ベンテイガスピードに乗るという「とてつもない贅沢」が意味するものは

Masaya ABE

満を持してデビューした至上のSUV

ベントレー初のSUVとしてベンテイガがデビューを果たしたのは2015年のことだった。21世紀に入ってから始まったブランド再生において、ベントレーはハイエンドのドライバーズカーとしてその地位を再び確立しようとしていた。その決断はSUV全盛という時流にも見事に乗って大成功を収めるに至ったのである。

もっともそのように考えたのはベントレーだけではなかった。世に高級と呼ばれるブランドはすべて(例外はマクラーレンとフェラーリだが、後者はプロジェクトの存在が明らかになっている)SUVを開発しマーケットに送り出している。そして案の定、ほとんど全てのモデルが成功を収めるに至った。

出せば売れる。そんな活況を見せた、つまりは流行り廃りの激しいSUVマーケットにおいて、ベンテイガにもテコ入れが必要なタイミングが当然やってくる。2020年半ば、マイナーチェンジを敢行。それはブランドの新戦略“ビヨンド100”に則った最初のモデルとして登場したのだった。



デビューから20年までに実に2万台以上を生産した激戦セグメントの人気モデルゆえ、その変更は大胆かつ慎重に行われたと言っていい。老舗ブランドらしく、どこからどうみてもそのモデル(この場合はベンテイガ)にしか見えないけれども、その実、フロントマスクやリアフェンダー周りにリアエンド、そしてインテリアには大胆なチェンジを促している。特にインテリアはデジタルイクイップメントの装備が最重点課題となり、ほとんどフルモデルチェンジ級の変更をみた。



まずはベーシックグレードのV8から導入され、次いで高性能版のW12ツインターボを積んだスピードと、V6+電気モーターでV8と同様にベーシックグレードを担うハイブリッド、さらにはV8の高性能版を積んだSと、合計4グレードが現時点でラインナップされている。なかでも今回の主役はトップグレードとなるスピードだ。

ベントレーブランドにおけるスピードの役割は単なるフラッグシップモデルに留まらない。それは過去と現代とをつなぐ、言ってみればブランドのDNAであり技術的チャレンジの成果である。それゆえベントレーはすべてのモデルにスピードを用意してきた。昨年2020年に惜しまれつつその生産を終えた最高級サルーンのミュルザンヌにもスピードグレードは存在したのだ。

ハイエンドSUV界において、12気筒エンジン搭載モデルをラインナップするのは英国の名門、ベントレーとロールス・ロイスだけである。以前は同門であり世界最高峰を二分していた超高級車の代名詞というべきこの二大ブランドだけが、今、SUV界における頂点=12気筒エンジン搭載モデルを擁しているという事実はとても興味深い。言い換えればそれはこの極めて貴族的な2ブランドにのみ許された特権というべきなのかも知れない。



そう考えるとベンテイガスピードを駆る歓びというものはもはや、動力性能や機能性からのみ得ることのできるものではないことに気づく。

もちろん、そのパフォーマンスの尋常でない様をひとつひとつ挙げていくことは可能だ。重めのアクセルレスポンスから一気にリニアリティ豊かな加速へと移る極めて自然で劇的な車体の動き、剛体感あふれるボディによって成し遂げられる精緻なフロントアクスルの捌き、ほとんど抵抗らしき感覚のない凄まじく滑らかなライド感覚、右足をちょんと載せただけで味わう2000回転以下での素晴らしく心地よいエンジンフィールなどなど、順に思い出せばいくらでも書き出せてしまえそうだ。

けれども重要なことは、そんなにいちいち極上のドライブフィールではないとあえて言いたい。ある意味、当然、そうであって然るべきなのだ。ベンテイガスピードというモデルがベントレーSUVの最高峰であるという、言ってみれば生まれながらの約束によって、そのことは運命づけられていた。逆にいうと、そのように盲目的な信頼をおけることこそ、世界的に評価されるブランドの底力というものだろう。

今この時代に6リッターなどという排気量のエンジンをぶん回すことはある意味、常軌を逸している。だからランボルギーニ ウルス(あちらは8気筒)より最高速で1km/h上回ったなどということをことさら強調する必要などない(ランボルギーニが逆の立場ならありうるが)。それよりもむしろ12気筒エンジンのSUVにとっては逆境ともいうべき今の時代に、その類まれな高性能のほんの一部をゆったりと楽しんでみるというとてつもない贅沢にこそ、ベンテイガスピードに乗る価値はあるのだと思う。 

食いしん坊な話で申し訳ないのだけれど、ベンテイガスピードを街中でのんびりクルーズさせている時、ブランド牛のシャトーブリアンを噛みしめた瞬間によく似た幸福を感じたのだった。



文:西川 淳 写真:阿部昌也 Words: Jun NISHIKAWA Photography: Photography: Masaya ABE


文:西川 淳 写真:阿部昌也 Words: Jun NISHIKAWA Photography: Photography: Masaya ABE

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