新築するにあたってリビングに「しまわれた」トヨタ2000GT 続編!

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この記事は『「何があった?」31年間をリビングで過ごしたトヨタ2000GT』の続きです。

どうやらN氏は購入してすぐに愛車を居間に置いてしまったわけではないようだ。多くのスペアパーツが保管された4つほどの段ボール箱の中から、ビニール袋の中で丸まったモノクロ写真の束を見つけた。そこから拝察すると、平成3年(1991年)までの16年間は、ドライブやオーナーズクラブのミーティングなどで、たくさんの思い出を重ねていかれたようだ。そして1991年、静岡県に自宅を新築するにあたり、ガレージではなく居室に愛車を招き入れる決断をN氏はされた。


リビングからガラス越しにガレージの愛車を眺める御仁は今でこそ少なくないが、今回の置き場は家屋のど真ん中のリビングルームである。日本語で「美しく見せる」という表現の比喩として「床の間に飾る」という言葉があるが、愛車を居間に入れて一切外に出さず仕舞い込むという例は、ほぼ聞いたことがないし、そんな作りを要求された大工さんはひどく混乱したに違いない。それから31年間、この後期型トヨタ2000GTは陽の目を見ることはなかったのだ。



単なるバーンファインドではないもうひとつの理由に、保存状態の良さがある。以前イギリスの、とあるオークションで見かけた1970年代のスポーツカーは、本革シートから盆栽のように樹木が育っていた。シートのスポンジが水浸しだったから。そこへ行くとこのトヨタ2000GTは、程度の良さという意味で別格である。さすがに大事にし過ぎて蒸れてしまったのだろうか、ラッカー塗装は化学繊維に弱く、運転席から眺めてボンネット右側には、20cm四方に渡る塗装のサビ浮きが見られる。だがそれ以外に外観の欠損は皆無。内装はビニールシートの破れはないし、ウッドパネルのひび割れは、細かいものがたった1カ所だけ。リアスペアタイヤ下部にもサビや腐りはないし、ウェザーストリップなどゴムや樹脂類も硬化がほとんどみられない。エンジンは、もちろんかけていないし、動態を取り戻すためにはかなり手を入れる必要があるものの、ひとつひとつ順番に整備をしていけば、31年前の状態を取り戻すことができると期待したい。



N氏は他にも趣味で多くの国産車を所有されていたようだ。ホンダSシリーズやダットサン・フェアレディSR、いすゞの名車などなど。ただしそれらは屋外に放置された状態に近く、そのうちの半分くらいは、いわゆる「土に還りつつある」状態らしかった。一方でこのトヨタ2000GTに対しては抹消登録することもなく、居室に鎮座させている間もずっと年間の自動車税を払い続けていた。ちなみに記念のため当時のナンバープレートも大切に保存されている。静岡の居宅から取り出した際に手を入れたのはホイールのみ。当時は流行りであった汎用のワイヤースポークホイールを、オリジナルのマグネシウム製ホイールに戻してある。タイヤも31年前のものをていねいに履き直して。



写真を撮り忘れてしまったが、もうひとつの段ボール箱の中に、ウッド部がささくれて剥がれたオリジナルのステアリングホイールを見つけることができた。非常に軽いもので、裏面には昔の「トヨタ」のロゴが刻印されていた。現代の電子キーとは比べものにならないほど薄いオリジナルの鍵。新車納車時には2本のみオリジナルキーが渡されていたようだ。現在走行距離計は40206kmを刻んでいる。

「TOYOTA MOTOR」のロゴと5桁のナンバーが刻印されたオリジナルキーは、これからこのトヨタ2000GTをどこに運んでくれるのだろうか。31年の時を経て、これからもずっと大切にしてくれる次のオーナーを探し中だ。

大掛かりな作業となった居室からの搬出。まず窓枠を外して空間を拡げ、車の向きを整えてからスロープに沿ってゆっくりと人力で後退させていった。N氏はトヨタ2000GTに関連したミニチュアカーやグッズ類の蒐集にも凝っていた。また様々な補修用や交換用のパーツも、いつでも取り出せるようにショーケースにきちんと整理されていた。

文:堀江史朗(本誌編集長) 写真:芳賀元昌 協力:コーギーズ Words:Shiro HORIE(Octane Japan) Photography:Gensho HAGA Thanks to: Corgy’s

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