プリンセスは自分で運転するつもりだった!? ペガサスが輝く、王女のためのロールス・ロイス

Dirk de Jager (C) 2021 Courtesy of RM Sothebys

2021年6月19日にリヒテンシュタインで開催されたRMサザビーズのオークションで、予想された落札価格をはるかに上回る金額で落札された車がある。それはマリナーが手掛けた1954年のロールス・ロイス ファントムIVリムジンだ。





ファントムIVは、1950年から1958年の間に、わずか18台が生産され、11名のごく限られた顧客へと納められた。5台は英国のロイヤルファミリーへ、3台はスペイン政府へ、3台はクウェートのハキムへ、そしてイラクの王室とイラン国王へも2台ずつ届けられている。現存する16台のうち5台は当初の所有者またはその後継者によって維持されており、4台は政府コレクションとして管理され、残る2台は博物館で展示されている。つまり、世に出る可能性のあるファントムIVは極めて台数が限られているといえるだろう。

今回オークションで販売された車両は、その極めて貴重なファントムIVうちの1台である。15番目に製造されたシャシーナンバー4BP7は、H.J.マリナーで架装された。マリナーでの記録上の顧客名が「モンテーニュ男爵」とされているのは、おそらくセキュリティ上の理由によるものだろう。ロールス・ロイス側の記録には、はっきりと所有者の名前が記されている。Her Royal Highness Princess Margaret、つまりこれは英国エリザベス女王の妹であるマーガレット王女のために造られた車なのだ。







マーガレット王女のファントムIVは黒で仕上げられ、パワーウィンドウと仕切り、電動ブランドのついたガラスのルーフパネルや、ブルーのポリスライト等を備えている。王女が公務で使用するための車両ではあったが、モダン・ガールでパワフルな車を愛していた王女は自分でも時折このファントムIVを運転したいと考えていたため、オートマチックトランスミッションと、革ではなく柔らかなファブリックで仕上げられた。シートは高さとリーチの両方を調整することが可能な仕様となっている。



また、ラジオはフロントコンパートメントとリアコンパートメントにそれぞれ1つずつが取り付けられており、マーガレット王女が後席のラジオをオンにすると、運転手のラジオは自動的にオフになるよう設定されていた。後席のシートは調整可能で、沿道の人から王女の姿がよく見えるよう、わずかに前方へスライドさせることができた。また、彼女の個人的なマスコットであるペガサスのマスコットがボンネットに飾られている。





1954年に納車されてから、マーガレット王女はこのファントムIVで13年間をともに過ごした。1967年に引退した後、この車両はブルーのポリスライトと紋章を外され、ロンドンのディーラーに販売が委託された。販売された先は、エセックスにあるリムジンサービス会社のオーナー、A. W. D. アダムスである。アダムズ氏は「この車両の元所有者のことを知ることも、公言することも許されなかった」と回想している。つまり、30年以上の間、エセックスへの訪問者はマーガレット王女のファントムIVだとは知らずにリムジンサービスとしてこの車を借りることができたのだ。なんとも得難い経験である。また、この車両はいくつかの結婚式や映画出演にも駆り出されている。

その後、ファントムIVは2003年にP&A Woodを介してアメリカ人コレクターのロバート・シャフナーへと売却された。シャフナー氏は数少ない「ファントムIVコレクター」のひとりで、18台のファントムIVのうちの3台を所有していた。彼は以前の王室での登録ナンバーを復活させ、警察ライトと紋章の再装着も含めて機械的及び美的修復を完了させた。この車はその歴史的価値を認められ、シャフナー氏によってイギリスで管理されていたようだ。2008年に現在のオーナーへと売却されたあとも、この車両は引き続き大切に扱われていた。



事前に予想されていた価格は40万〜60万スイスフラン(約4800万~7200万円)であったが、実際にはそれをはるかに上回る225万5000スイスフラン(約2億7000万円)で落札された。これは、戦後のロールス・ロイスのオークション販売価格の記録を塗り替えるものだ。参考までに、これまでの最高価格は2017年に134万7500ドル(現在のレートで約1億5000万円)で落札された1958年シルバークラウド1ドロップヘッドクーペである。


Images: Dirk de Jager (C) 2021 Courtesy of RM Sothebys

オクタン日本版編集部

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