50歳の走りはいかに?|美しき「オールド・レディ」、ローバーP5B

Octane UK

ここに取り上げた“P5B”ローバーが誕生してから約50年が経つ。四半世紀前、若き日の私は、今やクラシックカーとなったこのP5Bを撮影していた。


それは1995年のことだった。私は、今はなき『ポピュラー・クラシック』という雑誌の表紙用に、3台のローバーP5の撮影を担当した。よく覚えているのは、3台のP5をゲイドンにある英国自動車遺産博物館(British Motor Heritage Museum)のすぐ近くの美しい場所に持っていき、監視員に見つからないことを願いながら撮影したことだ。

そのうちの1台、1971年のP5Bクーペは健在で、現在ではマーティン・ロビンズが所有している。撮影から四半世紀を経た今、ロビンズはP5クラブの雑誌『Take Five』のために、同じ場所に車を運んだ。私はそれをSNSで見て、あのとき撮影したのは自分だと伝えたところ、マーティンは私をVXC 368Kに再会させるために招待してくれたのである。1971年の撮影以来、P5には乗っていなかったので、マーティンの美しいクーペを運転する機会に飛びついた。

私が雑誌社に勤めて最初に乗った社用車はP5Bサルーンの後期型で、25歳の私にとっては想像を絶する贅沢なものだった。私は、エンジンをラリーのオーガナイザーであるフィリップ・ヤングが長距離レッキのために使用していた、ランドローバー90から降ろしたV8ユニットに交換するなど、あてがわられた“TYF 840M”で大いに楽しみ、さまざまな経験をさせてもらった。私たち社員には無料で給油ができるダイヤルカードというものが配られていた。そんなよき時代を共有した車がローバーP5Bなのである。

『Octane』のマーク・ディクソンがこのP5Bを撮影してから四半世紀、そして彼がP5Bを所有してから30年が経ち、彼はローバーで再びリラックスする機会を得た。
 
引き継がれてきたヒストリー

この車の記録は、1971年4月19日(偶然にも私の誕生日)に製造された当時から、現在まで残されていた。まず、ローバーの本拠地であるソリフルのディーラーであるコリアーズ社によって、エンジニアリング会社の71歳のオーナーであるヘンリー・プレスター氏に販売されている。コリアーズ社はその5年後に、同じく地元の男性、レジナルド・スミス氏に再販しているが、スミス氏は、当時発売されたばかりのローバーSD1を見に行ったものの、中古のP5Bを選んでいる。

スミス氏が運転をしなくなると、車は彼の娘さんとお婿さんに譲られた。1990年にローバーP5クラブのメンバーとなったヴィッキーとレイ・ケンドール夫妻は、この車を大切に使い、1991年には塗装を剥離して再塗装をおこなっている。さらに2013年、ケンドール夫妻はクラブの仲間であるマーティン・ロビンズにこの車を譲った。

ローバーの伝統を味わう

マーティンは、この車を「オールド・レディ」と呼んで大切にしており、再塗装から30年経った今でもその美しさは健在だ。再塗装を受けているとはいえ、ルーフトリムは工場出荷時のままで、ローバーの職人が手書きで施したピンストライプも残っている。これほど大切にメンテナンスがされているP5Bは他にないだろう。

ドライバーズシートの革製アームチェアは柔らかく、驚くほどのサポート力があり、存分にくつろぐことができた。デイビッド・バッハがデザインしたクラシックな計器盤に向かい、左手にはニスを塗ったウッドパネルが輝いている。P5はとても大きな車だが、デザイン上の特徴であるフロントフェンダーの峰とフェンダーの先端に備わるスモールランプのおかげで、サイズをつかみやすいので助かる。ステンレス製のマフラーは、3.5リッターV8のサウンドにエッジを効かせている。ボルグ・ワーナー社製のタイプ35オートマチックトランスミッションは、これまで運転してきた中で最もスムーズな印象を受けた。



若い頃に乗っていたサルーンの乗り心地には、いつも少しがっかりさせられていたが、この車は快適であった。後継モデルのP6には及ばないものの、このP5Bクーペにはローバーらしい洗練されたしなやかさがある。

だが、生粋の英国車であるにもかかわらず、P5Bの走りはアメリカ車を連想させる。十分すぎるほどのV8のパワーとトルク、指先で操作できるほどの軽いパワーステアリング、そして適度なボディロール⋯、などからだ。しかしその気になれば、この車で攻めることもできる。サイコパス映画、『The Man Who Haunted Himself』では、ロジャー・ムーアがP5Bのステアリングを握っていた。一方で、都市部に住む富裕層向けとして、ローバーがセールスポイントにしていたステアリングの軽さと、低回転域から立ち上がる大きなトルクは、最高にリラックスできる“装備”でもある。

欠点は、17〜18mpg(6〜6.3km/L)という喜べない燃費である。私の経験では、1990年に同僚の結婚式に出席するため、ロンドンからスコットランドまでP5Bを運転して往復した際には100ポンド以上の燃料代であった。

編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:オクタン日本版編集部
Words: MARK DIXON

編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:オクタン日本版編集部

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