コットン100%の紙とは?|14世紀から続くフランスの紙工房

Photography: Tomonari SAKURAI

今日は紙の話をさせてください。前回のモナコ、ニース訪問のあと、プロバンス、オーベルニュを抜けてパリに戻った。その途中、今回のメインのひとつである紙の工房に立ち寄った。ここはフランスに紙の製法が伝わった14世紀から変わらぬ方法で紙を製造している唯一のアトリエ。いわゆる手漉きの紙なのだが、手漉きの紙というと和紙を思い浮かべる人が多いはず。日本人であればそれが普通だと思う。僕もここに訪れて実際に目にするまではそれを思い浮かべていた。つまり「和紙のフランス版」程度に。

山間の峠にある工房。下手するとここが工房だと気がつかずに通り過ぎてしまう。ここで昔ながらの製法で紙は今も作られているのだ。

フランス国内で遺産として登録されている。一部は15世紀頃からの建物も残っている。花などを栽培する農園などすべて訪れることができる。

昔からの製法を保つ工房だけに、国が指定する“現存する会社の遺産”としても登録されている。

博物館として当時の職人の生活の様子も保存されている。家具のようなベッド。頭の上には赤ん坊用のベッドがつるされていたり、木靴も置かれている。

オーベルニュの山の麓、ラガ川沿いにある工房。この川の流れを利用して水車を廻し、紙の原料となる繊維をほぐしていく。中世の時代オーベルニュは宗教と商業が行き交っていたため、中国から長い時間をかけてヨーロッパに伝わった紙の製造法がここに根付いた。最盛期には何十軒という紙の工房がラガ川沿いにひしめいたという。

18世紀の紙の工房に与えられたマーク。ここにあるのがそれぞれの工房のトレードマーク。当時はこれだけ工房があったというわけだ。今回訪れたこの工房は3番のマークだ。

繊維をたっぷり入れた水槽に枠を入れ、それを引き出すとすでに繊維でいっぱい。和紙のように何度も水槽の中で枠を動かしていくのではなかった。原料が違うからだ。和紙は植物の繊維を使って紙にしているが、ここではコットンなのだ。知り合いの版画家のローレンズは「コットンの紙がやっぱり最高よ」と言っていた。コットンの紙とは?ここでそのなぞが解けた。本当にコットンを使っているのだ。100%コットンの布を細かく刻み、水車と繋がった杵で水に浸けられたコットンを24時間叩いて繊維状に戻したものが原料となる。これが中世にヨーロッパに伝わってきたときの製法なのだそうだ。コットンの布はシーツとして病院で使われたりしたもので、当時は化学繊維がなかったため、布といえばほとんどがコットンだった。それらを回収する業者などから集められたたコットンを紙にしたのだ。製法は当時は企業秘密だったため、この工房で働いた人は退職後もこの村から7年間は外に出られなかったという。

このコットンの切れ端が原材料なのだ。これは14世紀に伝わってきた製法のママ。

水が引かれ、それが水車を勢い良く廻す。


その水車の力でキネが動き原料となるコットンの切れ端が24時間かけて繊維へと分解されていく。

プレスされて絞った紙を最終的につるして1週間ほどかけて干す。

和紙と違ってのりを入れないため、まさにコットン100%である。その代わり、つながりが弱いので薄くすることができない。そこが和紙と大きく違う点だ。ここで作られた上質な紙はノーベル賞の賞状などに指定されていたこともあるようだ。コットンのほかに花びらを入れ一緒にコットンに閉じ込めた紙なども作っている。水彩画に相性が良い紙のようだが、ふっくら分厚い紙なので版画や活版印刷にはエンボスがきいてこれも良いような気がする。

一度すくい上げた紙に花を綺麗に配置する。その上に再度コットンを含んだ水をかけてやって花を固定して乾燥させるという方法。それを見せてくれたのはオードリーさん。

繊維だけでなく花びらを入れたりして紙も作れる。


ここオーベルニュはフランスの中南部。山に囲まれとても綺麗な村が続く。中世のころに発展してそのまま時が止まったような美しい地方。自然に囲まれた風景においしい郷土料理。峠が多く車で走るのも楽しい地方なのだ。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

RECOMMENDEDおすすめの記事