ヴァンキッシュSの実力はいかに…!?|フェラーリ 575Mと徹底比較【後編】

Photography : Gus Gregory

この記事は「モダンクラシックの雄、フェラーリ 575Mとアストンマーティン ヴァンキッシュSを乗り比べ!【前編】」の続きです。



ヴァンキッシュS


575MのV12エンジンはおとなしい性格であったが、ヴァンキッシュSではV12エンジンサウンドを極限まで大きく引き出している。まるでコンセプトカーのような奇抜な外観を持つヴァンキッシュSは、スタイルもキャラクターもフェラーリよりアグレッシブである。



575Mと同様に、ヴァンキッシュはデザインを見ているだけで、走り出すことを連想させ、胸が高鳴ってくる。インテリアはフェラーリとは対照的だ。レザーがふんだんに使われているものの、プラスチック製のスイッチ類や部品も目立つ。ヴァンキッシュが誕生した時代は、現代とクラシックのちょうど中間くらいであるため、いささか時代遅れだと感じてしまうかもしれない。一方のフェラーリはフィアットの部品も使っているが、それがかえって功を奏しているように思える。

アストンマーティンのエグゾーストノートは、私をいつも笑顔にさせてくれる。最初に回転数が上がった後、その咆哮は落ち着き、スロットルを閉じると、脈打つようなブルブルという音になる。サウンドはフェラーリよりも大きいように感じられる。

シートは理想的なポジションよりも1~2インチほど高い位置にあるが、サポートとクッション性に優れ、少しずつ体が沈み込んでいく。575Mのような広々とした空気感はないが、フェラーリよりも快適に感じられる。このヴァンキッシュSはASMからMTに載せ代えられているため、足元にはクラッチペダルがあり、トランスミッションのトンネルからギアレバーが突き出ている。だが、この改造は非常にうまくいっており、ヴァンキッシュが3ペダルを前提に設計されていなかったと気づかないほどだ。唯一の欠点は、ギアノブがセンターコンソールの直立した面に近接しているため、ギアチェンジが難しいことだ。



2台を堪能して



マニュアルのV12 GTが好きなものの、575MやヴァンキッシュSは高価で手が出ないという方には、フェラーリ550マラネロ、もしくはアストンマーティンDB7ヴァンテージがお勧めだ。初期の550マラネロはMT仕様しか製造されていない。生産台数は3083台と多く、うち457台が右ハンドルだった。価格も高騰しているが、そこそこの走行距離のある車であれば、約8万ポンドで手に入れることができる。最も希少な550ワールド・スピード・レコード・エディションは高価で、その3倍の価格になる。

ヴァンキッシュがフェラーリの575Mに対抗するように、DB7ヴァンテージは550の直接のライバルであった。ジャガーから流用したスーパーチャージャー付き6気筒エンジンを搭載していたことから評判が芳しくなかったDB7をベースに、アストンマーティン社製の5.9リッターV12エンジンを搭載したことにより、DB7の名を一躍有名にした。

MTとATを用意したヴァンテージは、550のような速さやエレガントさを兼ね備えていないものの、4万ポンドクラスの車としては、十分なパフォーマンスとブランドを提供してくれる。DB7GTは、DB7シリーズの中で最後に製造された、最高の車だった。英国向けに85台、米国向けに64台、合計191台しか製造されなかったため、将来は現在の相場である6万ポンドよりもはるかに高い値段で取引されるだろう。究極のDB7を求めるのであれば、MT専用のDB7ザガートがお勧めだ。スタイリングは少し奇抜だが、ドライビング・パフォーマンスは最高だ。生産台数は僅か99台だったため、もし、売りに出れば20万ポンド以上の値がつくだろう。

ヴァンキッシュSのシフトフィールには、フェラーリのように正確で機械的な感触はないが、車重やスロットルの感触は適切だ。同様にクラッチも比較的重い部類に入るが、特に違和感はなく、コントロール性に優れることから車との一体感がある。

550から575Mが進化したように、ヴァンキッシュSにはヴァンキッシュから進化した度合いを確実に感じることができる。アストンマーティンは、パワーとトルクの大幅な向上、ブレーキの大型化、乗り心地とハンドリングの向上、エアロダイナミクスの改良など、一連の改良を実施した結果、オリジナルのヴァンキッシュよりも安定感があり、速さも加わり、ブレーキ性能も向上した。

アストンマーティンはASMの品質向上にも力を注いだ。コーナーを攻めた運転をするときにはより鋭敏になり、低速運転をするときにはよりコントロールされたものになったが、575M F1ほど優れたものではなかった。シーケンシャルMTをスティックシフト・マニュアルに変更することで、ヴァンキッシュは一変した。だが、MTに改造したことで素晴らしい車になったという人もいれば、時代に逆行する改造だと批判する人もいる。

このアストンマーティンには、ギアボックス以外にも多くの魅力がある。S仕様では、新しいシリンダーヘッド、インジェクター、エンジンマッピングなど、エンジンに改良を施したことにより、パワーが460から520bhpに、トルクが400から425lb-ftに増大し、最高速度が200mphを超えた。



ヴァンキッシュSは、俊敏なモンスターマシンだ。高速でコーナーの多い道を走らせると、すぐにシャシーのよさを感じることができる。これは、短命に終わったスポーツ・ダイナミック・パックで初めて採用された、ブレーキとサスペンションのアップグレードによる効果だ。

同じ道を575Mと同じ速度で走ると、ヴァンキッシュSはより小さく、より軽快に感じられる。乗り心地はエッジが効いているが、ボディコントロールはほんのわずかにタイトだ。より躍動的になったとはいえ、大人のGTであることに変わりはなく、長距離ドライブを楽しむことができる快適さとパフォーマンスを備えている。エンジンの咆哮はフェラーリのV12よりも大きく、運転者を楽しませてくれる。

ヴァンキッシュSは、575Mの回転域を超えるまで、最も刺激的で豪快な走りを見せてくれるが、実際のところ、エンジン出力や加速面ではほとんど差はない。フェラーリは160km/hまで10秒弱で到達し、アストンマーティンはそれをわずかに上回る。予想通り、最もスムーズで扱いやすいと感じるのはイタリア製エンジンだ。

このように、575MとヴァンキッシュSは、歴史的に見ても、今後さらに重宝される2台だろう。フェラーリの方が優れているが、その差はごく僅かである。より速く、より精巧に造られ、優れたドライブトレーンを持つ575Mには、価値の高騰にも表れた魅力があるが、ヴァンキッシュもまた素晴らしい。ヴァンキッシュのエンジンは今までのアストンマーティンの伝統を受け継いでおらず、ギアシフトこそ575の華麗なオープンゲートの正確さには及ばないものの、アストンマーティンらしさとスリルを味わうことができる。

マニュアル・トランスミッションの車を運転することは、過去に根ざした楽しみを味わうことができる。マニュアルトランスミッションが、充足感と楽しさをもたらしてくれることをこの2台の車が見事に証明しているように思える。V12グランツーリスモは、今後二度と生産されない最後の1台ということで、特別な憧れの存在となっている。


編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:オクタン日本版編集部
Words:Richard Meaden  Photography:Gus Gregory

編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:オクタン日本版編集部

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