グランツーリスモ・シリーズ・クリエイター、山内一典氏が考える「自動車文化の継承」

Yoshimi YASUOKA

2022年3月4日にリリースされた待望の新作「グランツーリスモ7」。登場から四半世紀の間、たゆまぬ進化を続ける「リアルドライビングシミュレーター」。その開発に一途に情熱を捧げ続ける山内一典氏に、新作に込めた自身の想いを語っていただいた。
※インタビューは、2022年3月4日の発売以前におこなったものです。



1997年、リアルドライビングシミュレーターを銘打ったソフトウェア「グランツーリスモ」が発売されてから今年は25年、四半世紀の節目を迎える。その間にグランツーリスモを受け入れるハードウェアの側、プレイステーションは5代目へと進化。そのパフォーマンスは常にビデオゲーム業界の最先端を走り続けてきた。

最新作の開発に込めた想い


そしてこの3月、そのプレイステーション5の性能を活かしきる新章としてリリースされたのがグランツーリスモ7だ。漏れ伝わる情報からもその充実度はシリーズ屈指となるだろう、その開発に込めた想いを指揮を執る山内一典さんに聞くと、まず返ってきたのは意外な答えだった。

「グランツーリスモ7は、車に興味のない人や、車のことを知らない子供にいかに遊んでもらえるか、世代はもちろん、色々な壁を超えて、いかに楽しんでもらえるか、そこのところに、本当に細心の注意を払って作ったつもりです」



1から7に至るまで、グランツーリスモシリーズは揺らぐことなくリアリティを追求してきた。ゲームではなくシミュレーターというスタンスを一貫しているのは、その姿勢の現れだ。その物理シミュレーションの密度や表現能力は代を追うごとに成熟し、ハードの更新とともに飛躍してきた。

「そのリアルさを追っていく過程で、内容もプレイヤーの方々も、徐々に狭い方向に入っていってるのではないかというジレンマみたいなものは感じていました。と同時に、車を取り巻くコンテンツや、モータースポーツの現場をみていて、伝え方の偏りのようなものを感じることもありましたね」

不特定多数を相手に、面倒臭がらずに車の楽しみを伝えていかなければならない。そういう焦燥のようなものを山内さんが感じ始めたのは2000年頃からだという。それは車本体だけでなく、チューニングや漫画のような媒体を介しても日本の車を取り巻くカルチャーが大きくクローズアップされていた、そんな時期だ。



「我々が最初のグランツーリスモを作った時は、知ってる人の方が多いという前提に乗っかれたんですよね。たとえばRB26DETTといえば、ああR32のGT-Rねとすぐに理解してもらえるみたいな。でもそれがじわじわ先鋭化していくと、ジャーゴン(部外者には理解できないような特殊用語)が飛び交うような世界になっていくわけです。もちろん限られたプレイヤーが垣間見れる排他的快感というのはあるべきだと思いますし、そこを否定するわけではありません。でも一方で、このまま狭所に入り続けると、せっかくみんなで培ってきたこの楽しい自動車文化というものがどこかで途絶えてしまうんじゃないかと、そんな焦りも常に感じていました」

何もかもが新しくなったグランツーリスモ7が目指すのは、その自動車文化の継承だ。

「一例を挙げれば、『Zって何?』という、車好きにとっては普通に知っているようなことを流すことなく、フェアレディの歴史や代々のモデルのことをきちんと子供や女性にわかるように伝えていこうよと。そういうことを逐一押さえることにもグランツーリスモ7では気を配ったんですね。だから、多分初代以上に親子はもちろん、おじいちゃんとお孫さんみたいに世代を超えたところでも楽しみを共有できるようになったと思っています」



グランツーリスモ7で新たに追加されたモードとして注目なのが「GRAN TURISMO CAFÉ 」。メニューブックを受け取りそこに記された30種類以上の課題をクリアすることで、ゲームの中で理解や経験を深めていけるという仕組みだ。自動車開発者が登場するなどアカデミックな面白さも深い。

一方で、今までグランツーリスモに親しんでいただいた方にも納得してもらえる、その両立を目指したという。

「発売前に公開した一連のトレーラー(予告編)の中で、グランツーリスモ7が目指した新しい世界観を示すことでコアなファンとのコミュニケーションを計ってきたつもりです。そして我々の感触としては、原点に立ち戻り間口を広げるという方向性には理解を示していただけていると思っています」

グランツーリスモ7はプレイステーション4にも対応しており、自動車文化の豊かさをロールプレイするそのゲーム性においては遜色ないものを備えている。が、プレイステーション5には高い処理能力を活かして表現などに新たなパフォーマンスが加えられた。その一端となるのが、以前にも紹介したレイトレーシングだ。現実の光の動きをシミュレーションすることで、より自然に近いグラフィックを再現するものだ。

「代々のグランツーリスモでは、風景描写やその空気感、そして光をリアルに描くことには常に拘ってきました。特に今回採用されたレイトレーシングは光源による金属のリフレクションを正確に反映してくれますから、曲線のボディにメッキパーツが配される古い車の描写には威力を発揮すると思います」

他にも収録される世界各地のサーキットの気象データを集めて、その地域や地形特有の天候や気温などの時間ごとの変化をシミュレーションにより再現、プレイ要素に盛り込んだり、各地域でみられる星空もリアルに反映するなど、車両側のみならず背景側の表現の進化も注目に値するところだ。

歴史的名車を専門に扱うコレクションも登場


そして読者の皆さんも一目置かれるだろう新たなコンテンツ要素のひとつが、米ハガティ社とのコラボレーションだ。クラシックカー向けの車両保険やその査定を主業とし、近年はヒストリックカーイベントのスポンサードも活発に行う同社が、グランツーリスモ7内で扱われる希少なヒストリックカーの取引に関与する。

クラシックカー保険を中心としたカーライフプロバイダーであるアメリカ「ハガティ(Hagerty )」社は、グランツーリスモ7とのパートナーシップ契約を締結。GT 7「レジェンドカー・ディーラー」内にはヴィンテージカーを集めた「ハガティ・コレクション」が用意された。ハガティ社のCEO であるマッキール・ハガティ氏はゲーム内でアドバイザーとして現れて車の歴史などを紹介してくれる。

「グランツーリスモ7の中には、ゲーム内で取引される車たちを集めたマーケットがあるんですが、中でも歴代の名だたる市販車やレーシングカーたちを集めたレジェンドカー・ディーラーがあります。ハガティ・コレクションはその中に設けられるもので、とりわけ歴史的意味の大きい名車中の名車が厳選されて扱われる予定です。ちなみにそのコレクションで取引される価格は、四半期ごとにハガティの査定実績なども踏まえた見積額に連動して見直される予定です」

つまり、クラシックカーの市場相場と連動した売買が、グランツーリスモ7上ではバーチャルに行うことが出来るというわけだ。もちろん入手したその車両はゲーム上で走らせることも出来るし、実在の景色と車両とを組み合わせた高精細な撮影機能であるスケープスとも連動することができる。美しい風景の中を走る様子は、組み合わせる音楽を選ぶことでカメラアングルやカットなどが自動で生成されるミュージックリプレイ機能を駆使して、その映像をBGVとしてガレージで愉しむのも癒やしのひと時となるだろう。

リアルとバーチャルの垣根を超えて


グランツーリスモ7は物理シミュレーション能力の向上がリプレイにも反映されていて、車体のロールやサスの踏ん張り、タイヤの潰れなどといったアナログ的な要素もグラフィックにリアルに現れるようになった。また、実車からサンプリングしたメカニカルサウンドの表現力向上も著しい。

グランツーリスモ7は現時点でも史上最もリッチなコンテンツを備えているが、今後は通信アップデートなどを介して新たな車両や機能が追加されていく予定だ。また、先駆けて発表された、世界でもひと握りのトッププレイヤーをも上回るパフォーマンスをみせるドライビングAIのGTソフィもグランツーリスモ7への実装が計画されている。

Sony AIが開発した深層強化学習技術とソニー・インタラクティブエンタテインメントのトレーニングとの組み合わせから生まれた「GT Sophy」。既に2021年には世界トップレベルのG Tドライバーによる公式戦が開催されていて、スキルだけでなくレーシングエチケットをも学んだAIとのリアルな対決が実現している。

「GTソフィは単に運転で人間に勝つためのAIではなく、共生や協調の中で人間が覚醒できる気づきを与えてくれる存在でなければならないと思っています。たとえばGTソフィによって長年培われてきたセオリーを覆すようなライン取りが描かれることで、新たなドライビングスタイルへの扉が開かれるかもしれない。それによって人間が刺激を受けることで、囲碁や将棋の世界で起こっているような変革がレースの世界でも起こるのではないか。その手応えを感じ始めています」

もしGTソフィに学びの機会を得たドライバーたちがF1の頂点に到達したら…。そんな未来を生々しく想像させるほど、グランツーリスモのリアルへのこだわりはいよいよ現実をも超越しようとしているのかもしれない。





文:渡辺敏史 写真:安岡 嘉 Words:Toshifumi WATANABE Photography:Yoshimi YASUOKA
Gran Turismo 7:TM & ©Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Polyphony Digital Inc.

文:渡辺敏史 写真:安岡 嘉

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