2015年に鈴鹿サーキットの創業50周年を記念し、往年の名車やドライバーが大集合。それが評判を呼んで、2年目からは超高級かつ「エクストリーム・ウォッチ」造りで知られる時計メーカー「リシャール・ミル」が冠スポンサーについた。代表のリシャール・ミル氏本人が国際C級ライセンスを有するジェントルマン・ドライバーで、スポンサーシップ提携初年度の2016年に、自ら所有するフェラーリ312Tを鈴鹿に持ち込んで駆ったものだから、さらにその熱が拡大した。そして2017年、11月18-19日の週末に第3回目の鈴鹿サウンド・オブ・エンジン(以下SOE)を迎えたのだ。
昨年からあったデモレース枠「レジェンド・オブ・F1」に加え、今年は1985年以前のF1マシンで争われる「マスターズ・ヒストリック・フォーミュラ・ワン」という、おもに欧米を舞台に行われるシリーズのデモレースも合流。時代背景的には日本GPが鈴鹿で行われる以前だが、総勢20台もの伝説のF1マシンがこの世界屈指のテクニカルコースに挑む、史上初の機会となった。
しかも今回は、欧州のGPを転戦していたマキF101Cや、日本では1976年の富士での日本GPでしか出走していないコジマKE007ら、和製F1マシンも鈴鹿で観客の前で凱旋出走するという「鈴鹿プレミアム」も。
実際、グリッドウォークに詰めかけた観客の人気も群を抜いていた。そしてピットには、現オーナーと、マキのシャシー設計者でコジマの車体設計も担当した小野昌朗氏が交歓する光景も見られた。
一方でSOEはF1マシンだけではない。ル・マン24時間を日本車として初めて制したマツダ787Bの日本仕様といえる787B JSPC仕様、さらには今もル・マン活動を継続するトヨタの出世作TS010、そして’90年前後に国内グループCで無敵を誇った日産R92CPらが、会場を多いに沸かせた。
とはいえ初日、土曜はこの秋一番の冷え込みと小雨によって、コンディションは決して良好ではなかった。夕闇の迫る中、ポルシェ907やホンダS800、プリンス・スカイラインのS54Bといった黎明期の日本グランプリや国内ツーリングカーレースに出走したマシンが、コース上でバトルする様は、さながら耐久レースのようだった。
今年もSOEには、’90年の日本GPで2位に入ったロベルト・モレノや片山右京らゲストが詰めかけたが、SOEはジェントルマン・ドライバーやサンデー・レーサ―の天国でもある。’60sヒストリック・フォーミュラと、旧い2輪で構成されるモーターサイクル・ヘリテイジも、それぞれのグループで熱いバトルが繰り広げられた。
またレジェンドは4輪だけにとどまらない。鈴鹿というホンダのお膝元だけに、ここでしか見られないスペクタクルがあった。エディ・ローソンが1990年に、故加藤大治郎が2002年に駆ったそれぞれのNSR500、’97年のミック・ドゥーハンのチャンピオン・マシンやヴァレンチノ・ロッシのRC211Vらがデモランを披露したのだ。しかも乗るのは、伊藤真一と玉田誠、宮城光に清成龍一という豪華メンバーだ。
いずれ、SOEを通じて驚かされるのは、日本のモータースポーツと鈴鹿の歴史資産というコンテンツの豊かさだ。そのスペクタクルや鈴鹿を攻めるというチャレンジを求めて、欧米から参加者が、そして国内の観客も増えているという局面だろう。
さらにリシャール・ミルのホスピタリティ内では、土曜夜に震災復興支援のチャリティも毎回、行われている。今年は日本未発売でパリとドバイでしか手に入らなかった「RM030 パリ・サンジェルマン」がオークションにかけられ、他のイベントでの募金と合わせ、2012万4435円がNPO団体や熊本に寄付された。
文・写真:南陽一浩 Words and Photography: Kazuhiro NANYO
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