正確無比な走りから"プロフェッサー"と呼ばれたアラン・プロスト。彼の名を冠したリシャール・ミルの新作モデルは、熱中している自転車レースに必要な機能とデザインを開発。極めてパーソナルな個性を持つハイコンプリケーションだ。
良くも悪くも、時計ブランド「リシャール・ミル」にはマーケティング戦略が存在していない。コンセプターであるリシャール・ミル氏がイメージする理想に向かって、素材や機構、あるいは構造に対して"予算の制限なく"開発を進め、それを支持するファンが手にするという、幸福な関係が出来あがっているのだ。
それゆえリシャール・ミルの時計は極めて高価なのだが、他にはない独創性がある。車好きは時計好きだといわれるが、リシャール・ミルを好む人は、例外なく突出したハイパフォーマンスカーを好む人々でもあるのだ。マーケティング戦略を好まぬリシャール・ミルは、アンバサダー戦略も変わっている。
通常は旬な俳優やサッカー選手に多額のスポンサーフィーを提供し、ブランドの顔としてイベントに参加してもらう。しかしリシャール・ミルの場合はそういった対象を "ファミリー" と呼ぶ。ブランドの世界観に共感し、前例なきチャレンジに情熱を燃やす人々を、ファミリーとして迎え入れるのだ。そのため、伝説的な人物が起用されることもある。アラン・プロストもそのひとりだ。
1955年フランス出身。1980年に名門マクラーレンから F1デビュー。4度の世界王者となり、1993年に引退。終生のライバルだったA・セナとのレースは、今でも多くのファンの脳裏に刻まれている。現在はフォーミュラ E の「RENAULT e.DAMS」の共同オーナーであり、チームはコンストラクターズ部門で三連覇中。ドライバーには、実の息子であるニコラス・プロストを起用する。
F1界のレジェンドであるアラン・プロストは、ドライバーとしての輝かしいキャリアを終えたあとは、F1チームの運営に関わり、現在はフォーミュラEに参戦する「RENAULT e.DAMS」の共同オーナーとして、チャレンジする日々を送っている。そんな彼の名を冠した「RM 70-01 トゥールビヨン アラン・プロスト」は、なんと彼が愛している自転車レースがテーマになっている。アラン・プロストやサイクリストとの協議を重ねた結果導き出されたのは、前代未聞のオドメータ(走行距離計)付きのトゥールビヨンだった。
これはサイクリストが走行距離を積算するために生み出された機構で、12時位置の窓から見える5ケタの数字を自分で操作するというもの。言葉で書くと単純だが、2時位置ボタンで動かす桁を決め、10時位置ボタンで数字をひとつずつ送っていくという仕組みは、かなり難解で複雑。これを機械式機構で実現させてしまうというチャレンジ精神と遊び心こそが、リシャール・ミルの面目躍如であり、マーケティング主導では決して生まれない個性といえよう。
さらに着用感を考慮した左右非対称ケースも特徴。これは自転車に乗っている時にも、時計が見やすいように考慮された形状だ。ケース素材はカーボンTPT®を使用しており、軽いのに頑強。さらには軽量金属であるチタンでムーブメントのパーツを製作しているため、耐衝撃性能にも優れている。
各所にロードバイクのインスピレーションが:レース用ロードバイクのチェーンを思わせるリュウズのデザイン。大型ケースだが柔らかにカーブしているので着用感に優れる。
強度とデザイン性を兼ね備えたケース:カーボンTPT®素材は、カーボンファイバーシートを何層も重ねた軽量で頑強な素材。これを丁寧に切削することで、ケースを作るのだが、その際に縞模様が現れ、独特のルックスに仕上がる。
このような時計は、いまだかつて存在していなかった。とはいえ、そういったモノはリシャール・ミルでは当たり前のこと。トレンドやセオリーとは無縁だからこそ、リシャール・ミルの時計は魅力であり、目の肥えた人々を惹きつけるのだ。
ちなみにこのモデルの発表イベントは、2018年に復活するフランスGPの舞台、ポール・リカール サーキットで行われた。こういった車好きの心を掴む小技を利かせてくるのも、リシャール・ミルの上手さである。作り手が一番楽しんでいるからこそ、時計も魅力的になる。それこそが真理である。
RM 70-01
トゥールビヨン アラン・プロスト
アラン・プロストの名を冠したトゥールビヨンウォッチ。12時位置にオドメータを備えており、二つのボタンを駆使して操作する。99999まで表示できるので、01203という感じで表示させて、"手動式カレンダー"として使うことも可能。このモデルを購入すると、コルナゴ社が製作したオリジナルのロードサイクルも付属する。世界限定30本。手巻き、カーボンTPT®ケース、ケース縦49.48×横54.88㎜。予価9400万円(税抜)
文:篠田哲生 Words::Tetuso SHINODA
リシャール・ミル
http://www.richardmille.jp/
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