地味色をオーダーするセンスに脱帽!赤でも白でも黄色でもないラ フェラーリ

RM Sotheby's

フェラーリは、他のどの自動車メーカーよりも、性能とデザインの限界に挑戦した限定生産のスーパーカーを作り、メーカーの名声を高めてきた伝統がある。1980年代半ばの競技用288GTOから、40周年記念モデルのF40、F50、そしてエンツォに至るまで、これらの車は伝統的な記念モデルとしての役割を果たすと同時に、マラネッロのアイデンティティを確立してきた。

しかし、2010年代初頭、この概念はポルシェ918スパイダーやマクラーレンP1など、他のメーカーが生産するハイブリッド電気ハイパーカーの新種によって覆されることになった。フェラーリは、65年間サーキットで活躍してきた競争の精神に基づき、パワー、テクノロジー、スコープにおいて先行モデルを凌駕する新たな限定生産のスーパーカーを開発し、この挑戦に応えた。

2013年のジュネーヴ・サロンで発表されたこのニューモデルは、「ラ フェラーリ」と名付けられた。ラ フェラーリというのは文字通り「The Ferrari」という意味だ。メディアやエンスージアストの間で、パフォーマンスの数値や製造方法が分析されたとき、このモデルの誇らしげな名前に反論する者は誰もいなかった。



ラ フェラーリの心臓部は、開発中のFXXモデルからそのまま流用したリア配置の6.3リッターV型12気筒だ。13.5:1という驚異的な圧縮比を持つこのV型12気筒エンジンは、最高出力789ps、最高回転数9,250rpmを発揮する。また、516フィートポンドのトルクは、7,000rpmに届くか届かないかという比較的高い回転数で発生する。さらに、F1マシンのKERSテクノロジーを応用した電気モーターをリアに搭載し、161馬力を追加したが、そのほとんどは低回転域で使用される。パワーはリアアクスルのみに直接供給され、シフトチェンジは7速デュアルクラッチトランスアクスルで行われる。

2つのエンジンの合計は、最高出力949ps、最大トルク663ft-lbとなり、ラ フェラーリを静止状態から時速60マイルまで2.4秒という速さで走らせる。1/4マイルは9.7秒、149.2mphで、ポルシェ918とブガッティ・ヴェイロンの両方を上回るのだ。Road & Track誌のライターであるラリー・ウェブスターは、テスト後に「458スペチアーレよりもLMPマシンの運転に近い」と述べている。



ラ フェラーリのカーボンモノコックは、スクーデリア・フェラーリのF1マシンと同じ工程で製造され、アーキテクチャ全体は、エンツォよりも2.4インチ低いドライバーの着座位置を中心に構成されている。これはシートを取り外すことで実現した。つまり、ラ フェラーリのシートは、フロアとリアファイアウォールに直接取り付けられた、アルカンターラで覆われたパッドに過ぎないのである。そのため、ペダルが調整可能で、シートは購入者ごとにカスタマイズされている。

フェラーリのインハウスデザイナーであるフラビオ・マンゾーニが手がけたコーチワークは、エンツォのような尖っているが故に物議を醸すようなスタイリングを排し、美しく低重心で流麗なものになっている。パワーをコントロールするために、ボディにはスマートなフロントとリアのアンダーキャリッジパネル、リアスポイラーなどの電子制御式アクティブエアロダイナミクスエレメントが装着されており、90~360kgのダウンフォースを継続的に減衰させている。さらに、ブレンボ製のクロスドリルド・ベント付カーボンセラミックディスクブレーキと、独自開発のピレリ製P-ZEROコルサタイヤを装備し、スイッチバックの際にも車体を安定させることができる。



2016年1月に生産を終了したこのモデルは、499台の限定生産となっており、マラネロの最高級ハイパーカーに求められるエクスクルーシブ性を実現している。公式には130万ドル(1億6000万円)以上で販売され、499台すべてが、最初のラ フェラーリが完成する前にVIP顧客によって購入された。

『Road & Track』誌のウェブスター記者は、このハイパーカーの多機能性と、限界を超えたときの気迫に驚いた。

「ラ フェラーリは低速域では驚くほどおとなしい。昨今、スポーツカーがいかに文明化しているか、最新のタイヤや電子システムがいかにドライバーを隔離しているかが話題になっているが、ラ フェラーリはその概念を覆した。アグレッシブさと繊細さを併せ持つスタイルが求められる。驚くべきスピードが、そこそこの腕のドライバーにも手に入る。しかし、それをすべて発揮できるのは、本当に腕のいい人だけだ。ラ フェラーリが行きたいところに連れて行くと牙が出てくる。そして、それはまさにあるべき姿なのだ」



今回紹介するラ フェラーリは、11月にRMサザビーズによってロンドンで開催されるオークションに出品される一台だ。わずか2人のオーナーのもとで大切に扱われてきており、走行距離もほとんど伸びていない。2016年にフェラーリの正規ディーラーであるニキ・ハスラー社に納車されたこのラ フェラーリは、スイス在住の著名なコレクターが新車で購入したもので、この個体だけに使用された特注のペイントとインテリアが組み合わせられている。エクステリアはヴィナッチャで仕上げられ、インテリアにはオーナーが所有する歴史的なフェラーリ2台のカラーを再現したペッレ キオディ ディ ガロファーノが特別にオーダーされた。



また、フロントスプリッター、サイドスカート、リアディフューザーはサテンブラックで仕上げられている。さらに、オプションとして、グリジオカラーの5本スポーク鍛造アロイホイール、オートマチック・サスペンション・リフター、ネロ仕上げのブレーキキャリパー、フェラーリ・トラック・テレメトリー、トラック・インナーカム・キット、ヘッドレストにエンボス加工されたPrancing Horseロゴ、インテグレーテッド・オーディオシステム、ステアリングホイールのF150プレート、センターブリッジのロッソ・ボタン・サラウンド、エクステリア全体のトパーズ・セルフヒーリング・ペイント・プロテクション・フィルムなどが装備された。



元のオーナーが1~2年保有したこのラ フェラーリは、その後、業者によって買い取られ、英国に輸入され、2018年5月に初登録された。それ以来、このフェラーリは丁寧に保管されており、オドメーターは現在わずか918マイルだ。



カラーマッチングされたラゲージ、ツールキット、取扱説明書が付属し、スイスのニキ・ハスラー社と英国のマラネロ・コンセッショネア社の正規販売店で行われたサービス履歴も記録されている。驚異的なパワーと高度な技術機能を備えた、ユニークな仕上げの、滅多に乗ることのできないベルリネッタが、次のオーナーを待っている

フェラーリの歴史に残る名車であり、499台の中でも特にユニークなカラーリングを持つこの車が世界中どこに行っても高い評価を受けるのは間違いないだろう。

オクタン日本版編集部  

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