フォーミュラの技術をまとったレストモッド・EV|ルナーズ

Lunaz Design

MODERN RESTORATION_06
新世代のビルダーが作るレストレーションの新しい形

「レストモッド」という一大ムーヴメントをひもとく特集、第6回はあの回生エネルギーシステム「KERS」の開発者が手掛けるEV。そう聞いて興味をもたないでいることは不可能だ。レストモッド・EVの最先端は想像を超えるものだった。


パワートレインの設計者というキャリアから、レストモッドの世界に入ったという異色のキャリアをもつのが「ルナーズ(Lunaz)」のマネージング・ディレクターであるジョン・ヒルトンだ。ロールス・ロイスPLCでヘリコプターの世界速度記録を目指すエンジニアとしてキャリアをスタートし、次にモータースポーツのエンジン開発を手掛けた。なんと、F1世界チャンピオンであるフェルナンド・アロンソが駆るルノーF1チームのテクニカル・ディレクターだったのだ。彼が考案した「KERS」と呼ばれるエネルギーの回生システムが、その強大なパワーでF1に新たなパワートレインの可能性を提示、ファンを大いに沸かせたのは記憶に新しいところだろう。

純然たるエンジニアが率いるルナーズゆえに、外観はクラシックなスタイリングを生かしたレストレーションが施されているものの、その心臓部は最新のテクノロジーの塊だ。車種は主にベントレー、ジャガー、ロールス・ロイス、レンジローバーといった古き良き英国車を手掛ける。

ルナーズでは、2018年の創業以来、最高のエンジニアリング、設計、製造の人材を採用している。アストンマーティン、フェラーリ、フォード、フォーミュラ1、ジャガー、フォルクスワーゲン、マクラーレン、ロールス・ロイスといったファン垂涎のブランドのスペシャリストが集う。

前後の重量配分など、走りに影響する要素はオリジナルに忠実に再現される。

「そのままでは朽ち果てていくだろうクラシックカーに、現代のテクノロジーで魂を吹き込むことがミッションです。外観はオリジナルに忠実にレストレーションを施しつつ、パフォーマンスの点では比類ないものを提供したいと考えています。また、日常的に乗れることも重視しています。こう言うのは簡単ですが、実は日常で使うことこそ、最も技術力を要します」

いくら最先端のエンジニアだったとしても、電動モビリティに関するテクノロジーはまた別の種類のものだ。彼にとって、レースの世界で最速を競うことから、いくら現代のテクノロジーを搭載するとはいえ、クラシックカーのレストレーションというのは、いささか遠い世界のように思える。

「美しく重要なモデルの保存は、レガシーの継承です。そのためには、ただ美しい外観を復元・保存するだけではなく、日常で気軽に走る姿を取り戻すことも重要だと思います。美しいものが走っている姿を見て、次の世代はその存在を"知る"わけですから。一方で世界では、クリーンな空気の未来が望まれています。次世代のクラシックカーのアプローチはより使いやすく、信頼性が高く、気兼ねなく楽しめることが必要とされつつあります。"持続可能なクラシックカー"を提供できるようにすることこそ、最新のテクノロジーが駆使されるべき分野です」

彼自身のキャリアの中核であるKERSの開発は、そのままルナーズの掲げる哲学につながっている。KERSの登場は、モータースポーツやスポーツカーの世界でもエレクトリックテクノロジーが受け入れられるきっかけになった。現在、ルナーズでは、45人ものエンジニアと職人とデザイナーが働いている。彼らのレストレーションの手法はとてもユニークだ。創造的再利用とも呼ばれるアップサイクリングなる手法を活用し、副産物、廃棄物などの部材を、より良い品質と環境価値高い新しい材料または製品に変換する。さらに自社開発の電動パワートレインの搭載を前提に再設計し、バランスの最適化を図っているそうだ。



具体的には、各パーツの重量を測定して、オリジナルの重量配分を理解する。これらの情報は、再度、組み付ける際に重要な要素となる。続いてエンジンとシャシーを分離した後、3Dスキャンによって、詳細なCADモデルが作成される。ベアメタルまで剥き出しにされたシャシーは、細部に至るまで補修が施されて、必要な部分は最新の素材に置き換えられる。心臓部はもちろん、最新の電動パワートレインが組み込まれ、アクセルはレーシングカーと同じバイワイヤー式となる。さらにパワーステアリング、強化されたブレーキとサスペンション、エアコン、Apple Car Playを含む最新のインフォテインメント技術までが採用されている。正確な数値は明示されていないが、航続距離に関してもおよそ現在の主要メーカーのそれと遜色ない程度だそうだ。「クラシックカーのデザインに妥協することなく、最新のテクノロジーを統合しました」



インテリアでも、クラシックカーらしい統一感を保ち、オリジナルの印象を大切に再現されている。同時に衛星通信、Wi-Fi、インフォテインメントシステム、エアコン、ナビゲーションなどの最新技術の利便性も享受できるように、計器類の配置には精細なバランスを保って調整している。

ジョンたちの最新の電動カーであるジャガーXK120は、そのようにして新しい生命を吹き込まれた。顧客の多くは30代と若く、アジアからの需要も好調だそうだ。もちろん、日本からもラブコールがあるという。「EVコンバート」は果たしてレストアか否かが問われる今、それでも高度なレストア技術による美しいエクステリアとインテリアにはクラシックカーに対する深く広い見識と愛情が見て取れる。少なくともここがレストモッドの最前線であることは間違いないだろう。

もし今、あなたがこの記事を読んだ後すぐにルナーズにオーダーをかけても、2022年以降のデリバリーになるそうだ。

文:川端由美 Words: Yumi KAWABATA

文:川端由美 Words: Yumi KAWABATA

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