女子トークで愚痴られる恋人のような存在!?「NSU Ro80」という車

Octane UK

もしあなたがNSU Ro80を所有していたら、話のネタが尽きることは永遠にないだろう。革命的なロータリーエンジンを搭載したこのドイツ製サルーンは、自動車業界のマイルストーンであることや、エドセルとシンクレアC5を合わせた悲劇を超える程の大失敗(!)など、話題に事欠かない。これらに魅力を感じ、シトロエンの複雑なハイドロを単純過ぎると思えるなら、そしてマゾヒズムがOKなら…Ro80はあなたにぴったりの車といえるだろう。自動車ジャーナリスト達はこぞってこの車を褒めちぎったが、彼らでさえ実際に所有するとなると、その負担には耐えられなかったのだ。

実のところ、もしNSU熱愛者がパブでこの車の噂話をしたなら、立ち聞きした人たちは“「ヴァンケルさん」にイラついて愚痴を言い合う女子トーク”だと思うに違いない。というのも、Ro80には不満点がたくさんあるが、そのほとんどが「Wankel」(ロータリーエンジンの意、人名でもある)に関連する話で、騒がしいパブでは人名と聞き間違えられるのも仕方がない。

先駆者が背後から撃たれるようなことはあるが、NSUは自分で足を撃ってしまったようなものだ。時期尚早と知りながら、必死にこの車を高所得者向けに売ろうとしたからだ。ほどなく、1967年に欧州のジャーナリストらからカー・オブ・ザ・イヤーに推されたこの車は、保証に関する多数のクレームに見舞われた。ローターのシーリングがすぐに摩耗してしまったのだ。ほとんどが3万マイルに満たないうちにエンジンがダメになったが、NSUが保証を引き受けた。噂では、この時ドイツ人オーナー達はあえて騒ぐことをせず、沈黙を通した。当たり前のように使うアウトバーンのせいにされたくなかったのだろうか。

それでもRo80は優雅にドレスを着こなし、ロータリーエンジンを回転させ続け、専門誌でも頻繁に紹介されるようになった。実のところ、この車自体は力強く刷新的だ。低いノーズ、高く抜けるウェッジデザイン、そして0.35まで極められた空力は、まさに未来的。大型のフロントガラスと広々としたガラス張りの室内も同様だ。ギアボックスは2ペダルのセミオートマチックで、クラッチはギアノブのハンドプレッシャーによって駆動する。4輪ともディスクブレーキを装備し、フロントのばね下重量が軽減された。前輪駆動により、室内空間も最大化された。ZF製のラック・アンド・ピニオン式ステアリングは、その後長きにわたりその性能を上回るものは出なかった。0〜60mphは12秒で、最高速度は112mphである。

アメリカの『Road Test』誌は NSU Ro80について、「今後20年間に出現する中で最もエキサイティングな車のひとつである」と褒めちぎった。90年代には、著名なクラシックカーのロードテスターが「60年代にこれほどまでに方向安定性のある車はなかったのではないか」と言及している。

しかしRo80はNSUに終焉をもたらした。1977年までテクノロジーのフラッグシップとして存続した同社は、VWとアウディに買収されることとなる。ロータリーエンジンに関してはいろいろ取り沙汰されたが、その後マツダの技術を超えることは永久にできなかった。マツダは、RX-7にロータリーエンジンを搭載し、1991年のル・マンでは優勝を遂げている。

車が移動手段でしかなかった時代には、 Ro80のオーナー達は、エンジンをフォードの“とてもひどい”V4に仕方なく載せ替えたりもした。しかし、車が文化的な芸術品とみなされる時代になると、 Ro80の信奉者達はオリジナル仕様、またはマツダ製のロータリーエンジンに戻したのだった。

2019年にはドイツから広島まで自走で訪れたオーナーも!(写真:マツダ)

プライス・ポイント(イギリスでの価格帯)

発売当時
NSU Ro80新車発売時のイギリスでの価格は、2232ポンド。他社のライバルであった、2007ポンドの最高仕様のシトロエンDS21パラスや、1999ポンドのBMW 2000よりも高額だが、メルセデス・ベンツ220よりは若干安価であった。2.8リッターのジャガーXJ6はRo80より400ポンドも安い1797ポンド、4.2リッターのXJ6よりも20ポンド安かった。V8のローバーP5BはRo80と同等だったが、トライアンフ2000のサルーンとは1000ポンド以上の価格差(Ro80の方が高額)があった。

発売終了時
イギリスでNSU Ro80は、公式には1975年まで販売され、価格は3531ポンドであった。ジャガーXJ6 よりも1200ポンド以上安価であったが、フォードのフラッグシップであったグラナダやローバーP6 3500Sよりは500ポンド以上高額である。1977年時点の製造台数は3万7204台で、そのうちの3614台が、最大の輸出先であるイギリス向けの右ハンドル仕様であった。

1990年代
クラシックカージャーナリストのインフルエンサーが、購入前に販売中のRo80を何台もロードテストし、この車を高評価した。イギリスを走っていたRo80の台数は1997年がピークで、71台が現役だった。現在は32台がイギリスの公道を走るが、他にも42台がSORN(公共の道路を使用していない旨)申告済みだ。1997年には、ロータリーのスペシャリストによってマツダ製エンジンに載せ換えられたRo80が、4000ポンドで売りに出されている。

現在
イギリスでの2012年度のオークション最高価格は4830ポンド。『Autocar』のジャーナリストであったロナルド・ステディ・バーカー所有の絶品の個体であった。「イギリスにおけるおそらく最高のRo80」として売り出された右ハンドルの個体には、1万ポンドの値がついている。また、未修理のオリジナル状態のボディをキープしている左ハンドルの個体は、7400ポンドで応相談というものもある。コンプレッサーは使用可能だが、それ以外に未確認の要対応箇所はある模様だ。

オクタン日本版編集部

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