埃の中に「お宝」が! 1100台以上のコレクションから、特に注目のクラシックカー4台をピックアップ|マーイ・コレクション【後編】

Wouter Rawoens

これまで【前編】【中編】でレポートしてきた、ベルギーのマーイ一家が蒐集したコレクション。1100台を超える貴重なクラシックカーの中から、特に注目の4台とその車両にまつわるエピソードをここに紹介しよう。

1954年マセラティA6G 2000 GTアッレマーノ
このマセラティを提示されたとき、ギラン・マーイは、聞き慣れないメーカーだからといって断るつもりだった。当時はレーシングカーしか造っていなかったから無理もない。たった5年前の車であり、そもそもイタリアのスポーツカーは信頼性に欠けるのに高すぎると考えて、ギランは嫌っていた。しかし、息子のイヴァンは見にいきたいと懇願し、父親も渋々許可した。

イヴァンを待っていたのは、わずか21台と考えられている希少なアッレマーノ製ボディのA6Gだった。事故による傷はあったものの、基本的な状態はよかったので、イヴァンはその場で購入すると、ヘントの自宅まで運転して持ち帰り、父親に冷ややかに迎えられた。皮肉にも、イヴァンは帰路、マセラティの走りがまったく好きになれないことに気づいた。レストアも始まったが、頓挫した。

1948年ドラエ135MSギア・エーグル
これこそ、1948年ジュネーブ・モーターショーで世界をあっといわせた車だ。これを元に2台の有名なクーペが特注で造られた(1台はイラン皇帝のため)。色あせてはいるが、ロイヤルブルーのユニークな1台で、流れるようなラインはアールデコ風だ。後席は押しボタンで着脱できるパネルで覆われ、前後のタイヤを覆うスパッツはハンドル操作で持ち上がる。デザインしたのは、この4年前にギアを買収したマリオ・ボアノだ。

長年、失われたものと考えられていたが、単にマーイ・コレクションで眠っていたのである。ギランはこれをファセル・ヴェガと交換で入手した。最初はヘントで保管していたが、数人のゴロツキが侵入して、このドラエを含む数台のヘッドライトやミラーを壊すという事件が起き、コレクションの中でも特に貴重なお宝は、安全なルーズ・アン・エノーにただちに移された。

1927年アミルカーCGSS
一般的に車を運転する年齢になるずっと以前から、ギランは息子たちに車を与えていた。ハンスに与えられたのがこのアミルカーだ。CGSSは、Cグラン・スポルト・シュアベイセの頭文字で、シャシーが低いことを意味する。軽量なサイクルカー構造だったので、1074ccの小型4気筒エンジンでも飛ぶように走った。

まだティーンエイジャーにもならないある日、ハンスがアミルカー、イヴァンがヴォルグラフォ・ビンボに乗り、家の周囲でレースをしていて衝突してしまった。父親からこっぴどく叱られたあと、車を確認すると、ダメージは部分的だった。アミルカーはフェンダーが曲がり、ヘッドライトが割れただけだったが、修理のために仕舞われ、以来70年たった今もそのままだ。

1958年メルセデス・ベンツ220 SEカブリオレ
メルセデス初の燃料噴射式モデル(ボッシュ製、Eはインジェクションを意味するドイツ語のEinspritzungから)で、デザインが一新される前の最後の“ポントン”スタイル。これを含む1000台以上のカブリオレには、先駆的なクラッシュテストで開発された初歩的なクラッシュゾーン(クシャクシャゾーンと呼ぶべきか)が設けられた。先行モデルと同じ時代遅れのデザインだったが、中身は革新的で、燃料噴射だけでなく、メルセデス初のモノコック構造で、2195ccの6気筒エンジンを搭載する初の公道モデルだった。

新車価格は恐ろしく高額だったが、ギランはこれを含めメルセデスを数多く購入した。イタリアのスポーツカーは不当に高く、ブガッティは手がかかると考え、それよりメルセデスの頑丈さと信頼性を好んだのである。現在の状態になったのは、ハンスのアミルカーと同じ理由だ。ちょっとした追突事故でボンネットが曲がり、バンパーとヘッドライトを傷めて以来、ずっと走行していない。



「マーイ・コレクション」についてもっと知りたい方は…
『Mahy – a Family of Cars, the Tranquil Beauty of Unique Classic Cars』
発行元はベルギーのランノー社(lannoo.com)、英語版もある。272ページ、横長のハードカバーで、著者はミシェル・マーイとダフィド・ヤンセンス、雰囲気のある美しい写真はヴァルター・ラヴンス。価格は39.99ユーロ、ISBN 978 9 401 455 237。



翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA
Words: James Elliott Photography: Wouter Rawoens

翻訳:木下 恵 Words: James Elliott Photography: Wouter Rawoens

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