北へ、南へ、シトロエン2CVと30年|第22回 ファッション雑誌の表紙を飾った件について

Yoshisuke MAYUMI

25年くらい前だろうか、当時在籍していた旅行雑誌でスノーボードのイベントをやることになった。スキーブームの衰えと反比例するように盛り上がってきたスノーボードというスポーツを応援することで、スキーリゾートへの集客を図ろうという壮大な計画である。

担当となった筆者はまずスノーボーダーのことを知るために、横ノリ系スポーツを愛する若者たちから絶大な人気を誇っていたFineという雑誌を買ってみた。壮大なる計画の小さな一歩目である。当時筆者はギリギリ20代だったが、サーフィンもスケートボードも、もちろんスノーボードとも無縁の生活を送っていた。だからFineなる雑誌を知ってはいたが手にとって読んだことはなかった。

見開きの第一特集ページを見た時の衝撃は今も鮮明に覚えている。

「LOVE LOVE LOVE」という大きな特集タイトルとドリカムの同名の曲の歌詞が見開きいっぱいに書いてあった。

意味がわからなかった。

気を取り直して読み進めていったものの内容が全然頭に入らない。なので読者の気分を抜け出して編集者の職業的な目で記事を読み解こうとした。タイトル、コーナータイトル、メインカット、見出し、リード、本文、キャプション……、これらのパーツを「仲間」ごとに分解していけば、雑誌記事の大体の構成は掴むことができる。特に見出しを追いかけていくのが重要だ。優れた記事は見出しを見れば内容がわかる。

しかし、そんな職業的な目で見てもこの記事については何を伝えたいのかさっぱりわからなかった。わからない具合でいえば税務署に置いてある確定申告の手引き書と双璧をなすだろう。

でもこの雑誌は売れているのだ。売れているということはこの誌面からなんらかのメッセージを受け取って共感する人が結構な数いるということだ。恐るべし、ファッション雑誌とその読者。

正直に告白すると筆者はファッションにあまり興味がなく、Fineに限らずファッション雑誌なんて買ったことがなかった。だからその「流儀」がわからなかったのだ。今になって思えば、Fineを「読んだ」のが間違いだった。あれは読むものではなく見るものだったのだ。

それ以降もファッション雑誌を手に取る機会の少ない筆者であるが、しかしいま手元には1冊のファッション雑誌がある。表紙には白い素敵な2CV、つまり筆者の愛車なのであるが、そのボンネットに座って外国人のモデルさんがポーズを取っている。例によってエニカが引き寄せた縁だ。



雑誌の名は「2nd」。これも名前は聞いたことがあったけれど読んだことはなかった。公式サイトには「30代男性にとって、平日の仕事服が1st(最重要)だとしたら、休日のカジュアル服が2nd(2番目)。そんな休日スタイルを提案する、語れる洋服を集めた身近でリアルな大人のファッション誌です」とある。なるほど、そうだったのか。古着の本かと思っていたことは秘密にしておこう。

表紙のタイトルは「フレンチに学ぶ、ヨーロッパスタイル」だ。5月16日に発売されたこの号の内容は公式サイトによれば以下のように説明されている。

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定番の業界人スナップはもちろん、今回はカルチャーに関する内容も盛りだくさん。’50年代におきた映画運動ヌーヴェルヴァーグや、フレンチシックのアイコンであるポール・ウェラーも登場。
また、フレンチファッションと切っても切り離せないトピック「フレンチカルチャーと渋谷系」では、いまも渋谷系のアイコンとして活躍し続けるカジヒデキさんにインタビューを敢行!
フレンチな着こなしを実践するにあたって欠かせない“ノンシャラン(=無頓着)”というキーワードを軸に、日本におけるフレンチスタイルのいろはを様々な角度から学べる特集となっています。
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色々と知らない単語が出てくるが、たぶんわかる人にはわかるのだろう。ここで比較のためにオクタン日本版の最新3月30日発売号の内容を列記してみよう。

「紳士の競走馬 フェラーリ250GT SWB」
「アルプスを、一気に越えて。ブガッティ ヴェイロン・シロン」
「"B"はベストのB グループB」

詳しくない人が見たらなんのことだがわかりません、という点においては車の雑誌も同じなのかもしれない。それにしてもグループBの特集タイトルは面白いな(笑)



話題を2nd最新号に戻すと、2CVは10ページの特集「ジャン=ポール・ベルモンドに捧げる、“ノンシャラン”のススメ」に登場する。ノンシャランが無頓着であることはつい先ほど筆者も知ったばかりだが、なるほどバンパーのサビを放置したままのうちの2CVにうってつけの役回りだ。嬉しいことに担当のデザイナーさんが2CVのファンとのことで、特集のみならず表紙にも使うことになったそうだ。

それにしてもノンシャラン(nonchalant)が無頓着ならシャランは頓着という意味なのだろうか。VW頓着って変な名前だなと思って調べてみたら、VW Sharanの方はペルシャ語で「王族」を示す"Shah"と、VW内でMPVを表すものとされる"-an"を組み合わせた造語だそうだ。ちなみにnonのないchalantは英語のhotに当たるそうです。そうでしたか。



ちなみに撮影から発売まで10日ほどしか掛かっていない。印刷や流通にかかる日数を計算すると、たぶん2〜3日で校了まで持ち込んだのではないだろうか。同業者としては他人事ながらなかなか痺れるスケジュールだ。一方の筆者は「撮影風景の写真を貸してくれれば、オクタンのweb版で宣伝しますよ〜」なんて恩着せがましく言っておきながら、5月の下旬ごろになってノロノロと原稿を書いている。恥ずかしい限りである。



それから2ndは見るだけでなく、読んでも楽しいファッション雑誌だったことは付け加えておこう。後半にあったヤングタイマーなバイクでGO!特集はなかなか読み応えがあった。やはり読んではいけないのはファッション雑誌ではなくFine(20数年前の)だったのだ。

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI
写真提供:2nd編集部 https://funq.jp/2nd/about/

文・写真:馬弓良輔 Words & Photography: Yoshisuke MAYUMI

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