フェラーリ愛が止まらない|現在の松田芳穂氏のコレクションと戯れる

Photography : Masaya ABE

フェラーリを知り尽くした人間が、本当に楽しめるフェラーリとは?
ほぼすべてのフェラーリを乗り継いできたからこそわかる真の価値



松田芳穂氏のフェラーリで、共に走る

4月の晴れた朝、ある都内の駐車場を目指して僕は急いでいた。品川の自宅からそのままタクシーに乗ってしまえば良かったのだが、たまにはメトロを使ってみようとトライしたのが甘かった。JRから乗り継ぎをすれば、目的地はそこから数駅なはずだった。だがサインが複雑でどちらのホームに乗っていいかわからなくなってしまったのだ。一度乗り換えに失敗し、地上に出たときは約束時間の10分前。でもガレージのある駐車場まではもうすぐだ。「良かった、間に合った」と思った瞬間、スマホが鳴った。松田さんの秘書からだ。「堀江さん、いまどこですか?」。今日は松田芳穂さんのフェラーリで一緒に軽井沢を目指す大切な一日。僕が到着したときには既に2台のフェラーリは暖気運転もしっかりと終わっており、自分の非礼を反省した。

ご縁をいただきオクタン編集部では、松田芳穂氏の自叙伝『疾走』を制作した。その繋がりで現在保有されているフェラーリを、毎号順にオクタンで紹介をさせていただいているのだ。前号では550マラネロと512Mを駆って御殿場を目指した。今回はF12 TdFと599 GTO。目指すは軽井沢である。

オクタン読者ならずとも、松田芳穂氏の説明はもはや無用だろう。フェラーリ美術館を開設し自ら館長に就任。フェラーリ・クラブ・オブ・ジャパンの会長も務めた。自ら新旧フェラーリのハンドルを握り、国内外のラリーやレースなどのモータースポーツに参戦。一時は250 GTOを4台同時に保有していたほどのコレクターでもあり、また新しく発足したフェラーリの公式オーナークラブ「フェラーリ・オーナーズ・クラブ・ジャパン」(FOCJ)の発起人となった。2006年にはイタリア共和国政府から、自国文化への貢献を認めた功労勲章「イル・コンメンダトーレ」も受勲している。現在はフェラーリの走りを安全に楽しむために、ほとんどのクラシックフェラーリを手放し、だがその代わりにスペチアーレを含むすべてのフェラーリを、自らが楽しむために購入されている……

いや、そんなありきたりの紹介文を書きたいわけではない。我々世代の車好きにとって松田氏は憧れを通り越して雲上人のようなかたである。その方のお話を聞きながらフェラーリの乗り比べをさせていただけるなんて、正に編集長冥利に尽きるというものだ。

まず最初に僕は599 GTOのハンドルを握った。関越自動車道までは一般道で向かうのだが、松田さんのF12 TdFはあっという間に見えなくなってしまったのだ。なぜか?599 GTOのパーキングブレーキを解除するボタンがどこにも見当たらなかったから。ありそうな場所をいくら探してもスイッチがない。さすがに少し焦り始めたが、「ん、ちょっと待てよ」と冷静になると、普通のグリップタイプのサイドブレーキレバーがすぐ横にあった。そうだこの車のデビューは2010年。まだオートパーキングがない時代。機械に甘やかされている自分に再び反省をする。

松田さんは速い。運転は丁寧だが、無駄がないのでズンズンと進んでいく。途中のSAで乗り換えるまで追い付くことはできなかった。でもそのおかげでGTOのパフォーマンスを一人にんまりしながら楽しむことができた。さすがGTOの名が付くだけあり、この車は特別だ。もしサーキットならば本気でポテンシャルを試すことができたのだろうが、アクセルをどんなに踏んでいっても、有り余るパワーを支えるシャシーの余裕には勝てそうもなし。670馬力のフロントV12エンジン、恐るべしである。









Ferrari 599 GTO
レース専用車である599XXのロードゴーイングバージョンとして開発。GTO(Gran Turismo Omologata)は公道仕様にホモロゲートすることを意味する。トランスミッションは、専用開発の6段2ペダルMT「F1マチック」であり、変速は俊敏でわずか0.06秒。その結果0-100km/h加速は3.35秒、最高速335km/hを実現した。販売された2010年時点では歴代市販フェラーリ最速の名を欲しいがままに。F1のノウハウを応用したエアロダイナミクス性能にも注目だ。専用のバンパー、ボンネット、フロントスポイラー、ディフューザーなどを装備し、アンダーフロアのフラット化もおこなっている。時速200キロ時のダウンフォースは144㎏におよぶ。

ボディサイズ:4710㎜×1962㎜×1326㎜
ホイールベース:2750㎜
車両重量:1495kg
エンジン形式:65度V型12気筒
排気量:5999cc
駆動方式:FR
変速機:6段シーケンシャル
最高出力:493(670ps)/8250rpm
最大トルク:620Nm/6500rpm
最高速度:335km/h


「どうでしたか?」松田さんが599GTOの印象を尋ねてくれた。12気筒エンジンをこよなく愛する松田さんは、あらゆる12気筒エンジンを乗り継いできて、一度手放したこの599 GTOを買い戻したほど、この車のバランスを気に入っている。レーシングカーのような軽快な印象ではないが、この図太いトルクで蹴飛ばされるような走りは大好きである。



乗り換えたのはTdF。

松田氏をフェラーリの魅力にここまでのめり込ませたのは、フェラーリの名を一代にして世界に轟かせた"カリスマ" エンツォ・フェラーリの存在があってこそだが、同じくらいに強く惹かれたのがフェラーリV12エンジンの絶対的な存在感だった。

「ミドシップでもフロントエンジンでもどちらでも構わないんだけど、僕は12気筒が好きなんだよ。V8も悪くないけれど、やはり湧き出てくるパワーがまったく違うから」

F12 TdFは、当たり前だが599 GTOとは別物であった。パワーも勝り、ハンドリングもより俊敏で、ブレーキのタッチも軽く、しかもよく効く。つまり走りやすい。いい車だ。この2台を乗り比べさせていただいたことに感謝をしながらも、高速を降りて碓井峠に差し掛かる頃になると僕の結論はほぼ決まってきた。よくやる遊びである。「もしどちらか1台を選ぶならどっちだ?」である。僕の答えは599 GTO。ややレトロで融通が効かないところも感じさせるが、永く付き合うならば、より古典的な機械っぽいほうを僕は選ぶ。

軽井沢の松田さんの別荘に到着すると、時をおかず友人の小林康雄氏が走りに磨きをかけたランボルギーニで登場された。小林氏は軽井沢倶楽部の会長ほか、軽井沢で多くの事業に携わっている。コンサルファームを含め様々なビジネス最先端での経験も豊富。話は実に面白く、しかもわかりやすいのだ。小林さんは松田さんのことをとても慕っておられ、軽井沢で松田さんが過ごされるときは、どちらともなく頻繁に走りに誘うそうだ。

ちなみに小林氏の見解ではF12 TdFこそ最高とのこと。「ツール・ド・フランスは本当に良くできたフェラーリなんですよ。走り込んでいったときのレスポンスとタッチのバランスは、ほかのどのフェラーリよりも優れている」。さすが現役でモータースポーツを楽しまれているかたのコメントである。確かにコンマ01秒を競うならばF12 TdFに軍配が上がるのは間違いないだろう。

昼食をいただいて、この日は軽井沢で解散となった。僕とカメラマンは少し残らせていただき2台の細かい写真を撮らせていただいた。

考えてみると何だか夢のような時間である。車の性能を試すだけならば、それは僕らの仕事ならばある程度は叶う。だが実際に多くの経験をされてきた方々の話を直接聞きながら、その自動車談義を膨らませていくことはなかなかできることではない。

松田さんに、また感謝である。次号はどこに連れていってもらおうか。









Ferrari F12 TdF
フェラーリF12 TdFは、2012年に発売されたF12ベルリネッタをベースにした高性能バージョンであり、その名は伝説のロードレース、ツール・ド・フランスに由来している。エンジンの最高出力と最大トルクは、F12ベルリネッタの740ps/8250rpm、70.4㎏/6000rpmに対して、780ps/8250rpm、71.9㎏/6750rpmまで強化されている。シャシー性能もグレードアップされて、さらに空力性能も改善。ベースモデル比でダウンフォースを87%も向上させているのだ。0-100km/h加速が2.9秒、0-200km/h加速7.9秒、最高速340km/h以上という動力性能を実現している。

ボディサイズ:4656㎜×1961㎜×1273㎜
ホイールベース:2720㎜
車両重量:1415kg
エンジン形式:65度V型12気筒
排気量:6262cc
駆動方式:FR
変速機:7段F1 DCT
最高出力:574(780ps)/8500rpm
最大トルク:705Nm/6750rpm
最高速度:340km/h



文:堀江 史朗(オクタン日本版編集長) 写真:阿部 昌也 Words:Shiro HORIE(Octane Japan) Photography:Masaya ABE

オクタン日本版編集部

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