かねてから噂に上っていたアストンマーティン・ヴァンテージの新型が、ついにデビューした。アストンマーティン史上最大のヒット作となった先代の後を継ぐニューモデルは、いったいどんなプロファイルの持ち主なのだろう。
アストンマーティンのセカンドセンチュリープランは、まったく乱れを見せることなく、スムーズに進んでいるようだ。"毎年1台ずつニューモデルを発表する"という公約どおり、2016年のDB11に続いていよいよ新型ヴァンテージを発表した。11月21日の日本時間21時に世界同時発表となり、日本ではまさにオープンしたばかりの東京・青山のブランドセンター"The House of Aston Martin Aoyama"でアンヴェールがなされたのだった。(The House of Aston Martin Aoyamaについてはこちらから)
2005年から12年にわたって愛されてきた先代は、アストンマーティンにしてはフレンドリーなプライスとコンパクトなサイズから、エントリーモデルと称されることもあったが、それよりむしろフロントエンジン+後輪駆動のスポーツカーとしての理想的なハンドリングと運動性能の素晴らしさが高く評価されてきたモデル。ラインナップの中においても、GT カーとしての色合いの強い DB9/DB11に対してスポーツカー色の強いヴァンテージ、という位置づけだった。その後継となる新型は、どんなふうに変貌を遂げたのだろうか。
見るからに異なっているのは、そのエクステリア・デザインだ。いうまでもなく同社の副社長であり造形部門のトップでもある、"黄金比の魔術師"とでも呼ぶべきマレック・ライヒマンの手によるもの。アストンの伝統といえるクーペとしての美しいシルエットと斬新なディテールが綺麗に混在していて、しなやかで筋肉質な肉食動物を連想させるイメージだ。アンディ・パーマーCEOとライヒマンが以前から公約していたとおり、DB11とは異なる独自の趣を持たされていて、同時に歴としたアストンマーティンらしい存在感を漂わせている。その匙加減は絶妙である。
ボディサイズは全長4465mm×全幅1942mm×全高1273mm。先代よりも83mm長く、76mm広く、13mm高い計算だ。少々大きくなってはいるが、それでも兄貴分のDB11と較べれば284mm短く、ポルシェ911より34mm短い。コンパクトさが光っていたヴァンテージだけに、この時世、よくぞこの程度の拡大ですませてくれたものだと思う。
ちなみにホイールベースは2704mmで先代よりも103mm伸びているが、それでもDB11より101mm短い。トレッドの数値は未公表だが、全幅が広がっていることを考えると、ホイールベース対トレッドの比率はそれほど大きく変わってはいないだろう。この辺りは先代の持ち味だった俊敏なハンドリングをキープするための、こだわりといえるだろう。ちなみに車両重量はミニマムな仕様の乾燥重量で1530kg。先代のカタログモデルの中の最もスポーティな仕様だったN430の乾燥重量が1610kgだったことを考えると、軽量化もしっかりと推し進められてるといえるだろう。
基本骨格は、DB11で初採用となった新世代のボンデッドアルミストラクチャーを進化させたもの。ヴァンテージというモデルに相応しい剛性の確保やバランスの最適化を目的に、全体の70が専用に開発されているという。フロントミドシップにトランスアクスルというレイアウトは不文律のようなもので、前後の重量配分は50対50にセットされている。
フロントアクスルの後ろ側に低くマウントされているパワーユニットは、これまでの自然吸気4.7リッターV8に代わり、メルセデスAMG由来の4リッター V8ツインターボだ。最高出力は510ps/6000rpm、最大トルクは685Nm/2000-5000rpm。先にDB11 V8に搭載してるものと基本は同じと考えられるが、最大トルクは10Nm 高い。独特の"らしい"味わい深さを作り上げるため各部に入念なチューニングを施しているということだから、そうした最適化の結果なのだろう。ちなみこのユニットはZF製の8速オートマティックと組み合わせられていて、0−62mph(約100km/h)は3.7秒、最高速は314km/hと、スピードの面でも立派にスーパースポーツカーの範疇にある。
そのパフォーマンスを支えるシャシー周りは、サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアがマルチリンクで、スカイフック式のアダプティングダンピングシステムを備えている。ステアリングはロック・トゥ・ロックが2.4回転とかなりクイックな車速感応型電動アシスト付きとなる。
フットワーク系における最大のトピックは、アストンマーティン初となる電子制御式リアデフが採用されたことだろう。オープンから100ロックまでを瞬間的にシームレスに切り替えることのできるそのシステムは、トルクベクタリングやスタビリティコントロールなど他の電子デバイス系と合わせて統合制御されるという。
先代のヴァンテージもこのクラスのスポーツカーとしては、並外れて優れた素晴らしいハンドリングとコーナリングパフォーマンスでドライバーを魅了してくれたが、新型ヴァンテージがそうした"曲がる"という行為にまつわる楽しさをさらにブラッシュアップした魅力的なスポーツカーに仕立て上げられていることは、容易に想像できる。一刻も早くステアリングを握ってみたいという気持ちが沸々と湧いてくる。
気になる日本国内での販売価格は、1980万円+税となる予定。3代目ヴァンテージと較べると手が込んでいる分だけ高価になってはいるが、ほぼ同じエンジンを搭載したグランツーリスモのDB11 V8より200万円ほど安価だ。なお、デリバリー開始は2018年の第2四半期となる予定である。
アストンマーティンCEO アンディ・パーマー氏に聞く
アストンマーティン東京のショールームのオープンとロンドンに次ぐ第2のブランドセンター開設のレセプション出席のために来日していた、アンディ・パーマーCEO。当日はヴァンテージ発表まで20日ほど前のタイミングだったが、新しいヴァンテージに関する話も少しだけ伺うことができた。
「新型ヴァンテージは、私がアストンマーティンのCEOに就任してから初めて、すべてのプロセスに関与することになったモデルです。すでにテストドライブもしています。自動車業界で38年生きていて、これまでに様々な素晴らしい車と出逢ってきましたが、新しいヴァンテージはそれらと較べても過去最高の車になったと自負していますよ。
まず、スタイリングデザインが非情に美しい!そしてハンドリングが抜群に素晴らしい! 車の動きはかなり軽やかです。もしも仮にあなたが競合車達と乗り較べたとしても、絶対に"これは素晴らしい!"と感動していただける自信はありますよ。
私はレースが好きで、実際にヴァンテージでレースにも何度か出場しています。それから個人的にヴァンテージを集めていて、1980年の第1世代のV8ヴァンテージも、第3世代のヴァンテージGT8も所有しています。私自身、ヴァンテージのファンなんですよ。だからもちろん新しいヴァンテージも、すでに発注してあります。きっと納車は後回しにされてしまうことでしょうけれどね(笑)」
闘う準備もできている
驚いたことに、アストンマーティンはロード・カーとしての新型ヴァンテージと同時に、レーシング・ヴァージョンである"ヴァンテージGTE"も発表した。いうまでもなくル・マンなどの世界耐久選手権をはじめとしたGTカテゴリーを戦うためのマシンである。原稿執筆の時点では詳細なデータなどは公表されていないが、写真を見る限り、例えば最も流速の速い空気の通り道を邪魔しないサイドミラーをさらに新しく設計しなおすなど、ロード・カー以上に空力に関しての追求が進められていることが覗える。アンディ・パーマーCEOによれば、2018シーズンは最初のレースからこのマシンで闘うことになるという。
文:嶋田 智之 Words:Tomoyuki SHIMADA
アストンマーティン
URL: http://www.astonmartin.com/ja
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