「日本の船文化の拠点を作りたいと思っています」安田造船所代表にインタビュー

Photography:Ken TAKAYANAGI

首都高湾岸線を南下してベイブリッジを渡ると、横浜ベイサイドマリーナはもうすぐそこだ。ここに今春、大型ヨット「AZIMUT」をはじめ、日本のラグジュアリーシーンをリードする安田造船所とシーブリーズボートサービスがショールームをオープンさせた。

四方を海に囲まれた海洋国であるにも関わらず、日本は海外に比べて、富裕層が所有する大型のプレジャーボートが停泊できるマリーナがあまりに少ない。一般利用できる「海の駅」は、全国に約170カ所が設定されているが、その多くは漁船が行き交う観光漁港であり、海外のラグジュアリーリゾートのイメージとは程遠いのだ。
 
しかし、ここ横浜ベイサイドマリーナは国内では希少なリゾートの趣ある貴重なマリーナである。1100艇もの大型ヨットが係留できる桟橋が設置されており、ファミリーや若いカップルで賑わうアウトレットモールも併設されている。日本のみならず、アジア最大級のマリーナとして機能し、イタリアのラグジュアリーヨット「AZIMUT」のオーナーが、国内でもっとも多いマリーナでもある。

精密に作られたラグジュアリーヨットの模型が展示されるショールーム。実際の船の商談はもちろん、メンテナンスの相談なども受け付けるクラブハウスとしての役割を担う。

 
その「AZIMUT」の国内総代理店である安田造船所代表の野澤隆之氏は、ここを自身が描くラグジュアリーマリンライフの拠点のひとつとして期待している。東京・京浜島の安田造船所ドックから、現在、三浦に建設中のリゾート施設へ、さらに都心に住むヨットオーナーにとって、ベストなクルージング地となる伊豆下田までの中継地点である。

日本に真のラグジュアリーライフスタイルを根付かせたいと語る安田造船所代表・野澤隆之氏。横浜ベイサイドマリーナには自身もプレジャーボートを何艇も係留しており、マリーナで最初にカジキを釣り上げた栄誉「ファーストマーリン」の称号も獲得している。

 
マリーナの一角にあるビルの一階、ガラス張りのフロア全床をオープンスペースとするショールームは新挺の情報がいちはやく集まる情報発信基地であり、メンテナンスの受付を行うクラブハウスとしての役割をも担っている。クルージングの行き帰りにくつろげるラウンジにもなり、船に乗らない家族が隣のモールでショッピングや食事を楽しむなど、さまざまな人たちが集うことができる。 

季節の花器が飾られた「Molteni&C」のダイニングテーブルには、「B&B ITALIA」のチェアをコーディネート。テーブルセッティングもまるでラグジュアリーホテルのラウンジのような設え。 


この日はエントランスにジェットスキーやプレジャーボートが展示されていたが、今後はスポーツカーに入れ替えることも想定されているという。窓辺のショーケースには「AZIMUT」のほかアメリカのスポーツフィッシャー「BERTRAM」の模型と並んでアストンマーティンやブガッティが置かれていた。大人のラグジュアリーな趣味の部屋を象徴するのは、中央にオブジェとして設置された航空機の星型エンジンだ。放射線状にシリンダーを配置するレシプロエンジンはピカピカに磨き上げられていて、男心をくすぐるのである。

ショールームは全面ガラス張りのビルの1階。カタログシェルフの高さは通りからの視線を遮りながらも採光を考慮して設置されている。 


「ここは、私が自分の部屋をつくる感覚で、心地いいものばかりを選んで集めた空間です。イベント利用ができるように、自由度をもたせてあります。エントランスにソファを並べれば、駐車スペースが借景になる、ユニークなイベント会場となるでしょう」。
 
ショールーム内には、同社が手掛けるイタリアのファニチャーブランド「Paola Lenti」が、有機的なフォルムと鮮やかな色柄を湛えていて、表通りから見るとまるでここは海辺のホテルのラウンジルームのようだ。奥にはバーカウンターが設えられ、手前には「Molteni&C」のダイニングテーブルと「B&B ITALIA」の椅子が。什器に並ぶルームフレグランスは、フィレンツェの高級フレグランスブランド「TEATRO Fragranze Uniche」。

ショールームの一角には、日本総輸入元を務めるイタリアの高級ファニチャーブランド「Paola Lenti」をコーディネート。南青山、広尾にショールームを構えているが、ここ横浜ベイサイドマリーナでもオーダーすることができる。


オーナーズラウンジのコーナーには、クラシックな旅をイメージさせる古いトランクが置かれており、リゾート気分を盛り上げる。まるでここは海外のインテリアショップのようだ。「中に置かれた什器は、ほとんどが国内で流通しているユーズドファニチャーです。リサイクル家具の買取と販売は、私たちなりのサステナビリティへの回答であって、未来に向けてのひとつの取り組みなのです」

フロア中央には70年代のヴィンテージソファが置かれている。バッファローのレザーを張った重厚なフォルムは、現代では再現できない仕様。今後は、野澤氏が考えるサステナビリティの一環として、高級家具のリサイクル販売を強化していく予定だ。
 

そう、ここはラグジュアリーを極めた大人の遊び場であると同時に、野澤氏の新たな未来への構想を実現する場所でもある。中央に置かれた重厚なバッファローレザーのヴィンテージソファは、高級家具の二次流通市場を切り拓く新たな事業の布石であり、すぐ近くには巨大な倉庫を準備済だ。

「倉庫はストック&セールスの拠点として、家具やキャンピングカー、トレーラーハウスやコンテナハウスも置いていきたいと考えています。ときにはイベントスペースとして開放したいですね。ショールームの裏手には、ポンツーンバーを開いて、船から上がったオーナーの皆さんはもちろん、地元の方々とも交流できる場所もつくりたいと思っています」
 
ショールームのオープンは、やがて地域の人々との架け橋となり、街づくりにまで及ぶ。野澤氏の描く未来像は、点から線、線から面へ、そして地域活性化という高さある立体的な視点へと広がっていた。



Azimut Yacht Japan
〒236-0007 神奈川県横浜市金沢区白帆4−3シーサイドピアビル1F
TEL:045-752-9393 
営業時間:09:00〜18:00 
https://www.azimutyachts.jp/

文:池田 保行 写真:高柳 健 Words:Yasuyuki IKEDA  Photography:Ken TAKAYANAGI

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