オリジナルこそがベスト。大がかりな作業で貴重なコブラが甦る!|蛇遣いは魔法使い【後編】

Photography:Gus Gregory and Paul Harmer



オリジナルこそベスト


完全に正しいかどうかはさておき、そのステアリングホイールはコブラのタイトだが快適なコクピットの中で大いに目立つ。内側のキャッチを引いてびっくりするほど軽い運転席ドアを開けて体を滑り込ませると、目の前には昔ながらのスミスのメーター類が並んだ簡潔なダッシュボードがあり、右側には(もちろんこの車は左ハンドルだ)頑丈なクロームのシフトレバーが幅広いトランスミッショントンネルから生えている。リバースに入れるためのバーが付いていることは、ギアボックスが大西洋の反対側生まれであることの明らかな証拠である。



何回かアクセルペダルをあおって、4バレル・キャブレターにガスを吸い込ませてから始動すると、V8エンジンは左右ドアの下のサイドパイプから元気な音を吐き出して目覚めた。ワクワクするような排気音だが、気になるほど喧しくはなく、まさしく理想的なサウンドだ。スモールブロック・フォードV8は自動車史上の傑作エンジンだが、何よりコブラのために作られたエンジンと言ってもいい。

コブラの前後サスペンションに採用されている横置きリーフスプリングを古臭くて洗練されていないとして馬鹿にするドライバーも中にはいるが、ロードカーとしてはまったく申し分のない仕事ぶりだ。シボレー・コーヴェットがつい2年前までその形式にこだわっていたことを忘れてはいけない。比較的細いチューブによるシャシーはある程度の柔軟性を持ち、それがハンドリングのバランスを取っている。レース仕様車や後にはロードカー(427Mk.3)にも、高度にチューンアップされたエンジンや大排気量エンジンが積まれた。1965年にMk.3が発売された時にはフレームチューブのサイズを拡大し、コイルスプリングを採用したものの、それはコブラの元々の軽量シャシーの限界を明らかにするだけだった。  



しかしながら、ほどほどに、いやたとえ熱狂的に操縦したとしてもMk.1は少しも恐れる必要はない。もちろん、その気になればテールを振り出すことは簡単だが、この車はコンパクトで扱いやすく、何よりも楽しい。一番の驚きはステアリングだ。ウォーム&セクターのステアリングはその後のMk.2のラック・ピニオン式よりも構造的には劣るということになっているが本当だろうか?

確かにサーキットではそうかもしれない。だが一般道やブルックランズ周辺のラウンドアバウトでは、望むとおりに見事に応えてくれる。タイトコーナーで重すぎることもなければ、直進時に頼りない手応えを見せることもない。入念なリビルド作業を行った熟練メカニックのおかげである。  



少なくとも晴れた日にトップを降ろして走る分には、完全無欠だと言いたい。V8の快活なサウンドを聞きながら、楽々とトルクの波に乗ってはじかれたように加速するコブラを操縦することに匹敵する歓びが他にあるだろうか。Mk.1コブラはあなたが必要なものはすべて備え、必要でないものは何ひとつ身に着けていない。きわめてめずらしいことに、豪華であると同時に控えめでもある。やはりオリジナルが最高なのだろうか? 私はそう思う。


編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA

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