フェラーリ342アメリカで、禁断のベルニナ峠をヒルクライム!

Bernina Gran Turismo

ベルニナ・グランツーリスモは、2014年9月にまず招待制として開催され、翌年から一般にも公開されるようになったという歴史の浅いイベントだが、すでにクラシックカー・カレンダーの中で最も偉大な存在のひとつになっている。2017年には、『Octane』UKが催す2017 ヒストリック・モータリング・アワードのモータースポーツ・イベント・オブ・ザ・イヤーの候補となり、2018年にはラリー・オブ・ザ・イヤーの最終選考に残っている。

タイム計測を経て表彰もおこなわれるが、レースやラリーでもなければ、ツーリングでもない。情熱的なドライバーの集まりであり、洗練されたホスピタリティとリラックスした雰囲気に溢れ、世界トップクラスのクラシックカーが集まることで知られている。

スイスは、1955年ル・マンでの悲劇的な大事故を転機に、国内でのレースが一切禁止され、世界的にみても環境に対して最も厳しい国のひとつとして知られている。それにもかかわらずサンモリッツで開催されるのだから、その発想は大胆の一言に尽きるといえよう。



サンモリッツでは、1929年と30年にヨーロッパで最も美しくタイトな山岳路と評されるベルニナ峠で、ヒルクライムのベルニナ・グランプリが開催され、一流のレーシングドライバーたちが腕を競った。スイスではサーキットでのレースは禁止されているが、エンガディナ地方とイタリアを結ぶ2本の道路の1本であるベルニナ峠では、週末に閉鎖してレースを開催することができる。

ラ・ローザからオスピツィオ・ベルニナまで、全長3.4マイル(5.7km)、高低差1500フィート(457m)、50のタイトコーナーが続く山岳路でタイムトライアルが開催される。出場する車はほとんどがレース用のサラブレッドで、かつてならスイスの警察がすぐに押収してしまうようなものばかりだ。



『Octane』も招待を受け、私はこの神聖で歴史的な峠道を、たった6台しか製造されていないフェラーリ342アメリカ(0246AL)で走ることができた。幸いにして、このフェラーリには、2018年ペブルビーチ・コンクールの直後にモントレーの17マイル・ドライブ(これも専用のターマック・ストレッチ)で乗った経験があったので、自信を持ってドライブすることができた。現在はヨーロッパに棲み、非常によく手入れされているが、2018年のコンクール当時よりもオドメーターの数字は増えていたことから、新しいオーナーもきっとこの車を楽しんでいることがわかる。

フェラーリ342アメリカでヒルクライムを楽しむ



イタリア、ジェノバの実業家エルネスト・ファッシオに販売された“0246AL”は、グレーとグリーンのツートンカラーが特徴的だった。1953年3月に開催されたジュネーヴ・モーターショーでフェラーリのブースに展示された後、ラリー・デュ・ソレイユ・カンヌに出場したヒストリーを持つ。最近でも、2013年に始まったレストアを経て、2017年に開催されたカヴァリーノ・クラシックでは、ベスト・イン・クラスとフェラーリ・エレガンス・カップを受賞するという快挙を成し遂げている。

このように素晴らしいストーリーを持つ車だが、正直なところ、私はその4.1リッター、トリプルウェバー付きV12エンジンが、海抜2328mのベルニナ峠でもなんのトラブルもなく快調に走れるのだろうかという不安にかられ、前夜はなかなか眠りにつくことができなかった。

しかし、それはまったくの杞憂であった。走り出すとすぐに、素晴らしいサウンドが全身に響き、強いトルクも感じられる。ステアリングはかなり重く、アメリカでもそうだったが、ベルニナ峠のタイトなコーナー、特にヘアピンカーブではそれが顕著に表れる。フェラーリのホイールベースの長さと、ノーズにかかる重量のためアンダーステアがかなり強く、コーナーの端にあるエイペックス(岩がある)を目指すためには、本気で集中しなければならないのだ。しかし、クラシック・フェラーリにしては扱いやすく、もう少し道幅があり、かつマシンの“価値が低ければ”、テールを軽くスライドさせることもできるかもしれない。

この峠はイベントのために閉鎖されているので、他の車の存在を気にすることなく道路の幅をフルに使うことができ、ちょっとした練習をすることも可能だった。そしてすぐに、トルクをフルに利用すると、ギアチェンジを頻繁にする必要がなく、ステアリングの操作しやすくなるというコツを掴むことができた。レーシングカーのように、ステアリングが真っ直ぐになっているときだけアクセルペダルを踏むのが効果的なことがわかった。練習走行を含めて、ヒルクライムの第1コーナーから最終コーナーまで、計6回の上りと下りを繰り返すのだが、回転数や速度を上げなくても、各コーナーをスムーズに曲がるだけで、毎回、秒単位でタイムに差が出る。

後ろから見ていた友人は、V12サウンドが谷間に気持ちよく響いていたと喜んでいた。道路脇の牛たちにとっては、ただただ騒々しいだけだろうが。

魅力的なクライマー

ベルニナ峠に快音を響かせていたのは私のフェラーリだけではない。他にも、繊細さ溢れるブガッティ・タイプ35や、パワーアップしウィングで武装したポルシェ911、腕ほどの太さのエグゾーストパイプが装着された427コブラと、グレアム・ヒルが1966年のRACラリーでステアリングを握ったという1966年ミニクーパーS。また、今回のイベントで最も良いサウンドを奏でたマシンであったBMW M1 プロカーの直列6気筒の快音も峠に響き渡っていた。オリジナルのアウディ・クアトロ・グループBカー、グループ4のランチア・ストラトス、ランチア・デルタS4など、枚挙にいとまがない。

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ドライバーでは、1969年にヨーロッパ2リッタースポーツカー選手権で優勝したアバルトに乗るアルトゥーロ・メルザリオの姿もあった。また、元フェラーリのF1ドライバーであるステファン・ヨハンソンも、笑顔でサーブV4のステアリングを握っていた。今年はあまりこの種のイベントが開催されなかったため、最速タイムを競うような本気組も、カジュアルに仲間との交流を楽しんでいた。天候に恵まれたことや、ロケーションが優れていたこともあり、ソーシャルディスタンスを保ちながら快適かつ安全にイベントが開催できたことは幸運だったといえるだろう。

イベントが終わり周囲を見渡すと、会場が参加たちの満足そうな笑顔で溢れていることに気がついた。しかし、私が思うにベルニナ・グランツーリスモの精神を最もよく表しているのは、峠という天候も変わりやすくシビアでチャレンジングなコースであるにもかかわらず、ヒルクライム中に一度もボディパネルがへこんだことがないことだ。もっとも、エンジンのなかでコンロッドがどうなっているかはあまり考えたくないのだが。



まとめ:オクタン日本版編集部 Words: Massimo Delbò Images: Bernina Gran Turismo

まとめ:オクタン日本版編集部 Words: Massimo Delbò Images: Bernina Gran Turismo

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