「フランスの高級」を標榜するDS7 CROSSBACK

ドイツの高級車、そしてAWDも増えてきたとはいえ圧倒的にFR車が支配的な日本市場で、FFレイアウトの「フランスの高級車」はどう映るか? 

DS 7クロスバックの国内試乗会を終えた後、クルマの印象とは別に、ふと考えた。ドイツ車信仰の強い日本では、FRもしくは後輪駆動のクルマこそが高級車と思われていて、FFに対してクルマ好きが妙に嵩にかかるところがある。

そもそも思い出して欲しい。DSのルーツたるシトロエンは1934年にトラクシオン・アヴァンを世に問うたことを。トラクシオン・アヴァンは世界初のFF量産車ではなく、コードL-29やDKWに続くそれだが、スチールモノコックの低床&低重心ボディの先進的設計によってFFレイアウトの優秀性を世に知らしめた、初の成功例なのだ。もうお分かりだろう、戦後のDS19からDS23、SMといった高級車、現代のDS 7クロスバックが「フランスの高級車」である以上、FFレイアウトを採ることは自明の理であり、正統だ。

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「パリ仕込み」とか「フランスのアート・オブ・ライフ」と聞くと、何かと華やかでキラキラした仕掛けに目を奪われがちだが、DS 7クロスバックは308や3008と共有するEMP2プラットフォームを、お洒落エッセンスで飾り立てただけの一台ではない。むしろ感心するのは、1.6Lターボの225psガソリン、2Lの177psディーゼルとも、基本構造を同じくする既存のパワーユニットより、アイドリングストップ&再スタートのマナーがよくなったこと。

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組み合わされるアイシンAW製8速ATは初出ではあるが、静粛性や振動の抑え込みで、キチンと高級車らしく滑らかに仕上がっている。加えて、車線内の左右いずれ寄りか中央か、ポジショニング機能と修正舵付きのレーンキープや、ACCに緊急ブレーキアシストを含むレベル2として標準的なADASパッケージだけでなく、瞼の動きを検知して居眠りや疲れを警告する機能や、オプションながら野生動物を検知するナイトビジョンもある。

コスト的でも装備面でも、重くなり過ぎてないところが、好印象なのだ。
近年の多段化ATらしく、8速ATはなるべく高いギアに入れようとする傾向にある。容積はほとんど旧6速と変わらず、それでいて伝達効率は4%向上しているという。

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そして肝心の乗り心地と走りだが、まずセンターコンソール上のドライブモード切り換えボタンで「コンフォート」を選択すると、5~25m先の路面をカメラで読み込んで、4輪の各ダンパーの減衰力を最適化制御する「DSアクティブスキャンサス」がオンになる。フランスで試乗した時と同様、ホテルの建物周りの石畳の上では、明らかにノーマルモードに比べ、タイヤの打音が目立たなくなる。平滑な路面でノーマルやスポーツとの違いは感じられないが、継ぎ目のような短いギャップではなく、大きめの凹凸やうねりを超えると、一発で収束しないデクレシェンドのゆらゆらが伝わってくる。やはりハイドロ・サスペンションの末裔だな、と思わせる乗り心地が感じられる瞬間といえる。

ただし、ノーマルモードで同じような段差を超えた時の仕事ぶりが、物足りないわけではない。一発でしっかり受け止めて収まる、むしろ模範的なストローク感としなやかさ、そしてボディの剛性感だ。それだけだとDSとして普通過ぎるから、ハイドロ風が楽しめるコンフォートがあるのだろう。スポーツモードはステアリングやアクセルがやや敏感に、シフトスケジュールも加速重視となって、増幅されたエキゾーストノートが聞こえてくる。狭い峠道などでは頼りになるだろうが、一度走り出せばボディサイズを忘れるほど、ステアリング操舵に対するトレース性や手の内の収まり感はいいことは、付記しておく。

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今回試したディーゼルとガソリンの違いは、パワー感の違いと、装着しているタイヤ&ホイールによるドライバビリティの感触の違いだ。前者はトルクフルで、初速の力感でも上回る印象だが、18インチのマッド&スノータイヤとの組み合わせも穏やかで、快適性重視なら断然こちらといえる。逆に後者はアクセルを踏み込むにつれて加速が伸びるリニアな感覚やノーズの軽快さで、ディーゼルを凌ぐ。20インチのスポーティタイヤゆえに、アタリの柔らかさではディーゼルに半歩譲ったが、乗り心地でとくに難のある局面はなかった。 

最後に特筆すべきは、「バスティーユ」内装の、ジャガード織り風の生地の独特の風合いだ。素材と色のデザインランゲージや量産への応用を研究する専任チームがDSのデザイン部門にはあるが、そうした息の長い仕事がキチンと息づいていることを感じさせる。

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ラグジュアリーはこれ見よがしに持ち上げたものではなく、当たり前を積み上げた結果として得られる副産物であることを、「フランスの高級」を標榜するこのクルマは、じつは雄弁に語っている。

文・写真:南陽 一浩

DS Automobiles: https://www.dsautomobiles.jp/index.html#

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