ここはサーキットではない。 まだ、どこにもない真のドライビングコース

photography : Kazumi Ogata



自動車メーカー勤務時代には北米と欧州に長く駐在していて、世界中のサーキットや公道をドライブした経験を持つ中村氏だけに、その言葉には、単なる比喩ではない重みがある。今でも愛車を、アメリカ、イギリス、ベルギーなどに預けていて、海外に赴いた時にドライビングを楽しむのは、日本国内に気持ちよく走れる場所がほとんどないからだ。

ヘアピンカーブの前後には約800m のストレートがあり、ハイパフォーマンスカーの性能を存分に味わうことができる。


「ここはサーキットではなくドライビングコースと呼ぶそうですが、タイムを競うのではなく周囲の自然を楽しみながら、ときには車の性能を引き出して、気持ちよく走ることができるコース設定なのが嬉しい。サーキットだと、タイムを測って躍起になって走るイメージがあって、特に僕の車は古いものが多いから、求める走り方には合わないですね。だからといって、日本の公道では車のパフォーマンスを出して楽しめる環境がない。速度制限が不合理に低すぎるし、運転が上手くないドライバーが多いから、ストレスがたまります。以前は毎月のように海外出張があったので、ロンドンに行った時にはサセックスに預けてある車で郊外のワインディングロードを、ロサンゼルスではガレージのあるラグナビーチから内陸にある山道などを好んでドライブしていました。向こうは制限速度が高いし、みんながいいペースで走っているから存分に楽しめる。ただ、今はコロナ禍で欧米への渡航もままならない状況なので、長い間行っていません。だから、預けてある車を日本に持ってくるつもりですが、ここを走ったらさぞかし気持ちいいだろうなあと想像します」(中村氏)

そう、「THE MAGARIGAWA CLUB」の中心的存在であるドライビングコースは、速さを競うサーキットではなく、あくまでドライビングを楽しむロードコースなのだ。ロングストレートと高低差の大きなハンドリング・セクションを組み合わせたコースの設計を担当したのは、世界中のF1サーキットを手掛けた名門設計事務所である「ティルケ・エンジニアーズ&アーキテクツ」である。富士スピードウェイの改修プロジェクトが記憶にある読者も多いはずだが、スパ・フランコルシャン、モンツァといった名門F1サーキットの改修やシンガポールGPのような公道サーキットの設計も手掛けている。

森の中を走り抜けるように設計された全長3.5kmのロードコースには、2本のストレートと合計22のコーナーが組み合わされている。パドックから走り出し、コークスクリュー風の下り坂コーナーを抜けたあと、クリッピングポイントに付いたら、メインストレートに入ってアクセルを全開フルスロットルが可能だ。折り返して、再び、ストレートを走り抜けると、今度はオールージュ風の上り坂のコーナーが待っている。高低差も含めて、変化に富むコースは、さらに四季によって変化する自然の景色に囲まれている。

実は、このプロジェクトを発案したコーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドがティルケ率いる設計事務所にこのプロジェクトを依頼した際、ティルケ自身も「クレイジーだ!」と思ったという。通常、サーキットの設計の依頼を受けるときは、たいていが平坦な敷地が用意されているのだが、マガリガワ・プロジェクトでは山間の豊かな自然、つまり、かなりの高低差がある土地にコースを一筆書きで設計することになる。実は、ティルケ氏といえども難関だった。さらに、ロードコースであるがゆえに、クリティカルな領域や高速域を堪能できると同時に、サーキット以上に安全に走れることを意識して設計した。路面についても、従来のサーキットを研究した上で、快適かつ安全に走れる配合を独自に開発している。また、プロ・ドライバーによる習熟走行などのプログラムも用意する方針だ。

カウンターバーやレストランスペースも用意される。仲間や家族とゆったり過ごせることが特徴だ。

文:川端由美 監修:中村史郎(株式会社 SN DESIGN PLATFORM) 写真:尾形和美 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事