルの工具もしっかりと保存されていた。

マグネシウムホイールは取り外されて同じ部屋で保管されていた。日本車ではめずらしいセンターロック構造のホイールだが、結果としてトヨタ2000GT以降、センターロックを採用した市販モデルは発表されていない。2000GTは、一般的なセンターロック式が用いる、セレーションでホイールとハブが噛み合って駆動力を伝達する方式ではなく、5本のペグ(突起)によってホイールとハブが結合され、動力を伝達する方式だ。


保証証書がついた新車時のオリジナルのハンドブック。これが残っているクラシックカーにはなかなかお目にかかることはない。復刻版としてつくられたカタログなども大事にとってあり、また2000GTオーナーズクラブを通してパーツなども定期的に購入されていた。

文:堀江史朗(本誌編集長) 写真:芳賀元昌 協力:コーギーズ Words:Shiro HORIE(Octane Japan) Photography:Gensho HAGA Thanks to: Corgy’s

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