なんと驚愕の6億円クラス!アストンマーティンのスペシャルマシン、ヴィクターを贅沢ドライブ

Dean Smith

『Octane』では、長くアストンマーティンのスペシャルシリーズを取材してきたが、今回のワンオフであるヴィクターと、88台限定のV12スピードスターほど特別なものは初めてだ。

アストンマーティン社のトビアス・ムアースCEOは、過去数カ月にわたり、同社の未来のビジョンを緻密に計画してきた。しかしそれとは逆に、これらの車が同社の過去の姿とは相反することが皮肉でもある。アストンの新しい物語にはフィットしないかもしれないが、並外れた異常値ともいえるこの2台には、車ファンたちは大喜びだろう。

まずは、センセーショナルすぎるヴィクターから紹介しよう。One-77のシャシー、リアエンド、そして7.3リッターのV12エンジンを採用しており、カーボンセラミック製のブレーキや複雑なインボード式サスペンションは、サーキット専用のヴァルカンと同じものだ。また、ヴァルキリーからもロリポップスタイルのテールライトが提供されている。パーツがスペシャルになるほど、ヴィクターはさらに特別な唯一無二の存在になってゆく。



ヴィクターの同社内部でのコードネームは「AML」だったが、そのデザインは別の有名なワンオフカーの恩恵を受けている。それは、ル・マンのレースカー、RHAM/1で、素晴らしきプライベート・ドライバーの、ロビン・ハミルトンが設計してレースも出場した。

彼の車は、ハミルトン自身やチームのメカニック達が親しみを込めてムンチャー(むしゃむしゃ食べるという意味)と呼んだ。それは、この車のディスクブレーキの減りが非常に多いことに由来している。プロジェクトネームになった以外にも、ぶっきらぼうで荒々しい70年代のレースカーのような体つきを、鮮やかに思い起こさせるそのスタイルをも周知することとなった。

完璧な設えのカーボンパネルの下には、コスワースの手により、One-77のオリジナルスペックである750bhpから836bhpへとパワーアップしたエンジンが収められている。さらに特筆すべきは、One-77の“少々心もとない”シングルクラッチ式パドルシフトASM(Automated Sequential Manual)トランスミッションが、“本物の”マニュアルシフト化されている点だ。それはゴージャスなウォールナット製ノブが付いたレバーと、伝統的な”H”型ゲージから構成され、マニュアルシフトする。

内装は、美麗かつダークなウォールナットの装飾が、リッチなグリーンのレザーの内張りと完璧にマッチするという、外観と同様にあらゆる点で魅惑的だ。実際のところ最近のアストンにおける最高のインテリアとして、他車に大差をつけて勝っていると言えよう。

ヴァルカンからのもうひとつの流用パーツに、航空機の操縦桿のような、ドラマチックなステアリングホイールがある。TV番組の『ナイトライダー』のものとは明らかに違った、本格的なものだ。このステアリングを前にすると、かなり後ろに座ったのかと驚くほどだ。威圧的とも言えるドライビングポジションにつくことになり、はなはだ人騒がせなのだが、すぐに慣れてしまうことには驚かされた。



このV12エンジンは、壮大な音で必ず注目の的になるのだが、そのスロットルレスポンスはナイフのように切れ味がいい。取り回しは重々しいのだが、型にはまらない楽しさやその風貌は、この車の特性に完璧にマッチしている。

アストン社はこのヴィクターを公道仕様にするように対応中であったが、残念ながら今回、私たちは同社がテストに使う、シルバーストン・サーキットのインフィールドにあるストウ・サーキットでしか乗ることができなかった。この全長1.74kmのコースは、タイトでフォークの先のようなコースだが、ヴィクターの4速までの猛烈なアクセラレーションを感じるためには充分に長いストレートがある。しかも、トリッキーなコーナーがいくつもあり、シャシーに重量を架けることもできる。楽しいというほどではないが、グリップは抜群かつトラクションも充分で、ブレーキの制動性も申し分ない。

このヴィクターを手に入れたベルギー人オーナーからの支払い額について、アストン社は何も語ろうとしないが、おそらく4百万ポンド(約6億円)レベルだろうと予想される。庶民の私たちからしても、「それは非常に有意義な金の使い方であろう」と言っておこう。

それとは対照的に、V12 スピードスターが76万5千ポンド(約1.2億円)とは、ある意味バーゲンのようだ。ただ、ボディがカーボンではなくスチールなので、拍手喝采とはならないだろう。最近では、こういったルーフはおろかフロントウィンドウさえも備えない車が登場し過ぎていることは否めない。しかしこのスピードスターは、昨今のインスタグラム世代にとってはコレクター要素が抜群であることは確かである。



ちょっとしたアクセサリーといった感じになるかもしれないが、だからといってスピードスターがドライブして楽しくないわけがない。実際のところ、非常に楽しい。その驚異的なパフォーマンスを快適に楽しむには、クラッシュ・ヘルメット着用が必須だ。だが、サスペンションには上品なしなやかさがあるし、イギリスのでこぼこした幹線道路や細い道によく合うように設定されている。これから、きっちりと開発された車であると断言できる。

基礎の部分の造形は、DBSスーパーレッジェーラのフロントと、ヴァンテージのハッチバックをミックスしたものといえよう。DBSのツインターボV12エンジンはデチューンされ、8段ATを介しているため、ヴァンテージ由来のピリピリしたフィールにはおよばない。公平にいうなら、555lb-ftのトルクには弱々しさは感じられず、DBSに匹敵する690bhpを誇る。

他に車のいないアウトバーンのストレッチなら、200mphでドアがバタつくまで、パワーは弱まらない。しかし、もっと興味深いことは5000rpmで新たなトルクピークに到達し、これはDBSの3200rpmよりも高いうえ、さらに6500rpmまで続く。これには、スーパーレッジェーラの一枚岩的かつ単一次元的な加速に代わる、素敵な楽しさがある。実際のところ、大柄なスピードスターを道路に押し付けつつ、素晴らしい速さを生み出している。ちなみに車両単体の重量は1750kgを超えている。



たしかに、これはかなり尖った車だ。往年の伝説となった DBR1との共通点は、カラーリングとトリミングだけだ。だが、それはさておき、まれに見る驚くほどのドライビング体験を味わうことができるマシンだ。


編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:オクタン日本版編集部 Words: Richard Meaden Photography: Dean Smith

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:オクタン日本版編集部 Words: Richard Meaden Photography: Dean Smith

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