キャデラックXT4で本質を探す旅へ|新緑あふれる軽井沢への1泊ドライブ

Ken TAKAYANAGI

キャデラック初のコンパクトSUV「XT4」をはじめて目にした時、これまでとは違う、どこか新鮮味を覚えた。キャデラックといえば、アメリカが誇るラグジュアリーブランドだ。今から100年以上も前から自動車界を牽引してきた誇り高きメーカーが、昨今の市場に合わせて開発したその仕上がりに新世代を意識した姿勢を感じずにはいられなかった。

しかし、それでもキャデラックのプライドを随所に匂わせる。これ見よがしに巨大化するエンブレムで押し出す最新の他社とは違い、XT4はグリルこそ大きいものの、ブランドバッチは控えめ、光の当たり方次第では大きくその印象を変えるエッジの効いたエクステリアなど、もはやそこには“アメリカン”な雰囲気は見られない。むしろグローバルなデザインで、本質で勝負に打って出た印象すら与える。

そんなXT4を駆って旅することに。目的地は軽井沢。東京から片道約200kmと、都会の喧騒を離れ1泊のステイを有意義に楽しむにはちょうどいい距離だ。年々暑さが増す東京の気候から逃れたいのも理由のひとつ。XT4はプレミアムSUVという側面があるとはいえ、気軽に付き合いたくなる雰囲気も持ち合わせているから、こうした旅をするにも躊躇することもない。思いつきで行動する筆者のような人間にも最適だと思う。



東京を出たのは早朝。まだ日が昇りきっていない時間だが、いつものように慌ただしく、早くも渋滞の前兆が見られるほど交通量は多い。一定の速度で走るのは困難なのが首都高の実情だが、そんな時はACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とレーンキープアシストを使えば楽に目的地まで向かえる。XT4のそれは驚くほど精度が高く、ほぼクルマ任せにして問題ない完成度を誇る。“半自動運転”もここまで信頼できると、自分で運転するよりもリスクが低く思えるほどだ。ある程度、ハンドル操作でサポートする程度で済む。それは関越道に入ってからも同様、追い越し車線をとんでもない速度で飛ばしてくるワンボックスカーに抜かれても、半自動運転を使えば、あまり気にもならない。昔の自分なら勝負に売って出ていたのが懐かしく思えるほど、自動運転以外の効能にも気づく。



こうした高速道を一定速で走行していると、常にステアリングに適度な手応えが感じられ、直進安定性も抜群、妙な揺れも見られないなど、ほぼ欧州車の乗り味と同じだ。全長4605mmに対して2775mmという比較的長いホイールベースが功を奏しているのが分かる。同時にクラストップの後席スペースを有しているのもXT4の大きなメリット。コンパクトSUVとはいえ、これなら4名乗車もさほど苦にならないだろう。デートのみならず、家族連れにも向いている。



230psのパワーと350Nmを発する2リッター4気筒ターボエンジンと9速ATの組み合わせも好印象。巡航ではマナーの良さが際立つ一方、追い越しする際はターボによる効果のおかげで十分な加速を見せるなど、ひと昔前のV6エンジンにも匹敵するほどの性能を見せつける。とても4気筒とは思えない出来だ。



そう感心しているうちに、藤岡ジャンクションを通過、上信越自動車道をしばらく進むと左側に日本三大奇景のひとつ、妙義山が見えてきた。まるで中国の景色を思わせる奇岩に圧倒されながら、その後すぐに碓氷軽井沢インターに到着。まだ時間も早いし、さほど疲れもない。それまで小雨と曇りの繰り返しだったが、ここに来て天気にも恵まれ、時折、日が照らすようになっていた。まずは、軽井沢らしい情緒ある雰囲気を求めて、旧軽井沢別荘地へと向かう。



ちょうど新緑の時期と雨上がりが重なり、空気が澄んでいる。そんな中、窓を開けて走らせていると、XT4の高い静粛性や振動の少なさ、さらに旧軽井沢の細い路地ではコンパクトSUVゆえの有り難さを思い知らされるなど、日常では当たり前だったことが、こうした観光地に来ると、あらためて気づくことに。舗装もままならないようなところでもサスペンションの収縮性が優れているから乗り心地も失われないし、低速域も扱いやすい。

そして、旧軽井沢の趣のある数々の別荘を横目にした後、風越地区から中軽井沢を経由して鬼押出しを目指す。軽井沢駅の北側に比べて、バイパスよりも南側にあるゴルフ場を抜ける道を敢えて選んで進んでいく。ここは交通量も少なく、軽井沢らしさを感じるところだ。時折見えるゴルフ場の雰囲気も良い。時間があればプレイしたいところだが、今回は撮影も兼ねて時間の制限があるから断念。軽井沢の澄んだ空気の中、あのグリーンを見てしまうと、後悔しない人などいないだろう。



そんな悔いを残しながらも、次の鬼押ハイウェーでは浅間山の迫力を満喫。この有料道路は全長15.6kmに及び、長いストレートが続く絶景ロードだ。左に見える浅間山は標高2568m誇るだけに何度訪れても圧巻するばかり。二輪ロードレース発祥の地とも言われ、最近では浅間ヒルクライムが行われるなど、エンスージアストにとっては今や日本では数少ない聖地と呼びたくなる場所である。当日は、浅間山の上空のみ厚い雲に覆われていたものの、基本的には天候には恵まれていたから新緑には日が差している。その景色と空気は格別だ。マイナスイオンを感じるには絶好の季節であった。



その浅間山を背景に撮影しようと駐車すると、XT4のサイズ感にあらためて気づく。ここまで来る間、思っていたよりもずっとコンパクトに仕上げられているし、キャデラックにしてはフレッシュさも感じられる。それもそのはず。XT4のデザインを手掛けたのは、社内の若手デザイナーたち。走行時に、あまりサイズを意識させないのは、長いホイールベースと比較的トレッドが広いことによる車両安定性に加え、インテリアはほぼ一直線に流れるダッシュボードデザインによるものだろう。視覚的にも感触的にも実寸を超える印象なのは、こうした相乗効果によるものだと思い知らされた。

そうしていると、そろそろ昼食の時間に。一度訪れたかった浅間牧場を経由して、予約していた旧軽井沢KIKYO キュリオ・コレクション by ヒルトンに向かうことにした。「キュリオ・コレクション」は、ヒルトンホテルグルーブにおけるハイブランドホテルのひとつで、ここ旧軽井沢のキュリオ・コレクションはホテル・ロンドン・キュリオ・コレクションと北米サンディエゴにあるホテル・デル・コロナド・キュリオ・コレクションbyヒルトンに続くホテル。ちなみに、ヒルトンホテルグループとしての最上級ブランドは「ウォルドーフ・アストリア・ホテルズ&リゾーツ」であり、日本においても2021年9月にROKU KYOTO, LXR Hotel & Resortsが開業、2026年には「ウォルドーフ・アストリア東京日本橋」が開業予定となっている。“その土地ならでは”を堪能することをコンセプトとし、ホテル名の“KIKYO”は“帰郷(おかえりなさい)”と、古くから軽井沢に自生していた“桔梗”の2つを意味するという。



エントランスにXT4をつけると、快くスタッフが出迎えてくれた。ホテルの造りはモダンかつシンプル。客室総数は50室あり、低層ゆえに優雅さを感じる。中庭のチャペルにつながる苔の美しいアプローチが人気で、案内された1階のコートヤードデラックスからもその雰囲気をバルコニー越しに楽しめる。





ディナーを予約していたのは、ホテル内のファインダイニング「ソノリテ」。このソノリテ(SONORITÉ)とは共鳴を意味し、ミシュラン三ツ星レストランとして名高い神戸のカセントで研鑽を積み、スペインのガリシアで世界の潮流を経験した料理長の石井まなみ氏が、その名に準ずるよう、信州の豊かさと生産者の情熱をリスペクトしながら新たな一皿に仕上げていくとあって、見た目の美しさはもちろん、香りから食感、口当たりまで、すべてにおいて丁寧かつ上品。この日いただいた、山女魚のパエリアとラムチョップはいずれも素材の良さが引き出されていた。軽井沢の湯川で釣られた天然ものの山女魚に、五郎兵衛米と北軽井沢やまこきのこ園の舞茸、スープは川海老のカルドを使用している。





一方の羊の炭火焼きは菅平ダボス牧場で育てられたサフォーク種で、放牧されていたというだけに、適度に甘く柔らかい。アプリコット、ブラックベリーに紅玉りんごを煮込み熟成したソース、コリアンダーの実を添えているのも調和がとれていてバランスが良く、どれも美味だった。





こうして心もお腹も満たされた後、軽井沢らしい適度な湿度を感じながら眠りにつく。翌朝はそのまま帰京するにもまだ早いこともあって、せっかくだからワインディングを経由して帰ろうと思い、碓氷峠でXT4のポテンシャルを試すことにした。そこで見せたXT4の身のこなしは筆者の予想を超え、SUVであることすら忘れそうになるほど次々にコーナーをクリアしていく。通常使用するツーリングモードでは前輪駆動となる一方、スポーツモードの場合は4輪駆動となるだけに安定感は抜群、状況に応じて最大で50対50の駆動配分となるほか、後輪側は左右のトルク配分を行うトルクベクタリングも働くため、トラクションが効き、四輪がスクラムを組んで進んでいく。しかもスポーツモード時は、スロットル開度も早まるから加速も鋭い。もちろん、Dレンジのままでも変速スピードは早まるが、積極的にシフトパドルを操作すると、意のままに楽しめることを実感した。こうした峠を走ると、230ps&350Nmに対して9速ATは実に効果的だと痛感する。それに加え、リアルタイムで可変するサスペンションのセッティングや剛性の高いシャシーも絶妙だ。安定性が高いこともあって重心の高さをほとんど意識させなかった。



やはり、今のキャデラックは明らかにかつてとは違う。これなら今までドイツの定番SUVに乗っていた人でも納得するはずだ。それほどXT4の完成度は高く、ライバルにも引けを取ることもない。久々に感銘を受けた1台である。


キャデラック XT4 スポーツ
全長×全幅×全長:4605mm×1875mm×1625mm
エンジン:1997cc 直4
最高出力:230PS/5000rpm
最大トルク:350N・m(35.6kg・m)/1500~4000rpm
トランスミッション:9段AT、全輪駆動(選択式)
ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション:(前/後)マクファーソン式/マルチリンク式
車重:1760kg
メーカー希望小売価格(税込) 640万円
https://www.cadillacjapan.com/xt4/model-overview.html


旧軽井沢KIKYO キュリオ・コレクションbyヒルトン
〒389‐0102 長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢491-5 0267-41-6990
https://curiocollection.hiltonhotels.jp/hotel/chubu/kyukaruizawa-kikyo-curio-collection-by-hilton


文:野口 優 Words: Masaru NOGUCHI 写真:高柳 健 Photography: Ken TAKAYANAGI

文:野口 優 Words: Masaru NOGUCHI 写真:高柳 健 Photography: Ken TAKAYANAGI

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