車に牽かれてスキーをする!?GPアイスレースの楽しみ方

Porsche AG

私が初めて“スキージョアリング”というイベントを目の当たりにしたときには、“困惑”しかなかった。さらに2020年2月、“GPアイスレース”を訪れたときは、車に牽かれてスキーをするというスポーツに競技名が付けられていることすら知らなかった。直訳すると“スキードライビング”なのだが、スカンジナビアの農民が犬や馬に牽かれて移動する手段を指すものだった。現在では、これがさらにスポーツへと発展し、動物ではなく、バイクや車を使って牽くようになった。このユニークなスキージョアリングという競技を目当てに、GPアイスレースを観にくる人も少なくない。

GPアイスレースが開催されるのは、オーストリア・アルプスにあるツェル・アム・ゼーの凍った飛行場だが、実は1950〜70年代にここで開かれたイベントによく似ている。ツェル・アム・ゼーと聞いて、ポルシェ家を想像される方もおられるだろうが、まさにそうだ。フェルディナント・ポルシェ博士が死去した1年後の1952年の2月10日、凍ったツェル湖のサーキットにて追悼記念レースがおこなわれた。

初回のレースこそ豪雪によってツェル湖では開催されなかったものの、第2回以降はツェル湖の氷上に設けられた1.8kmのスリリングなサーキットでおこなわれた。しかし、時が経つにつれ、氷が薄くなり、イベントが中止になることが増えた。1974年には、氷が割れ、除雪機が沈み、運転手が死亡する事故が起きた。これにより、イベントは幕を引くこととなってしまう。

由緒ある氷上レースの復活


ある日、フェルディナント・ポルシェ博士の孫であるフェルディナント・フェルディが、スタッドレスタイヤを履いた父親(フェリー・ポルシェ)の550スパイダーを目の当たりにしたことから、すべてがはじまった。彼はレースの歴史について勉強し、彼の友人であり、ビジネスパートナーでもあるヴィンツェンツ・フレゴールとツェル・アム・ゼーのレースを復活させる案を考え始めたのだ。レーシングドライバーのハンス・ヨアヒム・シュトックとリヒャルト・リーツにイベント再開に当たっての助言を受けたのち、政府に話を持ちかけるなどし、準備を進めた。そして、スキージョアリングが開催できる氷上サーキットを、ツェル・アム・ゼーの飛行場に再び設置したのだった。

2019年に開催された第1回のイベントは、数千人の観客が訪れたという比較的小規模なイベントではあったものの、アイスレースの活気をその地に呼び戻すことに成功した。翌年の2020年は、スケールが一段と大きくなっていた。



ゲートをくぐると、そこには氷や雪に囲まれた車が並んでいた。多くの車はスタッドレスタイヤを履き、氷のサーキットが似つかわしく見える。参加している車は、地元のドライバーが乗る4輪駆動のアウディやフォルクスワーゲンのチューニングカーをはじめ、モータースポーツ史では誰もが知るレーシングカーまで様々だ。その中には、ヴァルター・ロールがステアリングを握っていたグループBのアウディ・スポーツ・クアトロもあった。そのドライバーといえば、なんと名手、スティグ・ブロンクビストその人だった。他にもハンス・シュトックがスタッドレスタイヤを履いたマーチ741の“F1マシン!”に乗っていた。ここはそうした豪華なドライバーと車が勢揃いするイベントに成長していた。



マシンがすぐ近くにある


午前中、パドックを散策すると、とても興味深い発見がある。クールなラリーマシンがたくさん並んでいる。ほとんどが、もはやクラシックモデルになっているが、シュコダは現在のWRCカーを持ち込んだ。ラリークロスのタイトル保持者であるタナー・ファウストは、550bhpのVWビートルを走らせるのを心待ちにしている。このイベントは、車と観客を隔てるロープや会員限定のパスなどはほとんど設けられておらず、一般のギャラリーも間近で車に触れ合うことができる。





もちろん、短いコース沿いに良い場所を確保するには、混雑が比較的少ない場所でも、そう容易ではない。比較的低速で、グリップがかかりづらいため、観客はそこを通過する車をスローモーションのように見ることができる。まさに、スリル満点だ。



日中の走行も十分エキサイティングといえるが、この小さな飛行場は夕暮れ後、さらに活気づく。暗くなると気温はマイナス10度以上に急降下する。デモランと予選ラップの後は、スキージョアリングが開催される。ファンに向けた演出としてのショーボートの要素は確かにあるが、アスリートはタイムランに本気で臨んでいる。パリ・ダカール仕様のポルシェ911 3.2 4✕4の後ろの氷上で最初に滑り終えた後、ノルウェーの元ワールドカップ・アルペンスキー選手であるアクセル・ルントスビンダルは「車に牽かれて、普段は聞かないエンジン音を聞きながら滑走するのは、とても楽しい!」と喜んでいた。





おそらくこのイベントで最もエキサイティングなのは、マルチカーレースであろう。非常な接近戦が繰り広げられるが、雪の吹き溜まりとの格闘はあるにしろ、ドライバーは比較的安定して車を走らせることができる。繰り返しになるが、このレースに参加する車の種類は実に豊富だ。ラリーで育てられたWRC仕様のランチア・インテグラーレ、アウディ・クアトロ、三菱ランサーの各エボリューション・モデル、スバル・インプレッサ以外にも、後輪駆動車がたくさん参加している。ポルシェが主となって開催されるこのイベントだが、他の自動車メーカーからも多くの“名車”が参加していた。



この時期のオーストリア・アルプスはとても美しい。もちろん近くには面白いゲレンデが点在するので、スキーを楽しむこともできる。食事の際は、山頂に美味しいカフェやバーもあるが、“Hendl Fischerei”というレストランを強くお勧めしておこう。

2020年2月当時は、COVID-19のパンデミックがこれほど蔓延するとは想定外であったが、21年のイベントはほとんどが中止となってしまった。一般の観客は参加できなかったが、GPはコールドスタートと呼ばれる小さなバーチャル・イベントを催して、世界中のファンを賑わせた。フェルディ・ポルシェは2022年に再開することを計画しており、今後のイベントの成長に期待しようではないか。


まとめ:オクタン日本版編集部 Words: Matthew Hayward Photography: Porsche AG

まとめ:オクタン日本版編集部 Words: Matthew Hayward Photography: Porsche AG

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