日本で味わう英国流モータースポーツ|サイドウェイトロフィー現地レポート

Takuo YOSHIDA

ヒストリックカーという自動車のカテゴライズは、現役時代が終わった後すぐに始まっているように思える。だが実際にその呼び名が相応しくなるのはずいぶんと時間が経ってからのことのようだ。例えば’60年代のモーターレーシングで活躍したワークスカーは、早々にプライベーターに払い下げられ、最後は個人レベルの車好きが引き取って大改造を施し、スクラップヤード行きになってしまうにてしまう例も少なくなかった。なぜならそれは、ただ時代遅れというだけのシロモノだったからである。

だが時間の経過とともに、価値観にも変化が現れる。歴史的な価値が尊重されはじめた時、はじめてそれはヒストリックカーと呼ばれるのだ。ヒストリックカーレースにもこれと同じような側面があるように思えてならない。1998年に初めてグッドウッド・リバイバルが開催された時、往時にこだわるそのスタイルは驚きをもって迎えられた。だがすぐにそれは、ヒストリックカーレースのスタンダードになっていく。
 
古い車を愛好する人たちが集まり、自分たちの愛車で憧れの景色を作り上げる。ザ・フェスティバル・オブ・サイドウェイトロフィーは、グッドウッドがヒストリックの世界にもたらしたエッセンスを、わが国で最も色濃く反映したイベントといえるだろう。



そのステージとなる袖ケ浦フォレスト・レースウェイ(FRW)は新興のサーキットであり、もちろん歴史はない。だがそのシンプルな作りのピットエリアにヒストリックカーたちが収まると、そこには古き佳き風が薫る。





もちろん参加車両の出自も、ドライバーの腕も、本家グッドウッドの域に達しているとはいえないのも事実だが、しかしアクションを起こすことは重要だ。格式のあるホテルが無言のうちにそこを訪ねる客の服装や振る舞いに範を示すように、サイドウェイトロフィーの主催者もまた自らのこだわりを示すことで、パドックに入るすべての人の衣装や参加車両の見た目、そして改造範囲に然るべきモラルを浸透させているのである。


 
2004年に産声を上げ、袖ケ浦FRWが完成し、そこをホームサーキットとして今年で9年目の開催を数えるサイドウェイトロフィー。近年はセブリング40Mと題した、2ドライバーによる40分耐久レースも加わり、参加するだけでなく、見ても楽しいレースとして認知されてきている。

また今回のレースでは3輪(サイドカー)のレースが復活したことでも話題を呼んだ。2輪と4輪が共存するイベントは決して多くないが、さらに3輪も揃ってレースを繰り広げるイベントは日本ではサイドウェイトロフィーだけだろう。



4輪の参加車輛が使用するタイヤは、イベントの誕生から一貫してダンロップのバイアス構造のヒストリックレーシングタイヤが用いられている。コーナーでは比較的容易にブレークし、それをねじ伏せるようにドライバーがカウンターステアを当てる。ドリフトという言葉が浸透する以前、イギリス人は横滑りのことを“サイドウェイ!”と称賛したことが、イベントの名称の由来なのである。



一見、コスプレ・イベントに思われがちなサイドウェイトロフィーだが、エンジンに火が入り、ドライバーがヘルメットのバイザーを下ろせば、そこからは真剣なモーターレーシングのはじまりだ。レースはフリー走行や予選が行われ、グリッドスタートの決勝レースが終わると、暫定表彰式がコース上で華々しく行われる。もともと順位にこだわらず、雰囲気作りからはじめようという声掛けでスタートした“サイドウェイ”だが、人間の競争心を抑えることは難しい。そして熱くなる心が思いがけないドラマを生む。



今回のセブリング40Mでもスティントごとに興味深いバトルが展開され、見る者の目をくぎ付けにしていたのである。

春と秋、年2回の開催が定着しているサイドウェイトロフィー。次回は11月28日に開催される予定だ。





文・写真:吉田拓生 Words and Photography: Takuo YOSHIDA

文・写真:吉田拓生 Words and Photography: Takuo YOSHIDA

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