元オーナーの息子が語る、当時の逸話|フェラーリ250GT SWBの物語【後編】

courtesy of Daniel Siebenmann

この記事は「数あるフェラーリの中でも特に羨望の的|250GT SWBの物語【前編】」の続きです。


ベルリネッタのその後


ジーベンマンJr.は当時をこう振り返る。「父はジョー・シフェールの友人で、2人は公道でしょっちゅうレースをして、父はよく警察のやっかいになっていました。想像できるでしょう。スイス人はとても堅物なのです。苦情が来たという話も聞いていますよ。シフェールは1971年に亡くなりました。私の名付け親になるはずでしたが。そして父は1977年に死去しました。もっとお伝えできる逸話があればよかったのですが。父に詳しい話を聞きたかった。私に残っているのは、父のアルバムと、父が取っておいた記録だけです…」



1960年代のいずれかの時点で、2563GTは大西洋を渡り、10年以上を複数のアメリカ人オーナーの元で過ごした。1979年にチャールズ・グネーディンガーの手でスイスに戻り、これを購入したレネ・マイスターが250 GTルッソのエンジンに換装した。最近になって、フェラーリ・クラシケによって正当なSWBのエンジンに戻っている。その後17年間は、スイスのコレクター、ジャン・ピエール・スラヴィクが所有し、2002年にスタニスラス・デ・サデレアの手に渡った。デ・サデレアは4年間、SWBでツール・オートやル・マン・クラシックといったヒストリックレースに出走した。この頃、ジーベンマンJr.は招待されてSWBと対面し、かつて父親が握ったステアリングの後ろにも座った。

ベルリネッタのフィール

究極のオールラウンダーは250 GTOだとよくいわれるが、その頃にはグランドツアラーよりレーシングカーに重点が傾いていたのは間違いない。公道での走りに関しては、過去から現在のオーナーの間でも意見が分かれている。ロードカーとしてはお粗末だという人もいれば、問題ないという人もいる。あまり暑くない日で、助手席と話すためのヘッドセットがあれば、という条件付きではあるが…。GTOの権威であった故ジェス・プーレはこれには反対で、V12サウンドで会話がかき消されるほうがいいと述べている。



一方、SWBに関しては意見の相違はずっと小さい。1959年のパリ・サロン展示車両を所有していたヴィック・ノーマンなら、SWBのほうがはるかに優れたロードカーだと力強く主張するはずだ。もうひとりの証人がクライヴ・ビーチャムである。ビーチャムが所有するSWBは、1961年にロブ・ウォーカーでスターリング・モスが数々の成功を遂げたシャシーナンバー2735GTだ。"SEFACホットロッド"なので、公道走行に関してはSWBの中でも最も厳しい条件であることを心に留めた上で、ビーチャムの話を聞いてみよう。「素晴らしい走りをする車だよ。ギアボックスは最高に気持ちがいいし、尻からもステアリングからもすべてが伝わってきて、本当にコントロールしやすい。私は何度かマラネロまで往復したし、スコットランドのラリーにも出走した。楽しいのひと言だ」

「限界でドライブするなら、超一流でなければ最高の力は引き出せないだろう。しかしSWBは一般人に対しても非常に寛容で、すこぶる楽しくドライブできる。ノイズにも触れないわけにはいかないね。音も最高だ。エンジンには野性味がある。私はあとになって4カムエンジンも経験した。たしかにシルクのようにスムーズだけれど、2カムの手つかずの唸りは少々失われたように思う」

「スピードに乗れば素晴らしく扱いやすい。80~90mphを悠々と保つことができて、最高の気分が味わえる。60mphで走行しても、488を160mphで飛ばすより楽しめるよ。快適さも悪くないし、硬すぎもせず、振動もない。それでいて感じたいものはすべて感じられる。見事だよ」



さらにはトランクも広いので、長身のブロンドを隠して国境を越えることもできるとビーチャムは話す(彼が個人的に発見したことではない。この話はまた別の機会に)。SWBの汎用性を示す例はほかにも無数にある。ビーチャムの2735GTは、1961年のル・マンでリタイアしたあとファクトリーに送られ、そこからロブ・ウォーカーのメカニックが運転して、シルバーストンでおこなわれるブリティッシュ・エンパイア・トロフィーに駆けつけた。

ビーチャムはこう語る。「誰もが片付けを始めていた。間に合うとは思っていなかったんだ。車はまだル・マン仕様のままだった。この人によれば、サーキットに到着するや彼の荷物を放り出して、タイヤに空気を入れると、モスが飛び出していってポールポジションを獲得した。そして決勝ではEタイプを破ったんだ。はるばるイタリアからアルプスを越えて走行してきたばかりでね。両方の役割で理想的な車だったことが分かるだろう」

SWBでバカンスやウィンタースポーツへ出掛け、トップクラスのレースを戦ったダニエル・ジーベンマンなら、きっと大きく頷くに違いない。


編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵
Words: James Page Photography: Stephan Bauer for Auxietre & chmidt,Archive photographs courtesy of Daniel Siebenmann


編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵

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