限定333台のアストンV12ヴァンテージをテストサーキットで試乗!

Max Earey

新型のV12ヴァンテージは、12気筒エンジンを搭載した、ヴァンテージを締めくくるモデルとして計画された。しかも、トビアス・ムアースCEOの任期における最後のモデルとなったため、さらなる重要な役割を引き受けたことになるといえるだろう。彼は、私達がこのプリプロダクションモデルに試乗した直後のタイミングでCEOを辞任した。

この車からは彼の影響を強く感じられる。ヴァンテージを紳士的にグレードアップしたF1エディションよりも、とてつもなくアグレッシヴで速い車となっていて、よりスリリングなものになる可能性も秘めている。

血統としては、2009年のV12ヴァンテージにまで遡る。しかし、この最後に降臨するヴァンテージには初めてDB11でデビューした5.2リッターのツインターボエンジンが搭載され、700ps/6500rpm、最大トルク555lb-ftを発生する。獰猛なV12は、スロットルを7000回転まで駆り立てれば、ボディが荒ぶり、そしてその中のリアルな炎が燃え上がる。フェラーリの9500回転には及ばないかもしれないが、ドライバーの意気込みには十分呼応してくれる。

Max Earey

必然的に、重量の点ではF1エディションよりも不利ではある(105kg重く、合計1795kg)。重量配分としては、前後イーブンであったのが前53:後47になるが、これは映画『ミニミニ大作戦』のバスの中で金貨が動くようなものだと思えばいい。

肉食系のボディをひと目見れば、それが洗練されたものであることが分かるだろう。新要素のカーボンファイバー製のフロントエンドで40ミリワイドになったホイールに対応し、21インチのミシュラン製パイロット・スポーツ4Sタイヤが装着される。スプリッターとスポイラーでさらにダウンフォースが得られ、カーボンセラミックブレーキは標準装備されている。見えない部分も抜かりはない。バネレートはフロントで50%、リアで40%増強され、他にも追加のボディブレーシング固定等が施された。

シルバーストンにあるアストンマーティンのテストサーキットでは、ダイナミクスのメリットはF1エディションよりも大きく感じられる。このトラックでは通常どこもが過剰なアンダーステアに感じられるものだが、フロントエンドに思い切り重心を掛けることができるからか、ひとたびV12エンジンが始動すればスムーズに進み、フロントエンドの角度を微調整するだけでいいのだ。なんて素敵なのだろう。

おそらく、さらに驚かれるのは、このオーバーパワー気味のリアドライブ車から溢れるトラクションだろう。もしブレーキングがかなり遅れたとしても、このV12はシンプルにオーバーステアになるように調整を行う。そこで軽くパワーを入れた後、再びパワーを抜く。少々ぎこちない感じもするが、実際にはもっと成熟され、うまく動作するはずだ。

デメリットには、8速オートマのシフトダウンが重々しいこと、ステアリングのフィーリングが平凡なこと、ESPセッティングの中間部がサーキットでは細かくなり過ぎること、などがある。しかしここシルバーストンでは、まったく気にならないほど楽しむことができた。

ただ、静かに走るといったことは、不可能に近い。ロードノイズは海岸で砕け散る波のようで、高速になるとすすり泣きのような音がし、ブレーキが高温になるとパッドの鳴く音がすごい。一応、それらはプリプロダクション車特有のものらしいことも申し添えておく。

乱暴な乗り方を避けて、自分の好きな道を走れば、すべてのデメリットを完全に忘れるほど楽しめるのも事実だ。そんな時、ノイズやパフォーマンス、従順なハンドリングなど全てがひとつにまとまり、最高に幸せなものとなる。私はまさにそれを体感した。

Max Earey

V12ヴァンテージは、限定で333台のクーペが生産される。26万5000ポンド(約4235万円)という価格にも関わらず、即完売となった。F1エディションよりはるかに高額ではあるものの、あらゆる点でより良いオールラウンドカーだ。悩む必要もなかっただろう。サーキット用としても、ドライブ用の特別な車としても、そして純粋なコレクションとしても、このV12ヴァンテージは選ばれるべくして生まれた車である。


文:Ben Barry 写真:Max Earey まとめ:オクタン日本版編集部

オクタン日本版編集部

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