小さな新興EVメーカーが挑む、エレクトリックの無限の可能性|トテム・アウトモビリ

Totem Automobili

MODERN RESTORATION_07
新世代のビルダーが作るレストレーションの新しい形

「レストモッド」という一大ムーヴメントをひもとく特集、最終回。元アルファロメオのデザイナーと腕利きのカロッツェリアが生み出す「Totem Automobili」の美しい仕上げとテクノロジーは、レストモッドの可能性を拡張させる。


弱冠26歳のリカルド・クアジオが2018年に興した「トテム・アウトモビリ(Totem Automobili)」を、"電気じかけのクラシックカー"と片付けてしまうべきではないだろう。本拠のあるヴェネチアに9人の従業員を抱える小さな新興EVメーカーではあるが、いまどきのスタートアップの例にもれず、彼らは素晴らしいステークホルダーに恵まれて車両を開発している。イタリア車の生まれ故郷ともいえるトリノにエンジニアを抱え、そこには数々の名車を送り出してきたカロツェリア「ピニンファリーナ」から26人もが流れ込んでいる。さらに、創業者であるリカルド・クアジオ自身が元アルファロメオのデザイナーという経歴を聞くと、車好きならそんなメンバーが送り出す車両がどのようなものか胸が躍るはずだ。

プロトタイプと比較して、メカニズムが大幅に改善されている。新しいサスペンションは、アルファロメオ「159」と同様のダブルウィッシュボーン式の最新版を採用している。

実際、トテム・アウトモビリが生み出すモダンクラシックなスタイリングと最先端テクノロジーによるスペックを眺めていると、まさにレストモッドの新しい方向性の先にある未来が垣間見えるようだ。

「私自身、メカや電気のスキルは持ち合わせていないことがむしろ強みだと考えています。重量配分や低重心といった気持ちよい走りにつながる部分は、常にエンジニアの意見を重視して工程を設計、レストレーションをおこなっています。結果、クラシックカーのデザインに惚れ込みながらも、古いままでは故障が心配だったり、現代の交通に適さないなどの理由からクラシックカーを敬遠してきた人たちが気に掛けてくれるようになりました。レストモッドを嗜好する傾向は強まっていると実感します」と語る。

クワジオが堂々と胸を張る理由には、彼らが作る車がクラシックカーの外観に電気モーターを載せただけのEVコンバートではないという自信がある。ベースとなるのは、"ジュリア・クーペ"こと1963年にデビューしたアルファロメオGTのクーペ・シリーズ。日本では「段付き」と呼ばれるモデルが人気だが、トテム・アウトモビリでは英国や北米で人気の高い「フラット・ノーズ」をベースにしている。

直列4気筒エンジンに代わって搭載されるのは、518psを発揮する電気モーターと50.4kWhの容量を誇るバッテリーパックである。1回の充電で走れる巡航距離は約200km。車両は約770ポンドと重量は増しているが、立ち上がりのトルクが最大という電気モーターの 特性を生かして、0-100km/h加速を3.4秒でこなす俊足ぶりを発揮する。

直列4気筒エンジンに代わって搭載されるのは、518psを発揮する電気モーターと50.4kWhの容量をほこるバッテリーパックである。1回の充電で走れる巡航距離は約200kmを確保している。

電動化に伴って搭載されるバッテリーパックによりボディ重量が増すため、シャシーやステアリングホイールなどのボディや駆動系パーツには、重量増加に耐えるだけの補強も施される。

1台あたりの作業に要する時間は約半年、年間に手掛ける台数はわずか8~9台のみで、トータルで20台の限定となる。もちろん、顧客の望みに沿ったカスタマイズにも対応する。ボディワークについては、シャシーをほぼ丸裸にし、電気モーターによる俊敏な加速と現代的な安全性を確保すべく、元のシャシーのうち約10%のみが残されて、その他は、アルミニウムやカーボン複合材といった軽量かつ高剛性の素材からなるコンポーネントに置き換えられる。強化された新しいシャシーにダブル・ウィッシュボーンのサスペンションを取り付け、電気モーターを含む駆動系などを搭載し、ルーフ、ドアなどのエスクテリアにはすべてカーボン複合材のパネルを取り付ける。ハンドメイドのインテリアは塗装後に組み上げられる、といったフルレストアそのものの内容だ。

地元イタリアのタイヤ・メーカーである「ピレリ」や安全装備で定評のある「サベルト」とも協力して、最新の安全性に配慮したスペックを備えるトテム独自の装備を搭載する。





インテリア部門では、顧客の希望に応じて、生地、革、カーペットなどのカラーや素材を厳選し、最新の技術を使ってクラシックカーの雰囲気に適した内装を再現している。オリジナルの仕様に忠実かつ最高の品質を保ちながら、同じカラーやテクスチャーを再現することも可能だし、好みに合わせて作り込むこともできる。補修をおこなうだけではなく、個々のシートのフィッティングまでおこなうことで、快適なレストモッドでのドライブを約束する。

単なるEVコンバートとはほど遠い手の込んだレストレーションゆえに、やはりレストモッドの呼称がふさわしい。"古い革袋に新しいワイン"を好むのは、旧来のクラシックカーのファンとは異なるセグメントだ。彼らの顧客の多くは、アルファロメオに端を発するトテム・アウトモビリのデザインを気に入ってはいるものの、平均年齢は40~60歳と、クラシックカーのファンとしては若い。世界中から注文が殺到しており、北米からは特に注目が集まっている。一方でクワジオは、安易に電気モーターを積んだだけのいわゆる「USAスタイル」のEVコンバートに警鐘を鳴らす。電気モーターは強大なトルクを発揮するため、それを受け止めるシャシーやサスペンションの剛性を高める必要があるからだ。

日本からトテム・アウトモビリの「クーペ」を注文することはできるのだろうか?実のところ、現在までに日本からの発注はまだないようだが、アジア太平洋地域まで視野を広げると、これまでに台湾と香港からの発注を受けているという。若く、車への夢に溢れるクワジオにとって、創業への壁以上に、将来への希望の方が勝っていたからこそ、トテムのような新世代のレストモッドが生まれたのだろう。最後に将来のプロジェクトについて質問を投げかけてみたところ、「それはまだ秘密です」と、将来への夢が詰まった回答が戻ってきた。



文:川端由美 Words: Yumi KAWABATA

文:川端由美 Words: Yumi KAWABATA

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