冷戦下の英雄!?政治家たちを運び、耐久ラリーにも出場した「タトラ」という車

Octane UK

タトラ603は冷戦時代を思い起こさせる存在でもある。戦前には、ハンス・レドヴィンカの設計による極めて進歩的なトラックと乗用車を生産していたタトラだが、第二次大戦で翻弄され、戦後に社会主義体制となったチェコスロバキアゆえに大きく企業の形態を転換することになり、トラック生産に軸足を移すことになった。1946年に自社設計の空冷12気筒ディーゼルエンジンを搭載した3軸大型トラック、T111の生産を開始し、さらに46年には会社は国有化された。

乗用車は戦前型をほそぼそと継続生産していたが、タイプ87と97のリアエンジンモデルの後継型として新型セダンの開発を計画した。戦後、タトラはトラック製造に重きを置き、レドヴィンカは戦犯(1951年開放)として抑留されていたことから、タトラ・プラン(T600)の生産はシュコダ社が担うことになり、1947年に試作車が完成した。それとは別に、空冷V8搭載のT87の後継モデルとして、タトラ社内のフランティシェク・カルダウスとウラディミール・ポペーラらのエンジニアたちが、より大型の新型自動車の開発を始めていた。デザインのトップはアントーニン・パッロ、テクニカルディレクターはフランティセク・バールテクだった。それは排気量3600cc未満のV8エンジンをリアに搭載する、6人乗りセダンであった。

タトラT87。これは以前の記事でも紹介している、コンクールコンディションまでレストアが施された車両だ。

社会主義の中で


タトラは1952年に2.5リッターの空冷V8を搭載したT805小型トラックを発売していたが、T603と名付けられた新しいセダンには、その805のコンポーネンツが流用された。T603は、1955年に初期型が公開され、翌年に発売された。1960年9月28日までの生産分には、ガラスでカバーされたヘッドランプが3個、備えられた。その後の小変更で、車幅が拡大され、エンジンも少しアップグレードされて、4個のヘッドランプが中央寄りに備えられた。1968年11月21日には、4灯式ながら意匠が異なるFRP製のヘッドランプナセルを持つフロントが公開され、ディスクブレーキや電子制御イグニッションが備えられた。

603は、政府高官、共産党政治局員、国営企業の上役などの技術者や、お抱え運転手用のために設計された。このコンセプトは、西ヨーロッパ流の販売サービス手法が中央集権化された、堅苦しい5年計画に属していても変わらなかった。よって、そういった技術者やお抱え運転手らには、自分たちで車を清掃、維持、修理まで手掛け、必要なスペア部品は工場へ依頼するといったことまで求められていた。長期間にわたって使われた車は、タトラ社工場に送られて整備を受け、およそ7年毎に“新車同様”に戻された。初期型に後期型のディスクブレーキが追加され、最新のインテリアやパネルが使用されるなどもした。

ラリーでも活躍


1960年からは、タトラ社はチェコスロバキア政府の許可のもと、603によって国際的なモータースポーツ・イベントに参加を開始した。まず、モンテカルロ・ラリーに3台で参戦し、ポーランドでの“ラパイド・オブ・ポーリッシュ・フォルクローレ”のほか、遠くモスクワを含む東側諸国のイベントにも参加した。

603での最高順位は、ニュルブルクリンクを舞台にした、“マラソン・デ・ラ・ルート”での上位独占での優勝であった。トラックメーカーが手掛けた堅牢さと信頼性に富んだサルーンは、72時間にわたって素晴らしいレースを展開し、1967年にはチーム優勝を達成した。だが、603による国際的なレースのキャリアは、1968年で終焉を迎えてしまう。それは、プラハの春(チェコスロバキアの変革運動)による民衆の反乱に、当時のソ連が従ったことによるものであった。

タトラ603をドライブすれば、映画の様々な役柄の気分になれる。ボンド映画の悪役、社会史家、整備士などが思い浮かぶ。さらにタトラ603を所有すれば、本物の自動車エンスージャストであることの証になるだろう。


<タトラ603関連情報>
■イギリスでの価格
後期型の程度のよい車なら、英国では1万4000ポンド程度が相場だ。だが、入手できる車の多くに履歴がほとんどないので、自身での調査が最も重要だ。初期の3灯型は最も希少なため3万ポンド以上になるが、中期の“幅狭”の4灯型でも、後期の拡幅された4灯型よりは若干ながら高額になる。

■注意事項
603はオーバースペックな節があるが、どれも満足な整備がされているだろう。603をドライブしてハッピーになれるかどうか、洒落たレストランを目指し、テストドライブで遠方に出掛けてみよう。熟練ドライバーにとっても、この車なら興味深いドライブになるはずだ。

フロアやシルに腐食が発生しやすく、フロントのスペアホイール部分も同様だ。エンジンは頑強だが、細部のメンテナンスと定期的なオイル漏れのチェックは必要だ。気温が高い場合、始動の悪さには要注意だ。オーナー向けハンドブックによると、30秒までのクランキングは大丈夫とのことだ。

ギアボックスも強固だが、コラムシフトの変速リンケージがダッシュボード裏のブーメラン型コントローラーの影響で折れ、変速シャフトが動かなくなることがある。

ドアラッチには定期的に注油が必要だ。各ドアのラッチ上部にある潤滑油注入口をチェックし、もし乾いていたら、コーナーでドアが勝手に開いてしまわない様に、ドアはロックしておくべきだ。

ウィンドウリフターは、ドア内部にあるまるでトイレのチェーンの様な装置でコントロールされている。窓が両方ともスムーズに上下するかチェックしよう。また、シート下のガソリン燃焼式ヒーター装置にも注意だ。火事になる可能性があるからだ。安全のためのタイヤの空気圧は、リアが34psi(2.3bar)、フロントが22psi(1.5 bar)だ。


編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:オクタン日本版編集部 Words: Dave Richards

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:オクタン日本版編集部 Words: Dave Richards

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