Ken Okuyama Carsの最新モデルkode61がイタリア・ヴィラデステに登場

Shinichi EKKO

最古の自動車コンクールデレガンス、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ。ハイライトはその車のオーナーがステアリングを握り、審査員や観客が見守る中で行われるパレードランだ。そのオープニングを飾るコンセプトカー部門では、一台のユニークなオープンモデルが快音を響かせながらステージへと走り込んで来た。



名物司会者サイモン・キッドソンがそのドライバーへと親しげにたたみかける。
「ハイ、ケン。お帰りなさい。でも、あなたはまだイタリア語は話せるかな?」

「もちろん!慣れ親しんだピエモンテーゼ(ピエモンテ方言)で行きましょうか?」
という気の利いたコメントに会場は大喝采だ。

そう、ピニンファリーナを離れた2006年以来、久しく離れていたイタリアのカーソサエティへと戻ってきた奥山清行の登場であった。持ち込んだ車はバードケージkode61。2シーターの幅広く低いバルケッタボディを纏ったKen Okuyama Carsの最新モデルだ。



奥山はこう観衆へと語りかけた。「僕はピニンファリーナにおいて、エンツォやクアトロポルテをデザインしました。そして2005年にはバードケージ75をデザインしています。その中でマセラティというブランドが自分の中で大変大きな存在になりました。そして今回、1960年のマセラティTipo61バードケージという歴史に残るレースカーからインスパイアされた、バードケージKode61を創りました。過去のテーマを未来に活かしたコンセプトカーとしてヴィラデステにノミネートしていますが、既に登録されて公道を走れる車なんです。既に顧客へ販売済みの個体ですから、観客の皆さんはもう買うことができません。申し訳ない!」

ステージは冒頭で観客の心を掴んだ奥山のまさに独壇場だ。会場からは大きな声援が響き、“オレも買いたいぞー”なんていうヤジも飛んでいる。

「この車のノーズにはイタリア製のV12あるいはV8が載っていて、おまけにトランスミッションはマニュアルなんです。僕はトランスミッションこそ、人間が手でコントロールすべきだと思うんですよ」と彼はユーモアたっぷりに付け加えたから、もう大ウケだ。会場からは”カンビオ・マニュアーレ”(イタリア語でマニュアル・ミッション)の大合唱となり、もう司会のキッドソンもタイム・キープを諦めてしまう有様・・・。



奥山とkode61は会場に溢れる自動車愛を見事に一つのモノへとまとめてしまった。筆者も長年このコンクールデレガンスには参加しているが、パレードランがこれだけ盛り上がったのをみるのははじめてだ。

Ken Okuyama Carsはこれまで4モデルのハンドメイドスポーツカーを日本国内で開発・製造している。そのどれもが公道走行可能なスペックを持ち、日本ではきわめてユニークな存在だ。公道用スポーツカーのみを少量生産する、まさに日本で唯一のカロッツェリアだ。このヴィラデステにおいても日本の独立系カロッツェリアがノミネートされたのは、はじめてのことである。

ヴィラデステにはクラシックカー部門と、未来へ向けての提案であるコンセプトカー部門の二つに大きく別れる。今回コンセプトカー部門に並んだのはパガーニ・ウアイラ コーダルンガ、ヒョンデN VISION 74、S9 CONCEPT DESIGN BY WALTER DE SILVA& PARTNERS、ブガッティW16 ミストラル、そしてkode61だ。

実際のところ、このラインナップの中、kode61は他モデルと趣を全く異にする。ハイパワー・パワートレイン、BEVなど最先端をテーマとする中でkode61はきわめてオーセンティックだ。1960年代のスポーツカーが持つ味わいを最新のテクノロジーで再構築したという、スポーツカーへの原点回帰がkode61のコンセプトであるというのだから。



「懐古主義がテーマでは全くありません。このkode61は私がイタリアで学んだこと、ピニンファリーナで学んだことの全てが活かされています。もうスタイリング開発において、イタズラに新しい要素をひけらかす時代ではないと私は考えます。はっきり言ってしまえば魅力的なプロポーションが全てです。このkode61のウエストラインの低さをみてください。スポーツカーとしてあるべき軽快さがそこには表現されています。グラマラスなフェンダーとそれを繋ぐ直線的なテーマはマセラティの持つデザインDNAでもあり、それはかつて手がけたバードケージ75thで表現したものを進化させています。現代の複雑なデザイン・トレンドに対するアンチテーゼなのです」と奥山は語る。

事実、kode61の潔いコンセプトには普段辛口のメディアも絶賛であった。面白いエピソードがある。今回、ヴィラデステを前にイタリア最大の日刊紙ラ・スタンパをはじめとした、幾つかのメディアが判を押したようにkode61のスクープ記事を掲載し、大いに反響を呼んだ。コロナ禍後、はじめて以前のような形で開催されるヴィラデステであるが、このスクープはイベントのPRに一役買ったのだ。

冒頭のスピーチでも語られたようにkode61のフロントにはV8(440hp)、もしくはV12(580hp)の自然吸気エンジンが搭載され、6速マニュアル・ミッションのFRトランスアクスル・レイアウトが採られる。“バードケージ(鳥かご)”のような繊細なスチールパイプフレームが基本構造と、キャビンのデザインテーマとして活かされ、軽量なCFRP製ボディパネルが組み合わされている。乾燥重量は1300kg台であり、ボディパネルなどのスペックによっては更なる軽量化も可能という。コンセプトカー部門に並ぶ他の4桁の馬力を持つ重量級マシンとは一味違ったライトウェイトのボディを縦横無尽に振り回すという魅力がkode61にはある。それもマニュアルで!



キャビンのテーマは、これまでのKEN OKUYAMA CARSモデルの特徴であった、ドライバーとパッセンジャーが独立したレイアウトのツインコックピットをさらに進化させたもので、電動格納式ウィンドウシールドも実用的だ。概して、これまでのモデルの経験が活かされたきわめて完成度の高いモデルといえよう。この第一号車はKen Okuyama Cars山形ファクトリーにて製作されたが、オーダーメイド・ベースにて数台が世界の顧客に向けて販売されるという。


今年のヴィラデステは土曜日が雨に祟られたが、日曜は薄日も射し、爽快なコモ湖畔のひとときを楽しむことが出来た。コロナ禍が明けてはじめて今回は一般ギャラリーにコンクール出展車両が公開された。かつての状態へと戻ったワケであり、1万人近くの観客がフィールドへと押し寄せ、クラシックカーの祭典を楽しんだのだ。



目を輝かせた少年少女達にもkode61は大人気だ。「何これ!カッコいい。こんな車みたことない」と大はしゃぎだ。次世代を担う子供達に取り囲まれたkode61は何より幸せに見える。そして生みの親である奥山にとってこれほどうれしいことはなかったであろう。


文・写真:越湖信一 Words and Photography: Shinichi EKKO

越湖信一

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事