ナポレオンとルイ15世の時代をリアルに再現|フランスならではの本気の歴史考証

Tomonari SAKURAI

先日紹介したモーリス・ドニ美術館で出会った衣装を着ていた方々。いわゆるコスプレとは違うのは、そこで紹介したとおりだ。歴史的な考証から身につけている服装は下着からその時代に合わせている。さすがにその当時の生地を使うわけにはいかないが、絵柄や色、デザインなども資料から再現している。

それを取り仕切るアソシエーション、La Compagnie de l'Histoire et des Arts(歴史と芸術の会)の主査であるファニーさんから連絡を頂いた。モーリス・ドニのあとにも同様のイベントがあるそうだ。ひとつはパリから東に行ったところにあるシャン=シュル=マルヌ城でテーマは「ナポレオン時代の衣装」、もうひとつはヴェルサイユから更に西に行ったところにあるダンピエール城で「ルイ15世時代の衣装」だというので、両方のイベントに行ってみた。

シャン=シュル=マルヌ城のナポレオン時代のイベントはモーリス・ドニの時よりもさらに規模が大きかった。庭園ではその当時の食事の風景を再現。衣装をまとった人たちは実際にその食事でランチをとる。その後は当時のダンスを披露したり、当時の遊具で遊んで見せたり、一般の人にも参加させて当時の文化体験もしていた。

この時代のダンスを披露。後半は一般も参加して楽しんでいた。

興味深かったのは、家族で衣装を纏って参加している人たちの多いこと!夫婦はもちろん赤ちゃんから中学生や高校生の息子達となんていう家族にもお会いした。失礼ながら「奥さんの趣味に付き合わされてる?」なんて質問をしたが、旦那さんも、子ども達もそれを楽しんでいるのだ。ナポレオン時代には軍人もいたわけだが、その当時の軍人の格好した参加者の本業はフランス陸軍所属だとか。また、フランスの歴史的な格好をするのが好きなある夫婦は「新婚旅行は日本を縦断したの」と日本の大ファンでもあった。

ご主人はこの時代の軍服を着ている。本職も軍人さんという筋金入り。

日本にハネムーンに出かけたというご夫妻。ご主人はこの日のために8年伸ばしていた髭をそり落としたのだとか。

その翌週のダンピエール城でのルイ15世のイベント。もう半分以上の参加者は顔見知りとなっている。向こうから声をかけてくれるが、髪型から衣装がまるで違うのでこちらが気がつくのが遅れてしまう。今回はルイ15世とポンパドール夫人が主役で式典が行われたり、ルイ14世からの公開食事をまねてみたりと分刻みのプログラムが組まれていて、それぞれ解説が付きでバーチャルに歴史を体験できるというもの。

ルイ15世とポンパドール夫人。

日本より爽やかな気候とはいえ、夏だ。何層にも着る衣装にカツラも着用するのは、なかなか大変だろう。

このお城のイベントで面白いのは別のアソシエーションも参加していること。華やかな宮廷の衣装ではなく、もっと当時の一般的な暮らしを再現している団体だ。テントも当時の雰囲気を醸し出している。そこに足を運ぶと「へんてこりんな格好してるね」と田舎者を装って変な訛りで話しかけられる。もしかするとこれが当時のフランス語のしゃべり方なのかもしれない。これからフォンテーヌブロー城に狩りに行くルイ15世のご一行の、たまたま近くにバザーを開くことができたという設定のようだ。当時のように焚き火に鍋をかけて食事を作って食べている。野菜を売っていたり布地を売っていたりと庶民的な雰囲気が宮廷衣装のあちらとは対照的でまた面白い。

食事も当時の料理を当時のスタイルで調理する。

この市場で野菜を売る馬車。

遊園地などのアトラクションと違って細かいところまで再現されている。なので“仮装”ではなく“歴史の再現”と表記されている。それっぽい衣装を身にまとってお姫様気分を味わうのとは違うのだ。

布地を売るおばさんはレース編み物をしている。中央のガラスのボトルのような物には水が一杯に入っている。暗くなったらろうそくに火を付ける。そうすると水がレンズの役目をして手元を広く明るく照らす当時の照明の道具だそうだ。

今後の活動を聞くと、このあとはバカンスシーズンなのでしばらくはイベントはないそうだ。9月に入ると4年に一度の大きなイベントがある。なんと僕が住む隣町にはナポレオンの妻ジョゼフィーヌの館があるのだ。そこからその町全体がナポレオンの時代に染まるという。1週間続くそのイベントで参加者(特に軍隊の格好をする人が多いようだが)当時の暮らしを野営して再現するらしい。参加者は2000人を超えるという。そういった、歴史再現を本気で行っているのがフランスらしいのだ。

La Compagnie de l'Histoire et des Artsの主査ファニーさん。モーリス・ドニ、シャン=シュル=マルヌ城、そしてここダンピエール城を切り盛りした。着る手順も複雑な上に何よりも暑いので大変だと言いながらも、まったく隙がない。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

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