アートと建築を巡るハイ・モードなドライブ  MAEBASHI・TAKASAKI × Porsche TAYCAN

Photography:Ken TAKAYANAGI


 
街を活性化させるアートな刺激に満ちた体験型ホテル

今回はそんな意欲的な車を駆って、高感度な刺激を放つ街に出掛けてみた。群馬県前橋市は、数年前にスーパーシティ構想を立ち上げ、最先端の取り組みを本格化させている変革都市だ。なかでも独自の取り組みがアートを軸とした街おこし。アーツ前橋などの公営美術館による、街全体を巻き込んだイベントもユニークだが、現在の前橋を代表するアート拠点として、ぜひ注目したいのが白井屋ホテルだ。創業は江戸時代という由緒正しい名所を、アイウェアブランドのJINSで知られる田中仁氏が私財を投じて買い取り、錚々たる建築家やアーティストとのコラボにて、アートなホテルへとリノベーションしたスポットなのだ。
 
エグゼクティブルームは藤本壮介氏が設計し長山智美氏がスタイリング。室内にはライアン・ガンダーの作品が飾られ都会的な雰囲気。

この新名所が単なる宿泊施設ではないところに特に留意したい。オーナーの田中仁氏と建築家・藤本壮介氏は、白井屋ホテルを「暮らす人と訪れる人のリビングルーム」となるよう、趣向を凝らし綿密に作り上げた。そのコンセプトを分かりやすく具体化した部分が、アクセスフリーな敷地設計。宿泊者や来訪者が任意の道筋で作品に触れ合えることはもちろん、近隣生活者が近道代わりに通り抜けることもできるオープンデザインとなっている。そしてエントランスからラウンジ、ダイニングに至るまで、絵画に家具やアートワークなどの作品がそこかしこに配置されており、来訪者は居るだけ過ごすだけでアートな刺激を受けることとなる。

東京・青山の「フロリレージュ」オーナーシェフ川手寛康が監修し、群馬県出身の片山ひろがシェフとして腕を揮う、メインダイニング「theRESTAURANT」。
 

単に居心地良いホテルを目指すなら、更地から新規に設計したほうが手っ取り早い。しかし白井屋ホテルの狙いは、積み重ねた街の歴史やスタイルはそのままに、クリエイティブな情熱を推進力として、その土地らしい可能性や活力を引き出ことにある。新たなアイディアとエネルギーを用い次世代への橋渡しを担っているという点で、タイカンに通ずるポイントといえそうだ。 

照屋勇賢作「静のアリア」。木製階段の向こうに実際の非常階段が続く。ガラスを隔てて現実と他の現実が交差する印象的な空間。


そしてアートという側面で前橋を語るとき、アーツ前橋の存在も見逃せない。2013年のオープン以来、前橋市民の想像力を育んできた美術館であり、元々はデパートであった建物をリノベーションした施設である。当館は群馬で活動するアーティストの作品などを積極的に展示しているところも見どころだが、地域アートプロジェクトと称する"館外活動" も実に興味深い。

館内1階には、美術・芸術に関する資料を収蔵したアーカイブの他、自家焙煎コーヒーが楽しめる洒落たカフェも併設する。

以前取り組まれた「前橋食堂」というプロジェクトでは、一般的な家庭で作られる日常料理をリサーチし、そのレシピを一冊にまとめたという。いわゆるアート的な制作に限定せず、日常に潜む個人の歴史や文化を改めて共有すべく、活動の場を広く求めているのだ。新たなものを生みだす作業も大切だが、過去から蓄積してきたパワーを温め、自然な形で次世代へ受け継いでいく。カルチャーにおけるサスティナブルな取り組みが、そこでは確かに実践されていた。

多彩で高感度なアートグッズが購入できるミュージアムショップ「mina(ミーナ)」。全国各地のアトリエから届くアイテムも見どころ。

文:長谷川剛 写真:高柳健 Words:Tsuyoshi HASEGAWA Photography:Ken TAKAYANAGI

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