自動車デザイナーの仕事は、AIに取って代わられるのか? あるカーデザイナーの見解

Frank Stephenson Design

昔から「人工知能(以下、AI)」という響きには、ミステリアスでオールマイティな響きがあった。人間が己の限界を知っているからこそ、デジタルで正確無比な計算能力を有する“コンピューター”に夢を託してみたくなるのかもしれない。そして、SF小説/映画「2001年宇宙の旅」、TVシリーズ「ナイトライダー」など人間の友として、敵として、AIが描かれてきた。

ここ数年、AIの劇的進化を感じさせるのは、広く一般に利用が解放され始めたからかもしれない。画像に写っている物体や人物を自動で認識する「画像認識サービス」、音声を自動でテキストに変換する「音声認識サービス」、自然言語で書かれた文章を解析し、意味を理解して応答するチャットボットや機械翻訳などの「自然言語処理サービス」、ビッグデータを解析し、将来の傾向や株価などの「予測分析サービス」などが挙げられる。

直近ではテキストから画像を作成してくれるAIサービスが一般に公開され、最新号のTIME誌の表紙に自然言語処理サービス「ChatGPT」が掲載される時代である。“何度目のAIバブルだろう?”と思ってしまう反面「データ量の増加」、「コンピューターの性能向上」、「深層学習の発展」、「クラウド技術の進化」、「自己学習の実現」により確実に進化を遂げていることを実感させてくれる。

そして、テキストから画像を作成してくれるAIサービスでは、自動車のデザインを試すユーザーの作品がソーシャルメディアで多数、シェアされている。そんなAIサービスの可能性について、フランク・ステファンソンがわざわざメディア向けにプレスリリースを出してまで自身のYouTube動画の告知をしている。



フランク・ステファンソンはBMW傘下初のミニやBMW初代X5を手掛けたことで有名で2008年から2017年まで、マクラーレン・オートモーティブのデザイン部門を率いた人物だ。最近はドイツの「リリウム」やアメリカの「アーチャー・アビエーション」などのeVTOLスタートアップでデザインを手掛けたり、自身の腕時計ブランドを立ち上げたり、YouTuberとして活躍している。



ステファンソン氏は、テキストから画像を生成してくれるAIサービスが、自動車業界にとって何を意味するのかを解説。自動車デザイナーは、基本的なスケッチに何時間もかける必要がなく、作品の細部にまでこだわることができる、という。また、既存のデザインを改良したり、ユニークな新しいデザインを生み出したりするために、AIツールを活用することができる、とも。





また、BMWをからかって、画像生成AIサービスに「a bmw grille that isn't hideous(醜くないBMWグリル)」を入力して画像を生成してみせている。また、車全体のデザインだけでなく、ヘッドライトやステアリングホイールなど、個々のディテールもAIがデザインできることをステファンソンは指摘する。

余談だがアウディは数カ月前、ホイールのデザインにAIを活用することを、NASAも部品設計においてAIを活用することを発表したばかり。だが現状、AIには限界があるのも事実。AI画像生成サービスは、膨大な数の既存画像を学習データとして使用し、画像を生成する。そのため、すべてが過去に見たものの複雑なリミックスになりがちで、真に新しいアイデアを出すことはまだまだ苦手だといえよう。





AI画像生成ツールは非常に効率的で便利なツールで、生成された画像をベースに自動車デザイナーが細部を“詰める”、というワークフローになりそうな未来をステファンソンは予見している。結論から言うと「まだまだ自動車デザイナーの仕事はなくならない」だが…、AIの進化は我々の想定より速いのではなかろうか?

この原稿だって、人間が書いたのか、自然言語処理サービスが記述したのか…、既に分からないだろう。社会構造の変革は間違いなく押し寄せている。AIは人間社会に利便性をもたらすツールであり続けるのか、人間社会を脅かす“自律型仮想生命体”のような存在になるのか、面白い時代に突入している。


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

文:古賀貴司(自動車王国)

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