フェラーリを愛するオーナーを 応援し続けるために。ナカムラエンジニアリング物語 第4章


 
転機は突然やってくる。イベントにもよく顔を出していたナカムラだったが、CARZYが開いたギャザリングに参加した時、一台のフェラーリに目を奪われた。正確にはフェラーリではない。ディーノだ。それも相当にモディファイされた個体だった。
 

社長の中村一彦が初めて惚れたクラシックフェラーリがディーノだった。それもかなりモディファイされていた。最大の改造点はハンドル位置が変更されていたこと!それでも買った当初、中村はさらにモディファイを進める計画だった(メイン写真)。けれども途中でオリジナルへのレストレーションへと方針を切り替える。

実を言うとナカムラはテスタロッサ以前の古い跳ね馬にはほとんど興味がなかった。それより新しい車の面倒を見ることが精一杯だった。おそらく、そのディーノもノーマル然としていたら、ナカムラの興味を引くことはなかっただろう。レーシーな改造を受けていたからこそ、気になったのだ。

 
一目惚れしたナカムラはそのディーノを購入する。早速乗ってみると、決して完調ではなかったにも関わらず、驚くほど楽しかった。古くて小さい車だと思っていたディーノが、乗ってみれば室内空間は自分にピッタリとはまるし、何よりキャブレターの存在が運転を面白くすることにナカムラは気がついた。吸気音がこんなにも気持ちいいものだったとは!
 
エンツォ生前のモデルに的を絞る。雑誌の取材や公式サイトでそう言いはじめたナカムラエンジニアリングにはご覧のようにそういった車両が目に見えて増えはじめた。もちろん"以降"のモデルも入庫する。

結局、乗ったのはそれ一度きりだった。ミッションが入らなくなってしまったのだ。ナカムラは考えた。本当のディーノはどんなエンジンフィールなのだろうか。それを知るためにはこの個体をミッションオーバーホールなどで済ますのではなくフルレストレーションするほかない。そこまで考えた時、閃いた。そうだ、いっそナカムラのビジネスを古いモデルに絞り込んでみてはどうだろう? 古い跳ね馬とは、尊敬してやまないエンツォが生きていた時代のモデル…
 
そんなモデルのユーザーであれば、自分たちの話にもよく耳を傾け、冷静に判断し、完成した仕事にも適切な評価を下して、その後も常にコンタクトを取り続けてくれるに違いない。リピートする客が増えてくれば、希望に合わせてその時々のベストな仕事を提供できる。ナカムラに入庫することを楽しんでくれるようなプラスの循環ができる。

ナカムラエンジニアリングは一度、膨大なパーツコレクションを放出したが、それでもまだクラシックモデル用のパーツストックは多く残る。ない機能パーツは製作もする。顧客にとっては頼もしい存在である。

 
拘れば拘るほど儲からない仕事だが、それで客が笑顔になるならいい。そんな決意でディーノのレストアを始める。ペイントを剥ぐとなかからエンツォが愛したインクカラー、ブルーの塗装が現れた。エンツォのお告げだとナカムラは感じた。

現在はレッドのペイントを剥いだ状態で作業が中断している。自分の車を仕上げる時間的余裕がないからだった。

 
客層が再びガラリと変わった。ナカムラの物語は今、始まったばかりだ。



株式会社ナカムラエンジニアリング
〒639-1103 
奈良県大和郡山市美濃庄町271番地の13
TEL. 0743-54-6400
https://www.nakamuraengineering.com/

文:西川 淳 写真:ナカムラエンジニアリング Words:Jun NISHIKAWA Images:NAKAMURA ENGINEERING

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