雅楽器演奏者・東儀秀樹の華麗なるクラシックカー生活

Photography:Kazumi OGATA



さて、私はとても車が好きですが、私にとって重要なことはスーパーカーであろうとクラシックカーであろうと"ステータス" として所有しているつもりは毛頭ないということ。その車を運転する楽しみ、眺める楽しみ、触れる楽しみ、共感する人とのコミュニケーションの楽しみが大事なのです。お金があるからという証でなく、モノに対するこだわりとしての自己満足でいいのです。だから売ることを考えて選ぶこともしません。たとえばディーノに関しては、王道の赤が最も人気なのでしょうけど私にとってはあのコンパクトなデザインは黄色がとても似合うと思ったから黄色のものを探しました。車選びの基準は性能とデザインのバランスですね。走りさえ良ければ、ということではない。街で気楽に走っても常に高揚感を感じられること、駐車場に停めて振り返ってみて「なんてかっこいいものに自分は乗っていたんだろう」と惚れ惚れできることも重要です。

所有している中で最もストーリーがいいのはAC エース。イタリア本国のミッレ ミリアに出場できる車を探しているうちに、イギリスで売りに出されているACを発見しました。AC自体も希少ですが、その個体はAC 製のエンジンを積んでいて、しかもワークスカーとして生産されたうちの1 台というとても貴重なものでした。これほどのストーリーを持った車に出会うこともなかなかありません。さらには、所有していた方は、元レーシングドライバーだった夫を亡くした女性でした。夫の死後、売らずにずっとガレージにしまい込んでいたんです。ヨーロッパでこの車が走っているところを見ると、夫のことを思い出して悲しくなってしまうからヨーロッパでは売りたくないと言われていたので、日本からということで私のオファーには気持ちよく譲ってくれました。

左/息子 ちっちと出場したラリーニッポンでPC 競技に挑戦している場面。出会った当初からAC エースは他と違う存在だったが、ラリーを通じて親子にとってさらに特別なものになった。 右/家族も車好きで、母親・姉コンビでラリー出場も重ねている。

クラシックカーの魅力はやはり車との対話でしょうね。エンジンの音、匂い、水温、振動などを絶えず気にしていないといけない。 現代のスーパーカーはパワーもあって乗りやすく誰でも速く走らせることができますが、そのポテンシャルを最大限に活かすことなんて日常の中ではできないでしょう。クラシックカーは完走させるにもいろいろなことに気を配りながら操り、ある程度まで能力を発揮させてやる、という対話が醍醐味なんです。それに加えてクラシックカーラリーに関わる人たちが持つ大人の遊び心やゆとりなど、何歳になってもまだまだ上を見させてくれるという世界も魅力ですね。

クラシックカー好きであるということを公言しているうちに、それが堺正章さんの耳に入り、光栄なことに「ラ フェスタ ミッレ ミリアでコ・ドライバーをやってみないか」と誘っていただけました。こうして2004年に、ラリー初参加を果たしました。天候はラ フェスタの歴史の中でも最悪というぐらい豪雨だったのですが、私自身はまったく苦に感じなくて、むしろ楽しくて仕方なかったくらいです。自分でも運転したいという思いが強くなり、2006年にはドライバーとしてラ フェスタ ミッレ ミリアに参加しました。この時、ACはトラブルで参加叶わずに、人から借りたトライアンフでの出走でした。しかし、ドライバーとして初めてのラリー、かつ慣れない車であったにも関わらず8位入賞という結果を残したのです。周りからはそうとう驚かれました。

左/2007年にイタリア本国ミッレ ミリアに出場した際の一枚。メカニックも連れていかずに、ミッレ ミリア初めて同士のコンビで挑みナショナルトロフィーを獲得。 右/ラリーニッポンのスタートメンバーである小林雄介氏とは、不思議なくらいに息があったコンビだという。

そして、翌年はいきなりイタリア本国でのミッレ ミリアへ。手続きや準備など色々と大変でしたが、ここでまた驚くことに国別一位の人に授けられるナショナルトロフィーを獲得してしまったのです。自分でも信じられませんでしたよ。忘れられない誇るべき思い出です。イタリアに参戦した体験がラリーニッポンの立ち上げのきっかけにもなったのです。日本でもイタリアのような世界遺産や文化や歴史を味わいながらのラリーができるといいと思って。

今は国内のイベントを中心に参加しています。息子(13歳)をコ・ドライバーにして参戦しているのですが、2017年のラリーニッポンでは優勝しちゃったんです。親子で成し遂げた大きな思い出のひとつですね。共に戦った車であり、ストーリー性もあるので、息子もこのACは特に気に入っていて「絶対に売らないでね」といわれています。それと、ディーノもですね。車好きの血はしっかりと受け継いでいますよ。

そういえば、こういう自分たち親子と映画『チキ・チキ・バン・バン』に出てくる父親と息子の姿が重なり、実際に映画と同じ車を工場に頼んで製作しています。だいぶ時間はかかりそうですが、完成が本当に待ちきれないです。旧いモーリスとオースチンをベースにしているので、いつかその車でまた親子参戦しようと期待しています。こうして車のある暮らしで、ずっとわくわくしていたいです。

(オクタン日本版Vol.29に掲載)

文:オクタン日本版編集部 写真:尾形和美 
Words:Octane Japan Photography:Kazumi OGATA

文:オクタン日本版編集部 写真:尾形和美 Words:Octane Japan Photography:Kazumi OGATA

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