「ではこれは君が乗って」...本当にいいのか?|松田芳穂氏のラ フェラーリ アペルタに乗る

Masaya ABE

生粋の自動車愛好家でコレクターとしても知られる松田芳穂氏。ときどきそのフェラーリコレクションに触れさせていただき、お話を伺うお楽しみ企画。今回はラ フェラーリ アペルタとF12ベルリネッタ70thである。



「ではこれは君が乗って」

松田芳穂氏とオクタンとのお付き合いはVol.26にて取材をさせていただいたことにはじまる。その時のテーマは「人間 松田芳穂」。車が生まれてきた目的と秘めたパワーをとことん発揮させ真に車を楽しんできた松田氏と直接お話ができることは編集者冥利に尽きることであり、またそれがきっかけで松田氏の自叙伝ともいえる「疾走」を編集刊行させていただくことになった。それ以降折に触れさまざまなお話を伺う機会に恵まれ、いまはときどきコレクションの中から魅力的な車を実際に乗らせていただくことがある。オクタンは3カ月ごとの発行になるので、頻度としても程良い。今回も2台を選んでいただき、都内のガレージ兼オフィスを訪ねた。



前回は別のガレージでの待ち合わせに遅れてしまったことを反省し、今回は少し早めに伺ったのだが、やはり松田さんはすでにオフィスの赤いソファに座られており、「おっ、来たか」といった雰囲気で迎えていただいた。師走に差し掛かり、都内も観光地も車が増えてきている。今回は都内をぐるっと走って明治神宮絵画館にて撮影をするという、比較的短い取材コースを設けてみた。

我々編集者は取材で多くの車に乗ることがある。中には突出したパフォーマンスを誇るハイパーカーや、世界でもなかなか見ることすらできない希少なクラシックカーなどもある。もちろんオーナー様から預かる車は普段以上にていねいに運転するし、そういったときの扱いも十分に慣れている、はずだった。

でも今回はやや面食らったのは事実。松田さんが指差しで僕に運転させてくれた車はラ フェラーリのアペルタである。



「ではこれは君が乗って。鍵は付いているから」

本当にいいのか?車の魅力を金額で計ってはいけないと常日頃自分を戒めているのだが、今回はさすがに頭の中で電卓が動いた。ざっと大卒サラリーマンの生涯収入をはるかに越える金額の車を「はい、どうぞ」と乗らせていただいたことに感謝すると共に、短い時間だがなるべくその魅力を全身で感じようという気持ちに切り替えたのだ。我ながら何という前向きさ!根っからの天然で、しかも車好き。こういうことは明るく楽しむが一番だ。

ラ フェラーリについて少し触れておこう。ラ フェラーリは「F150 Project」として開発が進められ、2013年3月のジュネーヴショーにてワールドプレミアされている。市販フェラーリ初のハイブリッド車であり、6,262cc V12型自然吸気エンジンをミドに搭載する。

エンジンの最大出力は800ps/9000rpm。それにモーターの最大出力163psが加わり、システム全体では963psを発揮する。スタイリングデザインはピニンファリーナではなく、フラビオ・マンツォーニ率いる社内デザインチームによるもので、またカーボンモノコックはF1マシンと同じ工程で製造されている。アクティブ・エアロダイナミクスを初めて採用した。これは前後のディフューザーやアンダーパネル、スポイラーがオートマチックに可変し、状況に応じて最適空力特性を実現するというものだ。パフォーマンスとしては0-100km/h加速は3秒以下。最高速度は350km/h以上というスペックをもつスペチアーレである。またイタリア語の「開放」という意味の「アペルタ」は、ブランド創設70周年のタイミングでさらに進化を遂げて登場したモデル。2017年、両国国技館にて土俵をモチーフにしたステージで発表されたことはまだ記憶に新しい。

松田さんは、まずGIALLO MODENA(黄色)のラ フェラーリを入手して、そしてこのBIANCO(白)のアペルタも購入した。いまは屋根の開くアペルタを手元に残しておられる。乗せていただいたアペルタのオドメーターに目をやると、その走行距離は約1200㎞だった。フェラーリジャパンが70周年記念に企画した伊勢志摩までのツーリングのときが、およそ最も距離を稼いだと考えて間違いないだろう。

右手をドア下部のボタンに当てて、分厚いが、でもとても軽いドアを上に押し上げてシートに乗り込む。サイドシルなどを傷付けないように、まずは腰掛け、次に右足、左足という順で乗り込む。シートは固定式だが、右手を降ろしたところにあるレバーでペダルの前後を調整してポジションを合わせる。タイトだが、乗ってしまえばとても居心地の良いコクピットである。「先に走ってください」とのことで、スルスルと走り始める。ミラー越しに後続車のF12と松田芳穂さんのお顔が見えて、さらに緊張する。ただ平日の早朝なので都内の幹線道路も空いており、それなりのスピードで走ることができたのは幸運だった。僕の、しかも限られた公道でのインプレなどはまったく面白くないので、それは省くが、それでもラ フェラーリの魅力の一端は正しく感じ取ることができた。速いし、軽いし、気持ちが良い。少し右足に力をこめると、背中からググっと前に押し出されるように進む。助手席に乗っていただいた松田さんが口にした「やっぱりラ フェラーリはいいね。惚れ直すよ」という言葉がとても印象的であった。



もう一台のF12ベルリネッタは以前にも何度か乗ったことがあり、しかも今回は駐車場の中の移動だけだったので説明は割愛するが、こちらも70周年記念限定モデルとして希少性が高い。当時のラインアップであるフェラーリ488GTB、カリフォルニアT、488スパイダー、F12 ベルリネッタ、GTC4ルッソの5モデルに対し、過去のヘリテージを反映させた70種類のカスタムを施したモデルであった。つまり70種類×5モデル=合計350台だけフェラーリのテーラーメードが制作を担当して世に出たのだ。だから70台限定と言っても同じ仕様はどれひとつないことになる。



いずれにしてもこの世代のフェラーリは、とても乗りやすく、信頼性が高く、そして様々な意味で魅力的である。こんな機会をいただけたことに心から感謝する。次回もまた楽しく、SF90ストラダーレとRomaのツーリングに誘っていただけそうだ。



文:オクタン日本版編集部 写真:阿部昌也 Words:Octane Japan Photography:Masaya Abe

文:オクタン日本版編集部 写真:阿部昌也 Words:Octane Japan Photography:Masaya Abe

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