ダカールラリーでさえ、快適に走れる!?アダプティブクルーズコントロールの付いた、KTMの最新鋭モデル

Satoshi MAYUMI

ザルツブルグ空港から車で小一時間。マッティヒホーフェン郊外にKTMの本社はある。1953年に出資者、クローノライフのK、創業者、トゥルンケンポルツのT、そして創業地、マッティヒホーフェンのM。ブランド名にはそんな歴史が潜んでいる。

拡大するモビリティービジネスに参画すべく、R100という初号機を発売。その後、モペッドやスクーター、小排気量のロードバイクも得意とした。今やオフロードバイクの世界では知らぬモノがいないKTMだが、彼らがその道を歩み出すのはとある偶然からだった。

1960年代後半、アメリカを代表するオフロードライダー、ジョン・ペントンは、ロードバイクを改造した重たい「スクランブラー」でオフロードを走ることに不満を持っていた。モーターサイクルショップを営み、兄弟揃ってアメリカ代表のエンデューロチームに参加する彼は、競技にも遊びにももっと軽くコンパクトなバイクが欲しかったのだ。

ヨーロッパで彼の目にある小排気量の2ストロークエンジンが目にとまる。ザックス製のそれはオフロードを走らせるにはもってこいの特性を持っていた。そこでペントンはそのエンジを乗せたオフロードバイクを作ってアメリカで売らないか、とKTMに持ちかける。渋るKTMに、最後はエンジンもパーツも全部自費で買うから、組み立ててくれ、という線でようやくビジネスをまとまる。リスクを負ってでも勝機が見えていたペントン、まだアメリカのようなファンライドカルチャーが開花する以前だったKTMにとってペントンのオファーに懐疑的だった。

その後時代は急進的にオフロードバイクへと進み、アメリカではペントンブランドで、ヨーロッパではKTMブランドでそのモデルを発売。KTMの名声は一気に上昇しレースでも活躍。ここにKTMのオフロードヒストリーが始まる。順風満帆に推移していた1991年、アメリカの金融破綻をキッカケにKTMはその波を被り倒産の憂き目にあう。

その知らせを、オーストリア人でKTMチームでモトクロス250㏄クラス世界チャンピオンに輝いたハインツ・キニガドナーは休暇先の別荘でその話を聞くことになる。その時、彼は友家族と一緒だった。キニガドナーの実家であるパン屋が倒産しそうになったとき、融資をして救った投資家とは、以来家族ぐるみの付き合いにあった。その人こそ、現在のKTMを束ねるCEO、ステファン・ピエラ。キニガドナーは熱くKTMについてピエラに語った。このメーカーには魂がある、KTMを残したい、その話にピエラは耳を傾け、現在へと続く第二章がはじまったのだ。

KTMは復活後、1990年代半ばから本格的にファクトリーチームがダカールラリーを戦い始める。長年をついやして勝利を掴み、その過程から生まれたのがKTMのアドベンチャーバイク、950アドベンチャーだった。ここに紹介する1290スーパーアドベンチャーS,Rに直結するDNAであり、当時のファクトリーマシンと各部の部品を75%も共用したという。







新型の1290スーパーアドベンチャーは、エンジンは1301㏄、水冷V型二気筒は75度のはさみ角というコンパクトなもの。クロモリ鋼を使ったトレリスフレームに搭載する。こうしたレイアウトはダカールウイナー以来守られた伝統だ。その上でハンドリングを改善するためフロントへの荷重バランスを増やすレイアウトをとっている。また、23リットル入りの燃料タンクは、低重心レイアウトに変更。転倒時にはタンク本体がエンジンやライダーの操作系であるペダル類を護るよう設計されている。



また最新の電子制御技術も多く搭載する。2輪では2021年が元年となるミリ波レーダーセンサー搭載のアダプティブクルーズコントロールをSモデルに標準装備。ヒルホールドコントロールやクイックシフター+、ライディングモードの変更と詳細設定を7インチTFTモニターと、バックライト付ハンドルスイッチから操作できるのも新しい。スマホとのコネクティビティを前提にした機能も多く、装備に関しては枚挙に暇がない。



モデル名の最後につくSとRの違いは、Sモデルは前輪が19インチ、後輪が17インチ。ワイドなラジアルタイヤをキャストホイールに履く。前後サスペンションは電子制御セミアクティブ式。長距離移動での快適性にも軸足を置く。

KTM 1290 SUPER ADVENTURE S メーカー希望小売価格:239万円(税込)





対するRモデルは、前輪21インチ、後輪18インチとしてダートでの走破性に軸足を置くもの。前後サスペンショストロークを20mm伸ばした220mmを確保。荒れ地に入り込んでも旅を止める必要がないのも特徴だ。

KTM 1290 SUPER ADVENTURE R メーカー希望小売価格:259万円(税込)





実際に乗ると、1301㏄、160馬力と138N.mを生み出すエンジンは舗装路では無敵に思えるほど力づよい。それでいてKTMの特徴は扱いやすいのだ。WPというサスペンションブランドを傘下にもつKTMだけに、足回りも特上。路面の荒れをほぼ感じないフラットな乗り味と、雨天でもサスペンションの追従性の高さからタイヤの接地感がよく分かる。コーナリング特性も上質。さすがトップレンジモデルだ。雨のハードブレーキングでもほとんどABSが顔を出さなかったのは、優れたシャーシ性能があってのこと。電子制御の進化もきめ細やかだが、基本性能の向上も見逃せない。



Rモデルはダートコースで試した。満タンで約245㎏、オフロードモードを選択すると100馬力にパワーを絞るとはいえ、雨でぬかるんだコースでは苦戦しそうだ。しかし、進化したトラコン、ABSの組合せにより、想像のはるか高いところで路面を噛み、加速と減速に信頼感をもたらしていた。まるでダカールラリーのオンボード映像のような光景が自分の目の前に広がり始める。腕に覚えのあるライダーなら、そんな幻想的ロールプレイも楽しめるのがRモデルの真骨頂だ。



1290スーパーアドベンチャーは、SかRか、という究極の選択となるが、ツーリングならS、KTMの真髄、オフロードも旅の中で欠かせない、という人にはRを推す。なるほど、魂と物語を感じるテストだった。


文:松井 勉 写真:真弓悟史 Words: Tsutomu MAYUMI Photography: Satoshi MAYUMI

文:松井 勉 写真:真弓悟史 Words: Tsutomu MAYUMI Photography: Satoshi MAYUMI

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