博物館に展示されていたゲンバラ「テスタロッサGTR」に惚れ込み、購入までこぎつけた男

Stian Furuseth

この記事は【純正のテスタロッサでは物足りない!? ゲンバラが魔法をかけた、過激すぎる「テスタロッサGTR」とは】の続きです。



現在のオーナー、ヨハン・サンドベルグ氏がテスタロッサGTRを見かけたのは、カリフォルニア州オクスナードにあるマーフィー自動車博物館の展示車両として紹介されているウェブサイトだった。早速、博物館にメールを出し、マクラレン氏とのコンタクトにこぎつけた。そして、ノルウェー在住のサンドベルグ氏はアメリカ出張の際、実車を見にマクラレン氏のもとを訪れ、テスタロッサGTRを譲ってくれるよう交渉が始まった。

「保管場所の格納庫に鎮座していたテスタロッサGTRを見たらあまりのカッコ良さに惚れ込み、もう手に入れるしかなくなりました」とサンドベルグ氏。ゲンバラ928を既に所有しており、テスタロッサGTRのオリジナルの状態をキープして大切にする旨に納得したマクラレン氏が売却を決意した。

ボディ全幅は120mm拡大されている。

実はアーチ―・マクラレン氏は、2010年にウーヴェ・ゲンバラ本人からテスタロッサGTRの売却を打診されたことがある。なんでもゲンバラ自身のミュージアムに展示したい、ということだったがマクラレン氏の返答は「100万ドル以下では売らない」だった。そして、ゲンバラはマクラレン氏側に丁重な断りを入れてきたという。

2017年にテスタロッサGTRを入手したサンドベルグ氏はその後、車両をノルウェーに運び、オスロにあるフェラーリ専門店アウトクソスポーツASでリフレッシュ整備を施した。そして、現在はレオンベルクにあるゲンバラの工場に入庫中である。

「展示車両として用いられてきたテスタロッサGTRの状態は、良好でした。ボディパネルのフィットは完璧ですし、ペイントの状態も1986年の車とは思えないレベルです。そして、今まで“変”改造が加えられることなくゲンバラオリジナルの状態で保たれたことは、奇跡だと思っています」



身長193㎝のサンドベルグ氏には、ちょっと狭い車内。

エンジンに手は加えられていないが、4.9V12であればノーマルでも十分なパワーだろう。

唯一、手が加えられているのはカリフォルニア州の排出ガス規制に適合するために交換されたマフラーだ。
「実車を見たときに、マグナフロー製のマフラーを装着していることに落胆したものです。でも、マクラレン氏に“あとでお送りしますよ”と言われて、本当に箱が到着したときには感無量でしたね」。到着した“本物”のゲンバラ・マフラーを見て、その独特な形状や手作業の溶接痕から技芸ぶりが垣間見られたとも。今では、本来のテスタロッサGTRのサウンドを奏でている。

「車幅は恐ろしく広く、もうゲンバラのボディパーツはありませんから、積載車に載せる姿を眺めているだけでも心拍数が上がります。バックミラーに映るものは・・・、テスタロッサGTRの“お尻”だけです。だから、ダッシュボードのリアビューモニターは大事な装備だったのです」。現在、テスタロッサGTRがゲンバラに里帰りしているのは細々とした修理のほか、リアビューモニターの不具合を治すためだ。電子回路にトラブルを抱えているようだがほかのところでは対応できず、ゲンバラによって修理が施されるという。



ゲンバラは厳密に言うと、テスタロッサGTRを二台製作している。ただ、もう一台はエアロパーツだけを装着しただけのもので、晩年にはフェラーリ純正の姿に“戻された”という。現在までゲンバラが手掛けたフェラーリはテスタロッサ以外では、エンツォをベースにしたワンオフ「MIG-U1」だけだ。


ウーヴェ・ゲンバラが南アフリカで殺害された、という2010年のニュースは自動車界に激震が走った。ウーヴェ・ゲンバラ亡きゲンバラの行く末を心配する人も居たが、車好きな投資家、シュテファン・コーバック氏がゲンバラの商標と法人格を買い取り、現在も存続している。また、テスタロッサGTRのように、ウーヴェが生み出した過去の車両のレストアも請け負う。ちなみにウーヴェの息子、マークは「マーク・フィリップ・ゲンバラ」というブランドを立ち上げている。“ゲンバラとは無関係”と明記されているが、父親のブランドと息子のブランドがカスタマイズ業界を熱くしていくことは、車好きには喜ばしい話だ。


1988年式フェラーリ・テスタロッサGTR by Gemballa
エンジン:4943cc、水平対向12気筒DOHC、48バルブ、ドライサンプ、ボッシュ製Kジェトロ燃料噴射装置
最高出力385bhp @ 6300rpm
最大トルク354lb ft @ 4500rpm
トランスミッション:5速マニュアル、後輪駆動
ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前後):ダブルウィッシュボーン式&コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ(前後):ベンチレーテッド・ディスク
車両重量:1650kg (推定)
最高速度:180mph
0-60mph加速 5.7秒


編集翻訳:古賀貴司 (自動車王国) Transcreation: Takashi KOGA (carkingdom)
Words: Matthew Hayward Photography: Stian Furuseth

編集翻訳:古賀貴司 (自動車王国) Transcreation: Takashi KOGA (carkingdom)

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