ヒマラヤと5400mを走る。唯一無二の旅「Moto Himalaya 2022」紀行

Tadashi KOHNO

バイクでの旅は、決して快適ではない。だからこそ、そこで出会う景色や人々がビビッドに映し出されるのかもしれない。しかし、バイクや車で到達できる限界点に近い標高5000mの世界は、そんなセンチメンタルな気持ちとは関係なく、圧倒的に過酷で美しかった。そんな唯一無二な体験ができる「Moto Himalaya 2022」と、その旅を支えたロイヤルエンフィールド・ヒマラヤというバイクを紹介する。



すべてに圧倒された7日間。イギリス生まれ、インド育ちのバイクブランド/ロイヤルエンフィールドが展開するアドベンチャーツアー「Moto Himalaya/モトヒマラヤ 2022」は、そんな旅だった。7日間で1000kmと少しという走行距離は、日本でのツーリングの走行距離を考えれば決して長い距離ではない。しかし、インド北部のパキスタンや中国と国境を接するラダック地方を駆けた1000kmは、網膜に映る景色はもちろんのこと、呼吸器、皮膚、内蔵と、体のすべてに与えられる刺激と、それによって醸造される経験量が圧倒的に多く、毎日の走行距離からは計り知れないほどの疲労度と満足度に全身が包まれる。旅の初期段階では、その情報量に脳味噌の処理速度が追い着かず、写真を撮るために停車した路肩で、気がつくと、ただただ景色の中に身を浸している時間があったほどだ。



これまで30年以上にわたって顧客向けにヒマラヤツアーをオーガナイズしてきたロイヤルエンフィールドは、そのツアーパッケージを一新した「Moto Himalaya」を2017年に発表。今回筆者が参加した「MotoHimalaya 2022」は、感染症の拡大によって中断を余儀なくされた2020年以来となる、そのツアーの最新パッケージである。このツアーは8月中旬から9月初旬にかけ、3つのパーティとして開催され、日程やルートはほぼ同じながらも、天候や道路環境の変化にともない、そのルートはフレキシブルに変更される。事実今回も、冬季の降雪量の多さと、ツアー直前の雨のおかげで、ツアー3日目に予定していたルートが川の氾濫で通行止めとなり、それを迂回するルートが再設定された。そういったフレキシブルな対応が可能なのは、ロイヤルエンフィールドと今回のツアーで先導&アンカーを務めたインストライクターが、長くヒマラヤ周辺でツアーをオーガナイズしてきた経験を活かし、周辺ルートやその道路状況を熟知しているからこそだ。

参加者がツアーに集中して、そこでの体験を楽しむためのサポート体制も充実している。その最たるものが医師とメカニック、サポート車両の帯同だ。今回のツアーの拠点となったラダック地方の観光都市 Leh(レー)でも標高3500mを超え、ルートには標高 5000mを越える峠が4つも設定されていた(一部ルート変更で最終的には5000mの峠越えは5回行った)。またツアー後半では、中国との国境に近いTso Kar(ツォ・カール)を含む標高4500m付近での宿泊も2泊設定された。高山病や食あたりはもちろん、ツアー後半には疲労の蓄積による体調不良を訴える者も出てきた。それを想定し、同行したドクターはツアー直前の健康診断で参加者全員の健康状態を把握し、その後は細かな声かけで各自の体調を気遣い、体調不良を訴える者には場所や時間を問わず、診察および治療を続けた。転倒者が出たときは、念のために近くの病院でレントゲンまで撮って身体に異常がないことを確認し、その転倒者の心の準備が整ったら再走行できる手はずも整えてくれた。

ツアーの最後尾に付け、全行程でバイクと同じルートを走破したサポートバン/ Gunwagon(ガンワゴン)。大量のスペアパーツと工具を満載し、現場でのマシントラブルにフレキシブルに対応。その安心感は絶大だ。

石だらけのオフロードや、舗装路といっても、そこらじゅう穴だらけのルートを1000kmも走れば、ボルトの緩みや転倒などによるパーツの脱落、破損なんてことは当たり前だ。当該ツアーでは、ガンワゴンと名付けられたサポート車両はいつもツアーのしんがりを努めて全行程を走り、そういった修理からライディングポジションの変更、さらには転倒などによって破損したステアリングヘッドベアリング交換といった重整備も同行したメカニックが対応してくれる。ホイールが見えなくなるほど深い川渡りで転倒したときも、それらの車両を修復し、皆をプログラムに復帰させた。そして休憩時間や目的地に着けば、バイクは問題ないかと、皆に声を掛けて回る。

ルートの途中に現れる渋滞した街中も、大きな石がゴロゴロと積み重なったオフロードコースも、あっけなく走破してしまうロイヤルエンフィールドのアドベンチャーモデル「ヒマラヤ」。穏やかだが、粘りのある出力特性で、幅広いキャリアのライダーをアドベンチャーに誘う。

その他の多くのサポートメンバーがいるという安心感が、ここでの圧倒的な体験を、さらに唯一無二なものへと引き上げていることは間違いない。

ロイヤルエンフィールドは、なぜここまでして、人々をヒマラヤへと送り出すのだろうか。それはヒマラヤという場所が、インドの人々にとって、さらにはロイヤルエンフィールドというバイクブランドにとって、かけがえのない存在だからだ。

ヒマラヤを取り巻く、厳しくも豊かな自然環境は、インドにさまざまな恵みを与えている。そしてその自然はインド国内の人々、さらには我々日本人を含む多くの観光客を惹きつける。今回のツアーで通過した5000m越えの峠や、それらをつなぐ道には自家用車、チャーターされたバス、乗り合いバスがひしめき合っていた。何よりも驚いたのは、信じられないほど多くのツーリングライダーたちとすれ違い、追い抜いたことだ。しかもそのほとんどがロイヤルエンフィールドに乗るインド人ライダーたちだ。

ツアー最後の標高 5000m越えの峠タグラン・ラでの記念撮影。

高山病や食あたり、転倒者の診断やレントゲン撮影の手配など、帯同するDr.ワンチュック(イエローのネックゲーター着用)が、ライダーが安心して走れる環境を造り上げてくれる。

ロイヤルエンフィールドでヒマラヤを走る。それはインド人ライダーたちの憧れなのだ。

インドはいま、1年に 1350万台近く(2018年には2000万台を越えた)の二輪車が販売される世界最大の二輪市場だ。しかしそのほとんどが、排気量 200cc以下の小排気量車である。そのなかにあってロイヤルエンフィールドは、排気量 350ccから500ccまでの3つのプラットフォームモデルを揃えるプレミアムブランド。なかでも単気筒 500ccモデル(旧 Bullet/ビュレット、現 Classic/クラシック)は、そのロングストローク単気筒エンジンが生み出す強力かつ扱いやすいトルクで、スタンダードのままでヒマラヤツーリングをこなす数少ないモデルだった。そして2016年には、より幅広いキャリアのライダーがより気軽に安全にヒマラヤツーリングが実現できるようにと、初のアドベンチャーモデル「ヒマラヤ」を発売。開発時にはヒマラヤ周辺を徹底的に走り込み、しかし欧州アドベンチャーモデルのように大排気量と強力なシャシー、先進の電子制御技術で自然を征服するようなアドベンチャーモデルではなく、最低限の排気量と装備で、自然に敬意を払いながら、ライダーとバイクが力を合わせながらヒマラヤに分け入っていくようなバイクを造り上げた。

その「ヒマラヤ」とのヒマラヤの旅は、ラグジュアリーな旅、というイメージを大きく覆すものであった。ヒマラヤの山々からの雪解け水が作り上げた湖、土や岩が剥き出しの茶色い山、木々に覆われた緑の山、鉱石によって赤や青に染まった山、それの影響を受ける色づいた川、荒涼とした大地、濃紺の空、肌を焼く強い日差し、夕陽に染まる雪山、漆黒の夜空、満遍の星空…こんな贅沢な体験こそ真のラグジュアリーというのではないだろうか。ヒマラヤには、それが溢れているのだ。



ツアー後に訪れた、インド・チェンナイにある本社デザインセンターとバラムバダガル工場。ともにDX化が進み、生産効率の向上が徹底的に図られている。ロイヤルエンフィールドは、チェンナイと英国バーミンガムにテックセンターを置き、共同で車両開発を進めている。バラムバダガル工場は2018年2月より稼働する最新工場。チェンナイに全3工場を持ち、そこから生み出す3つのプラットフォームのモデル群で、中間排気量世界ナンバーワンブランドを目指す。



文・写真:河野正士 写真協力:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム/ロイヤルエンフィールド
Words and Photography:Tadashi KOHNO Photography support:Royal Enfield Tokyo Showroom/Royal Enfield

文・写真:河野正士 写真協力:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム/ロイヤルエンフィールド

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