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1955 Bentley R type Continental "BC56D"

コンティネンタルは数あるベントレーの中でも特別なアイコンだ。現在のベントレーGTが追い求めるスポーティーさと快適性を兼ね備えたパーソナルカーという姿の源流はここにある。その一台を取材した。

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イアン・フレミング自身が1961年に書き下ろした、ジェームズ・ボンド007シリーズ『Thunderball』の原作では、ボンドの愛車はベントレー・コンティネンタルであった。原作者は、ボンドは身の回りには英国が長年にわたって培ってきた本物だけをあてがったが、それは車でも同様であった。戦前型の過給器付きベントレーを愛用してきたボンドが乗り換えるとしたら、それが1950年代後半から60年代初頭であってもコンティネンタルは当然の選択肢であった。それは、英国で最も優れた高速巡性を備えた快適な4座クーペであり、戦後のベントレーのなかでは筆頭格の魅力的な存在と評されていたからに他ならない。

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これほどの高性能車であり、極めて高価であったことから、 当時、Rタイプ・コンティネンタルが日本にはやってくることはなかった。1980年代中頃にエンスージアストが英国から1953年モデルを携えて帰国された例が最初ではなかろうか。昨今、様々なクラシックカーが輸入されるようになってからも、207台が生産されたにすぎないRタイプ・コンティネンタルが上陸したという話を聞くことはなかった。ベントレーに詳しいエンスージアストに問うても、現時点に日本にあるのは、この稿に掲載した車を入れても、せいぜい2台だ ろうかという。

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『オクタン日本版』は、その2台目ではないかというRタイプ・コンティネンタルがワクイ・ミュージアムに収められたと聞き、ある冬晴れの日、対面に向かった。

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それは、2017年ロンドンで開催されたRMサザビーズのオークションで落札された、H.J.マリナー製ファストバック・クーペ・ボディを持つ、典型的なもっとも美しい、1955年製コンティネンタル、シャシーナンバー"BC56D"だ。同年に登場した「D」シリーズと呼ばれるモデルで、初期型の4.57リッターに代え、発展型でパワフルな4.9リッターエンジン、4段マニュアルギアボックス、軽量シートなど、コンティネンタルの性能を楽しむための最も望ましい機能を備えている。

1955年2月4日にPXC 163のナンバーで登録され、以来、ずっと英国に棲んでいた。こうした稀少車であるから、ヒストリーはすべて明らかになっており、オーナー歴の中には、ある時期にアストンマーティン・ラゴンダの社主であったビクター・ガントレットが所有していた。エンスージアストで知られたガントレットは、コンティネンタルにご執心で、プロトタイプの"Olga"も所有していた。

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エンジンブーム内に張られたシャシーナンバーを記したプレート。

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こちらはコーチビルダーのH.J.マリナーのプレート。立派な鋳物製だ。ボディナンバーは5785とある。

"BC56D"がこれまでに辿ってきたヒストリーのドキュメントが添えられているが(大仰なレザー貼りの箱に収まっている)、ガントレットから譲り受けた前オーナーは30年以上にわたって所有し続け、レストアを施し、20年間にわたってBDC(Bentley Drivers Club)の常連であり、2017年にはクラス賞を受けているとあった。

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ウィングドBにはいくつかの形状があるが、Rタイプ・コンティネンタルはこれ。

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ボディの曲面に溶け込むような形状のドアハンドル。その形状は握る手に心地よい。 

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フロントウィンドウにはBDCのコンクールで章を得た証が残る。

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給油口のリッドは繊細な工作を見せる。乱暴に扱ったら壊れそうだ。

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漆黒に塗装されたOHV直列6気筒の4.9リッターエンジン。このようにスカットルはアイボリーに塗色される。 

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カーペットでフルトリムされたトランク内には大きなスペアタイヤを備えるが、奥行きは深い。

さらにヒストリーを辿ると、前オーナーはこのコンティネンタルを日常にもストレスなく使うことができるように控え目なモダナイズを施していることがわかる。

その最たるものが、目立たぬように付加されたパワーステアリングだ。当初は違和感を覚えるのではないかと危惧して試乗に出たが、それはまったくの杞憂にすぎず、アシストは軽すぎず、重すぎず、まったく自然なフィールを覚えた。同様に、エンジンにも電子式イグニッションシステムが組み込まれ、 始動と回転の安定性を保つことに寄与している。

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サイドシルにもH.J.マリナーのプレートが備わる。フロアはこのように平らだ。 

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ドライバー前の左に速度計(170mph)、右に回転計(4250rpmからレッドゾーン)が備わる。

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がっしりとした工作を見せるペダル類。タイヤハウス側には外気を導入する空気口がある。ペダルの上側には、懸架装置の各部にグリスを圧送するためのペダルがある。

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シフトレバーはドア側(右ハンドルでも右側)に備わる。その確実な操作感は確実のひと言に尽き、心地よい。 

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後席用の灰皿とシガーライター。アームレストから引き出す灰皿の形状がエレガントだ。

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繊細な造形を見せるインナーハンドルが美しい。 

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Rタイプ・コンティネンタルの魅力はこの軽量バケット・シートだろう。快適にして、サポート性に優れる。

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前席より高めにセットされた後席には大人2名が無理なく座ることができる。ルーフには 英国高級車の文法どおり、スペースを稼ぐ凹みを備える。 

Rタイプ・コンティネンタルの魅力はその軽快な走りだろう。それに寄与しているのはアルミ製ボディにいる軽快さで、ベースとなったRタイプ・サルーンと比較して150kgほど軽いことと、低回転域で豊かなトルクを発揮する4.9リッターエンジンが貢献しているといえる。

さらに、高めの着座位置と広い前方視界と、適切なパワーアシストによって、自信を持って右足に力を入れることができる。何度も博物館の周囲を周回するうちに、このまま近くのインターチェンジから東北道に入り、遠くまで北上したい衝動に駆られた。その時、Rタイプ・コンティネンタルは最良の表情をドライバーに見せてくれるはずだ。

文:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Words: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)
写真:芳賀元昌 Photography: Gensho HAGA

涌井ミュージアム
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