ジャーナリスト西川 淳が独断で選ぶ、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ、今年の注目5モデル

BMW Goupe Classic

夢のようなひと時とはまさにこのことだった。一年のうちで最も良い季節の北イタリアで催されたにもかかわらず雨に見舞われたという稀な経験も含め幻のような週末だったと、蒸し暑い日本に戻って思い出す。本当の夢であれば日々その情景は薄れてゆく。けれどもこの経験ばかりは頭のなかで、否、なんだか身体全体に漲るようにして、素晴らしい光景が思い出される。何度訪ねても、コンコルソ・デッレガンツァ・ヴィラデステとはそういうイベントだ。



キリスト教の宗教改革を経て産業革命をいち早く経験しデモクラシーと資本主義の勃興した西ヨーロッパにおいて、“個人の移動の自由を担保する”自動車の発明と発展は必然だったと言っていい。そんな場所で行われているノスタルジックなイベントにおいて、わが国との自動車文化の違いや突出した富裕層の振る舞いを目の当たりにし、無闇に嘆いたり醒めた目をしたりしてはいけない。それらはすべて歴史や風土、宗教などの違いから生まれた結果でしかなく、西欧が優れて東方が劣っているわけではないからだ。キリスト教と神道や日本仏教の優劣を判ずることなど誰にもできない。“それがそこにある”という一つの事実に過ぎない。そこが日本における車好きの依るべきスタート地点であろうとあらためて考えさせられた。

コンクールというからにはプライズがある。ヴィラデステのそれは少しややこしい。複数あって、どれも“偉そう”だから。参加車両は事前に選考委員会によって厳選された50台で、クラシックカーは8部門(クラスAからH)までに分かれている。それぞれに審査員によって選ばれるクラス優勝と特別賞があり、その中からベスト・オブ・ショー(BMWグループトロフィー)があり、これが簡単にいうとこの週末の一番だ。



今年はクラスC(マハラジャの凄い車たち)でトップを取った1935年製デューセンバーグSJスピードスターに決まった。この賞をアメリカ車が獲得したのはおそらく初めてのことだろう(これまではイタリア、フランス、イギリス、つまり欧州の老舗ブランドばかりだった)。



もう一つ、一般投票によって選ばれるベスト・オブ・ショー(コッパドーロ・ヴィラデステ)もあり、そちらは1961年製フェラーリ250スパイダーカリフォルニアが獲った。その他、ベストサウンドや若者人気ナンバー1などいくつかのプライズがあったが詳しくは別掲の表をご覧いただきたい。



二つのベスト・オブ・ショー以外に重要な賞としてコンセプトカーに与えられるデザインアワードがある。今年は我らがケン・オクヤマ・デザインによるK61バードゲージも出展されたが、賞はパガーニ・ウアイラ・コーダルンゴに与えられた。イベントの起源は1929年で、その頃はまさに当時のパガーニのようなモデル、例えば最初の栄冠はイソッタフラスキーニに授けられていたから、そういう意味では重要な賞だろう。





というわけで、コンクール結果ばかり見ていても、この週末の素晴らしさを伝えることはできない。賞を取れなかった個体はもちろん、会場にやってきたモデル、日曜の一般公開日に“お隣”ヴィラエルバで開催されたRMオークションやクラブミーティングの車たちにも必見は多かった。そのなかから個人的に気になった5台をピックアップして今年のショーリポートを締めくくろう。

まずは欲しくなった一台から。ペブルビーチもそうだけれど、この手の頂上コンクールに登場する個体はいくら仔細にチェックできたとしても欲しいと思うまでには至らない。“遠すぎる”からだ。非現実的だ。フェラーリ250GTOを見て今どき真剣に欲しいと思う車好きなんてそうそういまい。けれども今回、クラスE(戦後のGTカー)に登場した一台の小型スポーツカーにひと目惚れした。アメリカからやってきた1963年製ATS 2500 GTSベルリネッタ・アレマーノだ。カルロ・キティ、ジョット・ビッザリーニ、フランコ・スカリオーネといったビッグネームが付属するモデルといえば痺れずにはいられない。下のティーポ33への足掛かりとなったV8をミドに積んだボローニャ製のミニ・スーパーカー。生産台数もごくわずか。世界でも有数のティーポ33コレクターであるアルバート・スピースは「すごくいい車だ、それにリーズナブル」と曰ったけれど、それはアルファロメオT33と比較しての話である。



次はベストエンジンサウンドカーにも選ばれたクラスG(ル・マン24時間100周年記念)のポルシェ917K。ベルギーから参加のオーナーが気難しいはずのル・マンカーでヴィラデステからヴィラエルバまで街の中を自走で移動していた。素晴らしいサウンドが街中にこだまする。もちろん地元警察の許可を得ての走行だ(イタリアには国や州、軍隊など警察組織が他にもあって、互いに仲が悪い。もし他の警察に停められたら主催者であるBMWクラシックに連絡しろと言われていた)。



3台目はこれまたクラスEからアルファロメオ6C 2500SS ベルリネッタ・リーヴァ“ラ ・セレニッシマ”。初めて見た。6Cドライサンプのレーシングエンジンを積んだ優雅なクーペ。クラスEのウィナーはフェラーリ330GTCスペチアーレだったが、この6Cは審査員特別賞だった。



そして4台目は以前にASI賞を獲った経験のある貴重なコンフィグレーションのBMW M1で、これはヴィラデステのホテル入り口に路駐してあって、部屋の窓からずっと見えていたので脳裏に焼き付いている。わずか二台しか作られなかったスレートグレーペイントの個体で、内装はブラウン。超おしゃれ。



実を言うと今回、筆者は日本から参加した1971年製ランボルギーニミウラ P400SVのオーナーとともに参加した。残念ながら激戦区のクラスEにあって表彰には至らなかったが、クラスF(イタリアンデザイン)にエントリーした1962年製マセラティ3500GTクーペツーリング(コンコルソデレガンツァ京都を主催する木村英智氏がオーナー)とともに、日本のナンバーをつけての参加にこちらまで誇らしい気分でいっぱいになった。憧れのヴィラデステに宿泊し参加者の同じ目線でイベントを体験できたというわけで、フランチャコルタに始まったプレイベント“プレリュードツアー”からコンクールまでご一緒させて頂いた富田栄造氏に感謝の意味も込めて黄緑の、かの有名なミウラを最後の一台として挙げておく。






文:西川 淳 Words: Jun NISHIKAWA

西川 淳

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