知っておきたい歴史のひとつ│フランス最古の公共図書館「マザラン図書館」

Photography:Tomonari SAKURAI

フランス、パリを含む16の地域が再び外出禁止令になった。その前からも夜間外出禁止令でとにかく人が集まるようなことを自粛するようにいわれている。もう長いこと博物館や美術館が閉鎖され芸術の国フランスはどこへやら?そんな中、フランス最古の公共図書館マザラン図書館がガイドツアーをやっているというので参加してみた。

この図書館は何度かコンファレンスなどに参加してきたことがある。しかし、きちんと歴史を調べてみる機会が無かった。その名の通りこの図書館を開設したのはマザランという人物。イタリアに生まれたマザランは本が大好きで、イタリアで5000冊ほど所蔵する図書館を開いた。1639年にパリに移住したマザランは、同様に本に興味を持つガブリエル・ノーデに出会う。このノーデという人物は美しい本というよりも、知識のつく書物が好きで合理的な考え方を持つ人物。コレクターに近いマザランと手を組んで図書館をこのパリで開こうと動き出す。ノーデにより手っ取り早く図書館を開くならば、すでにある図書館を買い取ることと考え、シャネルネ図書館を手に入れた。

1643年にマザランはこの図書館の館長として就任。ノーデはヨーロッパ中から本を集めることに力を注いだ。当時オランダが出版に力を入れていたことから、オランダ製の本が大量に所蔵されることとなる。反してスペインとポルトガルはフランスと戦争状態だったため、この2国からの本の収集ができなかった。4万冊の所蔵で当時ヨーロッパ最大の図書館となる。これは世界最大の図書館を意味する。

また、図書館というと個人所蔵のプライベートなものが普通で、今日のように誰でも利用できる公共の図書館はヨーロッパにイギリス、イタリアなど3つしかなかった。フランスで初となる公共図書館となるのがこのマザラン図書館というわけだ。ノーデという人物は当時図書館といえば部屋の中央に本棚を置くのが常識とされていたところ、壁に本棚を設置するという様式をとった。現在ではそれが当然のようだが、このノーデが考案したのだ。

図書館全景。

ノーデによる本棚を壁に沿わせる革命的な設計図のコピー。


この時の図面はすでに紛失したものと思われていたが、この革新的アイデアを気に入ったデンマーク国王が図面を保管していたことが近年分かった。そしてノーデのその図面は今でもデンマークの王宮に保管されている。広くて寒い図書館は、燃えやすいこともあり暖房を引きにくい。そこでノーデは隣に馬小屋を作り馬の体温で暖まった空気を図書館に導きそれを暖房とするなどした。作られる本を片っ端から集め、それを一般公開していたため王侯貴族にとって不都合な書物も多く、それに対して不満を持つ者たちが”Les Mazarinales”というマザラン図書館の悪口を綴った新聞が発行されるほどになった。現代のSNSで悪口をいっているような感じだろう。マザラン自身書物好きなのでこの新聞も集めて現在でも8000部が保管されており貴重な資料となっている。この新聞のおかげでマザランの評判は落ち、国外追放を言い渡されノーデと共にフランスを追いやられてしまった。その後この図書館は売却されてしまう。

興味深い写本。多くのイラストが残されており、猿がネコにミルクをあげるなどコミカルな作品のもの。こういったオリジナルのモノにはここにあるようにハンコは押さない。しかしある時期にハンコ好きな職員がこれでもかと押してしまった。しかしそのおかげで一時は紛失してしまっていた本がマザランの所蔵だったという証拠になっているという。

フランス革命の後この図書館は貴族の所蔵する本やコレクションを集めることができるという許可証。なんとオリジナルだ。

 
ルイ14世が即位するとマザランとノーデを戻す命令を出した。マザランはその知らせを聞き、興奮のあまり死んでしまう。二度とフランスの地を踏むことはなかった。代わりにここに戻ったノーデはマザランの遺志を継ぎ図書館の復活に尽力し1661年に3万8千冊とちょっと少ない所蔵で、それでも再会を果たした。今後図書館をなくすこと起きないようにノーデはマザラン中学校を隣接させた。元々医学のの道を進んできたノーデは数学、化学を当時初めて中学校で授業として取り入れ、またこの中学校を無料で開放した。フランス中の学問を目指す者たちが集まり一気に広まっていった。そのため科学者のラヴォワジエや女優のフランソワ=ジョゼフ・タルマなど著名人の多くがこの学校から排出されている。

貴重な本を傷めないための台座や、ページを開いておくための特別な道具が用意されている。

 
フランス革命で貴族の個人所有の図書館が強奪、破壊された中、ここは公共の図書館だと破壊しないようにラベ=ルブロンが働きかけた。それは功を奏し、貴族の所蔵する本やコレクションを収集する許可を得るほどだった。そういう意味で革命以前から残る唯一の図書館として今も存続している。
 
現在600万冊の所蔵があり、印刷技術のできる以前手で写していた写本が6000冊、革命以前の本が200万冊を誇る。最も有名な本のひとつはグーテンベルク聖書と呼ばれる初めて印刷された聖書も所蔵している。ほとんどの本は公共の図書館なので申し込めば閲覧が可能なのだ。

この書棚。よく見ると隠し扉なのだ。


所蔵されている本もそうだが本棚のレイアウトや、本の検索のための図書カードなど現代の図書館のシステムの基礎を作り上げてきたのがノーデあり、この図書館だったのだ。ちなみに、フランス語で図書館はビブロテック。本屋さんのことをライブラリーという。ネットが普及し紙の本がなくなりつつある中それでも話題を呼ぶ本屋さんや図書館がある。実はこのマザラン図書館に何かヒントがあるかも知れない。そう感じるガイドツアーであった。

www.bibliotheque-mazarine.fr

Photography & Words: Tomonari SAKURAI

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