南アフリカの女性コレクターが手に入れた、特別なポルシェの物語

Porsche

伝説的なマシンが納屋で発見されることは、ときおり起こり得る。最近南アフリカでもそのような発見があった。かつて南アフリカで開催されたF1選手権に出走した、60年以上前のレーシングカーがヘルマナス近郊で発見されたのだ。この地ではクジラを見ることは珍しくもないが、世界に一台しかないこの車が出てきたのはさすがに驚くべき出来事だ。

この車は現在、ケープタウンの流行発信地であるウッドストックにあるミシェル・ハンブリー=グロブラー氏の広大なガレージに、外観を修復したうえで保管されている。しかし、この車の内部にはコレクションに相応しいポルシェのエンジンが搭載されていない。ハンブリー=グロブラーは、何年にもわたってこのオンリーワン・モデルのオリジナルの心臓部であるカレラのエンジン、1,587ccのタイプ547を世界中で探している。



運命づけられていたポルシェとの出会い

織物工場だった建物の1階に置かれたレーシングカー。ミシェルは、夫のデイビッドと6人の子供たちを連れて、20台の名車が飾ってあるツッフェンハウゼンのこのロフトにやってきた。彼女の祖父はフォードのディーラーを経営し、父はプライベートガレージで車をいじり、叔父はレースに参加していたそうだ。彼女が20代の頃、当時ケープタウンに住んでいたF1ドライバーのヨッヘン・マスと親しくなり、友人として多くの刺激を受けた。現在は彼女自身がラリーやレースに参加している。彼女は車への情熱が「あらゆる点で多様性のある素晴らしいコミュニティへの扉を開く」と語っている。



20年以上前に車のコレクションを始めたとき、彼女が注目したのはアメリカのV8アイコンだった。1968年式のマスタング・ファストバックに続いて、1958年式のコルベットを購入し、ケープタウンで開催されたカーコミュニティの会合に参加した。

しかし、この日を境にすべてが変わってしまった。知人からポルシェ911カレラRSのキーを渡され、アメリカのビッグブロックではなく、ドイツのエンジニアリングを試してみてはどうかという“親切な”アドバイスを受けたのである。長時間にわたる試乗は、彼女を目覚めさせるものとなった。

彼女の最初のポルシェは911 Sだ。デイビッドは当初、この繊細なクラシックカーを、彼の所有するレンジローバーのラゲッジ・コンパートメントに収まりそうだと言ってからかった。しかし、その時にはもう、彼女がポルシェと人生を共にする運命は決まっていたようだ。

現在、コレクションには、1958年ポルシェ・ディーゼル・ジュニア・トラクター、同年製のフィヨルド・グリーンのスピードスター、S、T、E、SCと表記されたさまざまな911のバリエーション、2台の911タルガ、911 GT3 RS、ケイマンGT4、2台のGシリーズ911ターボ、928 Sなどが含まれている。2015年には、ミシェル・ハンブリー=グロブラーはインターナショナル・ポルシェ・パーソナリティ・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。

スターリング・モスの718 RS 61 スパイダーを徹底調査

ミシェル・ハンブリー=グロブラーは、彼女の最新コレクションであるシルバーのレーシングカーについて、細部に至るまで徹底的に調査した。彼女は1960年代の写真を集めたアルバムを見ながら、この車の歴史を語ってくれた。

「南アフリカのビル・ジェニングスという人が、たった一人で作ったフォーミュラーカーです。技術的には、スターリング・モスが長距離レースで大活躍していたポルシェ718 RS 61 スパイダーに近づけることを目指していました。ジェニングスはツッフェンハウゼンに手紙を出し、718のエンジンとトランスミッションを譲ってもらえないかと問い合わせました。そしてエンジニアとしての才能を認められたジェニングスは、ポルシェのオリジナル・エンジン、トランスミッション、ホイールを含むリア・サスペンションを譲り受けました。中古ですが、オーバーホール済みです」



また、ハンブリー=グロブラーは、ヨハネスブルグとプレトリアの間にある伝説的なレース場でのスターリング・モスとジェニングスのモノクロ写真を指して「これは、キャラミで開催された南アフリカのF1グランプリでの2人の姿です」と言う。ジェニングスは、手製の特別なポルシェ・レプリカで数年の成功を収めた後、レース活動を終えて農家に転身した。その後まもなく、エンジンは車から取り外され売却された。アルミのシェルは赤いペンキで覆われ、その後この車は何度も“心臓移植”を受けたのである。

一方、ハンブリー=グロブラーは、ジェニングスがカレラエンジンとスターリング・モスの遺伝子を使って行ったレースプロジェクトの資料をほぼすべてまとめている。彼女の目標は、いつの日かグッドウッド・フェスティバルに、オリジナルのエンジンを搭載したこのフォーミュラカーで参加することだ。

オクタン日本版編集部

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